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信玄の湯を巡る #静かな温泉旅 (2)Seasons

少し前に、山梨県の「信玄の湯」湯村温泉と「信玄の隠し湯」下部温泉について書き始めました。

今回、その続きというわけではないものの、春夏秋冬の湯村温泉、下部温泉について書いてみようというわけです。
(信州上田編と同じ流れで)


春は桃源郷

春の山梨県は、いろいろな花が一斉に咲きます。
特に果樹園の桃の花が咲くので、桃源郷なんて言いますよね。まさに「桃色」。

3月のある日、日帰りで甲府へと出かけました。
もう何だか日常に煮詰まってしまい、どこかへ出かけたい気分だったものの1泊する時間はない、という状況。
それで、日帰りでもいいから、というわけで。

特急列車に乗れば、首都圏からは1時間そこそこで、甲府に着いてしまいます。
山梨県に入り、いくつかの長いトンネルを抜けると、甲府盆地を見渡す眺めのいいところへ。
車窓を見てほしいからなのか、電車が少しスピードを落としたような気がしました。

やがて甲府盆地の中へ出て、平地を走り抜け、甲府駅に到着です。

まずは駅ビルの屋上へ。
この日は天気が良く、町の向こうに雪をかぶった山々が見えました。山梨県にやって来た。

次に、町に出てお昼を。
甲府の駅前のあたりはランチ営業している飲食店が多くて、どこも美味しそうで困ります・・・
行列ができることもある有名なお蕎麦屋さんがあるのですが、すぐ入れそうでした。
ここで、名物「甲府鳥もつ煮」がついている定食を、がっつりと。

その次は、温泉。
甲府駅のバスロータリーから、湯村温泉へ向かうバスに乗ることにします。
バスは系統がいろいろあって、どれに乗ればいいかちょっと分かりにくいのが難点。乗るときは少しだけ不安に。

バスの案内所で、湯村温泉に行くにはどの乗り場から乗ればいいかを聞くことができました。
バスがその乗り場にやってきたら、運転手さんに、湯村温泉に行きますか、とまず聞いてみます。
最初に来たバスは「行きません」だったので、その次の「行きますよ」と言われた言われたバスに乗り。
甲府駅から湯村温泉までは、バスの本数が多いので何とかなります。

15分くらい乗って、湯村温泉入口というバス停で降りました。
昼下がりの郊外という感じで、あまり人も歩いておらず。

湯村温泉の温泉街には共同浴場はありませんが、その代わり、温泉宿に日帰り入浴ができます。
湯村温泉の宿の多くが、宿の敷地内に湧く温泉を使っています。
中でも、ネットの情報でお湯が良いと聞いていた宿に行って、日帰り入浴をお願いしてみました。

ホテル、を名乗っていますが、ホテルっぽさはない宿。
ぬるくて気持ちのいいお湯。そして、ほのかに温泉の香り。十分に堪能しました。

2か所以上の温泉を巡ることを、湯めぐりとか、はしご湯とかいいます。
いい温泉ってエネルギーがあって、入っていると疲れてしまい、普段はあまりその類はしないのですが、今回は「おかわり」の気分でした。

1か所目の宿からすぐ近くにある、古びた宿へ。数年前に泊まったことがあり、とてもいいお湯だったのです。
玄関前に「ご入浴700円です。源泉かけ流し」という手書きの看板が立てかけられているのを発見。
少し前まで「都合により休業させていただいております」という張り紙だったような記憶があり。復活に嬉しくなって、入ります。

フロントで700円を払って、階段を上って降りて、ぼろぼろの暖簾をくぐり、温泉が静かに湧くお風呂に入りました。
湯村温泉のお湯は熱すぎず、長湯、はしご湯ができていいものです。

すっかり湯村温泉を堪能して、またバスで甲府駅に戻ってきました。

もう夕方。日帰りなので、そろそろ帰らないといけません。

駅から近い、人気の居酒屋さんがちょうど開店するところでした。
電車の時刻を気にしつつ、1人前の小さなほうとうと甲州ワインとをいただきます。
山梨県の白ワインはほうとうに合います。この組み合わせが好きなのです。

食べながらですが、いつも甲府から帰るときは、後ろ髪をひかれるというのでしょうか、名残惜しい気持ちでいっぱいに。
引っ張られるほどの後ろ髪が生えているわけではないですが。

夏はぬる湯

山梨県の温泉の多くは、温度があまり高くない「ぬる湯」。
温泉のお湯は熱くなくちゃ、という方も一定数おられますが、ぬるい温泉も良いものです。
じっくり浸かって、その温泉を堪能できるのがぬる湯の良さ。

湯村温泉もぬるめですが、下部温泉はもっとぬるいお湯に入れます。ぬるいというか、冷たいお水。
(注: 源泉温度50℃の温泉に入れる宿も下部には多くあります)

まだ温泉旅を始めて間もない頃、夏の終わりに下部温泉に泊まりました。
少し前に、日帰りで初めて下部温泉に行き、この水風呂にまた入りたくなったのです。宿泊するのは初めてのこと。

電車で下部温泉駅に着いてから、まずは駅から近い宿で日帰り入浴をお願いします。
ここの宿も宿泊する候補だったのですが、あいにくこの時は泊まれずだったのでした。

千円を払い、湯気の気配がしないお風呂場へ。

上がってロビーでくつろいでいると、宿の方から、もう上がられるんですか、と聞かれました。小一時間は入っていたはずなのですが。。
そう、下部温泉のぬるいお風呂は、長風呂がスタンダード。

宿を出て、下部川に沿って緩やかな上り坂を歩いていきます。
道の途中「風林火山」と書かれたのぼりが並んでいます。ここは甲州、甲斐の国。

下部温泉の宿の数は10件ちょっと。
うち数件は駅前にあり、残りは1キロ余り離れた温泉街にあります。
駅から離れた温泉街にある宿に泊まる場合は、たいてい宿の車が迎えに食てくださるのですが、今回はてくてくと歩いていきました。

チェックインすると、宿のご主人に、歩いてきたんですか、と驚かれ。
お部屋に案内され、仲居さんにお茶を入れていただき、一息つきます。
そうしてから、地下の大浴場へ向かいました。

水にじっくり、包まれます。
お風呂の脇を小さな蟹が歩いていました。お風呂の外はすぐ、下部川。

お風呂から上がり、夕方の温泉街を少し散歩してみました。
廃業してしまった宿や、営業しているかどうか分からないお店も目立つ温泉街ですが、生活感もそれなりにあります。

放送が流れてきます。「5時です。お家に帰って、今日あったことを、お家の人に話しましょう。」
今日あったことを話す相手はいませんが、そろそろ夕食の時間なので、宿に戻ることにしました。

お食事は、古びた食堂風の広間でいただきます。

ワンドリンク付きプランでしたが、ビールはワンドリンクの対象外ということで、ウーロン茶を注文。
仲居さんがあくせくとテーブルを回り、飲み物などを配っています。

山奥の宿ですが、お刺身が美味しい気がしたのは、もしかしたらここ下部が、山梨県の中でも南側、静岡県寄りだったからなのでしょうか。

食事を終えて、また大浴場へと。
誰もいないお風呂場。プールのような湯船につかり、仰向けになってみると、天井が結構高いことに気づきました。

長く浸かっていると、いろいろなことを考えます。
これまでのこと、これからのこと。

あれこれ考え事をしていたのに、どんなことを考えていたのかは覚えていません。

お風呂にはひとりしかいなかったので、調子に乗って、少し口笛を吹いたら、予想以上に響いてしまい、恥ずかしくなりすぐやめました。

口笛で吹いたのは、何故だかオフコースの「言葉にできない」。

秋はヌーボー

山梨県の秋の風物詩のひとつに「山梨ヌーボー」があります。
11月3日は文化の日ですが、山梨県の英雄、武田信玄の誕生日でもあります。この日、山梨県産の新酒ワインが解禁されるわけです。
(厳密に言うと、甲州の白ワイン、マスカット・ベーリーAの赤ワインがここで解禁になります)

そんな11月の山梨はイベントも多くやっていますが、ヌーボー解禁とは関係なく、11月の上旬に下部温泉に泊まったことが。

河口湖近辺で山歩きをしてから、路線バスで下部温泉に泊まるという計画です。
山頂までは無事に登れたのですが、落ち葉で埋め尽くされた中を下っていくうちに道に迷ってしまい。
時間ばかり過ぎていき、焦りつつ、不安になりつつ、何とか下山したのでした。

下部温泉に行くバスにもかろうじて間に合い、ひと安心。
バスは紅葉のトンネルを抜けて、本栖湖の脇を通り、山を越えて夕方に下部温泉へと着きました。最後まで乗ったのは自分だけ。
下部温泉駅と温泉街との中間の、何だか中途半端な場所がバスの終点でした。

今日の宿に電話をかけます。
お迎えに来てくださるそうですが、バス停の場所が分からないとのこと。
周囲に何があるかを説明すると、分かりました、とのことで、すぐに青緑の車がやってきました。

物静かな宿のご主人に呼ばれて助手席に乗ると、1分そこそこで宿の前に着きます。

フロントで鍵を受け取り、階段を上ってお部屋へ入り、荷物を置き。
また階段を降りて、地下にあるお風呂に入ります。

下部温泉といえば、ぬるいお湯。ですが、この宿の温泉は熱めでした。ぬる湯ではお目にかかれない、湯けむりが。
下部温泉では平成になってから、温泉街の奥で新しい源泉を掘ったので、実際には多くの宿が、熱めの温泉を引いているのです。

11月の夕方はひんやりしていて、その上、登山で怖い思いをしてきた後。
この時ばかりは、温かいお湯が本当に身に染みて、冷たいお風呂でなくて良かった、です。

お風呂から上がって、温泉街の酒屋さんに行ってみました。山梨ヌーボー解禁のタイミングでしたが、特に新酒は置いておらず。
フルボトルを買っても飲み切れないので、ハーフボトルのスパークリングワインを買いました。

そうしてお部屋に戻ると、食事が用意されていました。
嬉しいお部屋食です。

冬はオフ

12月になると、静かな冬がやってきます。
ワイナリーも、冬は比較的仕事が落ち着いているらしく、じっくり見学するなら冬が良いといいます。

山梨県の温泉の多くはぬるめなので、静かに入るなら、ワイナリーと同じで冬がいいのかもしれません。
熱めのお湯が好きな人は、敢えて寒い季節にぬるい温泉に入ろうと思わないかも知れず。

ある年の年末、2泊3日で湯村温泉と下部温泉とをはしごしました。
最初は下部だけの1泊2日で考えていたところ、仕事納めを1日早めることができたので、急きょ、湯村温泉での1泊を追加します。

いつもなら甲府までは特急列車で行くのですが、この時は普通列車でのんびり行くことにしました。
いわゆるロングシートの電車で、景色は真正面と背後を流れていきます。
青春18きっぷのシーズンだからか、席はかなり埋まっていました。

普通列車は途中の駅で長く停車しては、後からやってくる特急列車に抜かれていきました。
お尻がごわごわとして座り疲れてきたころに、甲府盆地のフラットなところに出ました。少し長旅に感じました。

駅ビルでお正月用に飲むワインを何本か購入し、荷物がずっしり重くなり。あとはバスで湯村温泉の宿にチェックインするだけ。

フロントで宿帳を書くと、宿のご主人から、夕食はどうするか聞かれました。朝食しかつけていないプランだったのです。
「甲府鳥もつ煮」を食べたいですと言うと、鳥もつ煮はそば屋さんが発祥なので、そば屋さんで食べるといいですよ、とのこと。

ご主人が、温泉街のそば屋さんに電話をかけてくださったのですが、電話が通じなかった模様。
閉店しちゃったかもなあ、なんて言われます。温泉街の飲食店あるある、ではあります。
鳥もつ煮はあるかどうか知らないけど、と、別な居酒屋さんを教えてもらい、行ってきました。
鳥もつ煮はあったので、赤ワインと一緒にいただきました。もちろんワインは、山梨県産です。

宿に戻ると、お部屋には布団が敷いてありました。
その後でお風呂に入ります。お風呂場の窓は換気のためか少し開いていて、そこからロックギターの音が漏れ聞こえてきました。
宿のお隣はライブハウスだったようです。

翌朝のお食事は、食堂に用意されていました。
予約サイトにはお部屋食と書かれていた記憶があったのですが、あれ?
解せぬ、というのが頭を回り、味はよく覚えていません。

チェックアウトし、今日はまず武田神社にお参りに行ってみようと思います。
武田神社は、かつて武田信玄公が暮らした館の跡。信玄公も、馬に乗って湯村のお湯に入りに来たに違いなく。

馬はないので、バスで甲府駅に出て、そこから武田神社を目指そうと思い、近くのバス停へ。
バス停にはピンク色の紙が貼られていて、見ると年末ダイヤなのでバスの本数が少ないです、と書かれています。
かなり待つようなので、仕方なく歩いてみました。少しでも武田神社に近づければと。

ただ、前の日にワインを買っていたので、荷物が重く。。
タクシーの営業所を見つけ、そこからタクシーで武田神社まで向かいました。

お参りしてから、坂をまっすぐ下って甲府駅へ。
冷たい空気が澄んでいるせいか、駅の向こうの山々がきれいに。

甲府からは、身延線の特急列車で下部温泉へ向かいます。
下部温泉駅からゆっくり歩いて、温泉街の奥にある蕎麦屋さんでお昼をいただいてから、この日の宿にチェックインしました。

ここの宿では、昔ながらの下部のぬるいお風呂に入れます。
下部温泉のお風呂は、ぬるいお風呂と、その隣に熱めのお風呂が用意されていて、交互に入ると体に良いのだとか。

ただ、この時は寒い年末。
ぬるいお湯は、ぬるいを通り越して冷たく、気合いで入り、しばし我慢。
そんな寒中水泳っぽいことをしている自分をよそに、他のお客さん達は、お隣の熱いお湯に集まって入っていました。

おわりに

湯村温泉と下部温泉。
何度も通っているうちに、いつの間にか春夏秋冬、いろんな季節に出かけていました。

今回出てきた宿、路線バス、飲食店など。今も営業しているものもあれば、もうなくなってしまったものも多く。
何だか挽歌みたいになってしまいました。

それでも、昭和の感じは今も湯村と下部に残っています。

続きはまた、後日書いてみます。
ありがとうございました。

ここまでご覧くださり、ありがとうございました。 今後も静かな温泉旅をしつつ、noteを書いていければと思います。 サポートいただけたら嬉しいです。