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つばくらめの去る季節に

晩夏の夕どき。

川沿いをジョギングする私を横目に、ツバメたちが颯爽と追い抜いていく。

「遅いなぁ」と言わんばかりだ。

小さな羽を、めいっぱい広げて、風を掴みながら、自由自在に飛び回る。

そんな姿を目にするだけで、思わず心も身体も弾んでしまう。


・・・


あれは、何年前のことだろうか。

今の家に越して来た頃のこと。ツバメの夫婦が我が家の軒先に巣をつくったことがある。

親鳥が食事を運んでくると、雛鳥は「たくさん頂戴」と、高い鳴き声をあげていた。

翌年も、またその翌年も。

だけど、あるとき。カラスの襲撃に遭い、雛鳥が巣から落ちてしまったことがある。

次の年から、ツバメたちが我が家を訪れることもなくなった。

それでも、軒先に巣は残したままである。


・・・


ジョギングを終え、家に帰ると、今はもう使われなくなったツバメの巣が目に入った。

ツバメたちが、もうここに戻ってくることはないのだろうか。

だけど、冬を越したら、きっと近所にやって来る。

また来年も、元気に羽ばたく姿を見せてほしい。
一緒に走れる、その日まで。