眠り姫と蛇と私(たまたま聴いていたセカオワの曲に感謝する)

 いつもと同じ道を歩いていた。ローソンやセブンイレブンやGEOやスポーツジムがならぶ大通りから二筋入った住宅街。ここですれ違うのは車ではなく圧倒的に歩行者や自転車に乗ったおじさん(なぜ自転車に乗ったおばさんとはすれ違わないのだろう)。
 とっとことっとこ歩いて駅に向かう。太陽光と異常なまでの気温のせいで汗がじんわりと背中にあふれて頭が焼けそうだ。いや、実際、この連日の猛暑で私の頭頂部は染めてもいないのにうっすら茶色になってしまった。
 歩いて歩いて2階建てのアパートの駐車場の縁石に目をやる。

「蛇だ」

それ以外のことは思わなかった。例えば、「動いて噛まれたらどうしよう」「危ない」「気味が悪い」といった感想をもたなかったのはあまりにも立派な蛇だったからだと思う。
 結論をいえば死んでいたのだ。しっぽはとぐろを巻いて頭は少しアスファルトからういていた。全体的にとてもツヤツヤしていたので死んでいるとは思いもしなかった。
 後になって、(これもまた向こうから『歩いてきたおじさん』が蛇に近寄って足先でつついたのだ)死んでいると分かったわけですが。

 発見当初「蛇だ」と思ってからしばらくその場で立ちすくんでいたが、その後「ヒャクトーバンだ!」と考えスマホを耳にかざした。
 3分後にやってきたパトカーから一人の交番勤務のお巡りさんが降りてきて「先ほど通報してきた方ですかね?」と言った。私は「はい」と。そこで『歩いてきたおじさん』が蛇に足をやるとお巡りさんまで、「死んでますね」と淡々とめんどくさそうに言うのでした。
 「あの、僕知らなかったんですけどこーゆうのって市役所の管轄みたいで...」とお巡りさんが堂々と私の隣に立って声をかけてきた。
 決まり手は「次からは市役所の○○課に連絡してください」で、その場はあっけなく終わったのですよ。

 なんだかなあ~と時間を無駄にしたような変な疲労感をかかえて駅に着きました。電車にのりました。スマホにイヤホンを差し込みました。YouTubeで音楽を聴きました。セカオワの眠り姫。〈君はいつの日か深い眠りにおちてしまうんだね。そしたらもう目を覚まさないんだね。このまま君が起きなかったらどうしよう。そんなことをかんがえながら君の寝顔を見ていたんだ〉

翌日、蛇はまだそこにいました。

え?

せめて処理すらもしないの?

ねーねーお巡りさん...。

 善意は必ずしも報われない、ということを痛感した出来事でした。

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