見出し画像

手前味噌って褒め言葉に使うことある? ◆ 水曜日の湯葉120[3/20-26]

3月20日 水

行きつけのカフェで原稿をやろう、と思ったらすさまじい混雑。そうか今日は祝日か。春分を忘れるとは宇宙SF作家の名折れだ。家で仕事ができないタイプなので、あきらめて漫画を読んで過ごす。

『アカギ』の最初のほうを読み返す。鷲巣麻雀編の直前に仲井という九州弁の敵キャラが出てくる。こんなやついたっけ? アカギと1対1の勝負をすると見せかけて、実は両脇の2人とグルだったという話だが、全体を通じてびっくりするほど見どころがない。通しのサインをアカギに見抜かれ、急遽サインを変えたらそれも読まれ、そのまま負けて終わる。そりゃ印象に残らない。

ここまで「いかにも強そうな雀士が現れ、アカギがその上を行って倒す」という展開で進んでいた本作で、この仲井は登場シーンからしていかにも無謀な挑戦者である。賭金も30万円と少なく、アカギも相手をナメてかかっている。で、本当にあっさりアカギに負ける。なんだったんだこいつ。弱そうなやつが本当に弱いという意外性のなさにびっくりした。

読んでいてふと思いつく。こいつが弱者ならではの搦手でアカギが意外な苦戦を強いられたら、これまでのアカギの圧倒的な強さとの対比で、かなり仲井にファンがついたんじゃないか? ベルセルクのセルピコみたいに。人間の何倍もある魔物を野菜みたいにばさばさ斬り倒すガッツに、人の身でありながら勝負を挑んで、明らかな実力差がありながらも地の利を使って善戦し、「けんかがうめぇ!」といわしめたあのセルピコさんみたいに。

とはいえ、話を盛り上げるために「意外に苦戦するアカギ」なんてものを出したら、アカギという男の純粋さが濁ってしまうと作者は判断したのかもしれない。ストーリーの面白さよりもキャラクターの純度を優先した結果がこの盛り上がらないバトル、と考えると納得もいく。アニメで全カットされたのも納得がいく。

仲井が出てくる巻(Amazon アフィリエイト)


3月21日 木

ここから先は

3,417字 / 6画像

文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。