見出し画像

人類はいつホログラムを諦めたのか ◆ 水曜日の湯葉123

「Apple Vision Pro を体験しませんか」というお誘いを頂いて「ぜひぜひ」と都内に向かった。メタバースとか空間コンピューティングとかを扱ってる企業の方がアメリカから密輸入(比喩表現)してきたもので、1時間ほど触らせていただいた。

どう撮っても反射が避けられないデザイン

数年前 Meta Quest 2 を使っていたが、ひと目でわかる違いはコントローラーがないこと。操作は目線と指でする。ホーム画面でアプリのアイコンを「じっ」と見て、親指と人差指を合わせればアプリが起動する、といった具合だ。機械の操作に目線を使うなんて初めてなので新鮮だ。人間の操作にはたまに使うけど。

Meta Quest 2 はコントローラーがついて値段も Apple の20分の1と大変お得

ユーザーインターフェースは Apple らしく執拗なほどに作り込んまれている。仮想空間にいるときも自分の手だけ実写で切り抜くとかキモい技術を平然と備えているし、現実世界に人がいたら影がうっすら見えるのでさまざまな事故(下記画像)を未然に防げる。ブラウザを指でスクロールするとか、ウィンドウを指でつまんで引っ張るとかそういう操作はなんの予備知識もなしにできる。

さまざまな事故の例

一方でハードウェアとしての完成度はそんな高くない。バッテリーを有線でつないでポケットに入れるのはひと目でわかる減点ポイントだし、そのお陰で重さは意外と気にならないが、計算量が多いゆえに発熱は気になる。日本の夏にこれを着けて歩くのはちょっと想像したくない。

この覆い(Light Seal)なくなってもいいのでは

デモとして見せてもらったのは、現実の空間にネットから引っ張ってきた3Dモデルを置くなどの「よくあるやつ」だった。Meta Quest やスマホで何度も見たやつである。ただクオリティは段違いで、机に3Dモデルを置くとちゃんと影ができる、部屋を暗くするとモデルも自然に暗くなる、といった作り込みが実に Apple だった。売る側として「こんだけ作り込んだんだから50万円で売りたい」というのは納得できる。買う側の目線はさておき。

あとはこちらの企業の独自技術として、Vision Pro を着用した複数人が空間の同じ位置に同じものを浮かべて見る、というデモを体験させていただいた。これはエアホッケー的なスポーツに応用できそうだ。50万円の機器を使って走り回れるか、という疑問はさておき。さておくことが多いな。

ただ自分を含めた皆さんの興味はそういう技術要素ではなく、結局「これ」の時代は来るのか? という話であろう。インターネットの時代は来た。スマートフォンの時代も来た。生成AIの時代もどうやら来るようだ。Web3 の時代は来そうにない。メタバースの時代はちょっとわからない。

おそらく Vision Pro を(あるいは Meta Quest 3 などもっと廉価なデバイスを)使って、XR的な面白コンテンツを作ることはできる。ただ、この世界はすでに面白いもので満ちているので、いまさら新しく面白いものを作っても、それは流行になるだけで時代にはならない。

これは私見だが、時代を作るのは何かを付け足す道具ではなく、何かを省く道具である。電話は直接会いにいく面倒を省けるし、自動車は長距離を歩く面倒を省ける。生成AIは実にさまざまな手間を省ける。だからそれぞれひとつの時代を作ることができた。
(Web3 はインターネットから中央集権型の構造を省くのがコンセプトだったが、大半のネットユーザーはそんな構造の存在を意識していないので、それが省けると言われても魅力を感じない)

ここから先は

3,420字 / 1画像

文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。