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電子ペーパーの世界を見たかった ◆ 水曜日の湯葉122[4/3-9]

4月3日 水

ファミレスに行くたびに思う。注文用タブレットがうるさい。注文を終えたらさっさと暗転して、こちらがタッチするまで待機していてほしいのに、新メニューの宣伝やキャンペーンの情報をギャンギャン出してくる。いまどき動画広告というのは「無課金者への罰」という立ち位置なので、金を払ってるのに広告を見せられるのは精神的に容認しがたいものがある。しかしこの手のタブレットは画面をOFFにするスイッチが封じられているため、紙のメニューを上からかぶせて黙らせる。紙のメニューが必要な理由はここにある。

使ってない Raspberry Pi 4B が手元にあるので、これに電子ペーパー(E-ink)画面を付けて天気予報とかを出すサイネージを作れないか、と思って調べたが、電子ペーパーがどうにも高い。いや高いことは知っていたが、それ以上に供給量が少ない。欲しいスペックのものがだいたい品切れている。うーむ。

電子ペーパーは液晶画面と違い、画面を表示する時ではなく、画面を書き換える時だけに電力を使う。つまり同じ画面を表示しっぱなしにするのであれば、液晶よりもはるかに少ない消費電力で済む。ついでにそれ自体が光らないので目にも優しい。

したがって、レストランの注文端末とか駅のサイネージとかいったこの世のかなりの画面は(原理的には)電子ペーパーのほうが向いているはずだが、あいかわらず液晶に比べて普及する気配がなく、Kindle 端末とビックカメラの値札くらいでしか見かけない。このため技術も進歩せず、カラー化も大型化もままならない。

僕自身はまだ Kindle が日本上陸する前に Kindle Keyboard を個人輸入するくらいの E-ink フリークだったので、「もう少し技術発展の順番が違えば、電子ペーパーが普及する世界もあり得たのでは?」と思ってやまないし、ファミレスの騒がしい液晶画面を見るたびに「電子ペーパーだったらこんなことにはならなかった」と嘆いている。

なぜ世界はこんなにも光る画面で覆われているのか。これはテレビがまず普及し、ブラウン管を備えたパソコンが普及し、そこからインターネットが普及したからである。電信の自動印刷機みたいなところからインターネットが始まっていれば、FAX が現実より遥かに高いレベルで発達し、そこから印刷物ベースのネット空間が構築されたこともあり得た。そうなれば世界は「テレビの延長」である液晶画面ではなく、「印刷物の延長」である電子ペーパーで覆われていたはずだ。あなたが夜中にスマホを見すぎて睡眠障害になっているのも、世界がその道をたどらなかったからである。


4月4日 木

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