コンピテントセル作りについて

たまにふと思い出す。一度も効率が1x10^9 colonies/1 ug of plasmid を超えたことが無かった。確か1000個コロニーできたら10^9になるような系でだいたいいつも400個くらいという感じだったと思う。どうしたら^9オーダーになるのか誰か教えて欲しい。専業主婦だけど。元職場ではわりと高い効率のコンピがないとめんどくさい仕事をしていたので、結構頑張って作っていたのだ。大学の研究室に伝わっていたプロトコルでも、元職場で伝わっていたプロトコルでも、1x10^9で免許皆伝みたいなこと書いてあったし、ネット情報でも~1x10^9ってよく書いてあるけど、一度もそんな高効率になったことがないのだ。

※このアカウントは実名アカウントに近い気持ちで使っているので私が誰だかわかる人がわかる分には別にいいと思っている。読まれてまずいようなことは書いていない。

使っていたのはDH5αで塩化カルシウム法だ。私がやってみて重要だと思った要素は、
・18℃で培養すること
・菌体量がたくさんある方がいいこと(OD0.7-0.75を目指す)
・手早く作業を行うこと
の三点だ。初めて教わった時に、懸濁するときにとにかく泡を立てるな、とは教わったので、これも重要なのかもしれない。また、学生の頃は集菌後は低温室で作業していたが、元職場では氷上で済ませていた。分注するエッペンなど菌体に触れる実験器具は予め冷やしておいていた。あと、これをやって大丈夫だったという乱暴なやり方としては、
・菌体が早く殖えすぎた時に緊急的に培地を追加して希釈してやればいけた
・菌体がなかなか増えない時に一日経ってる前培液足してもいけた
というのがあるのも情報として書いておく。

以下に安定して^8オーダーになっていたプロトコルを書いておく。特殊なことやってるわけではないし書いて大丈夫だよな。。。保育園のお迎えなどもあり集菌時間をある程度制御できることを最優先しているプロトコルになる(時間帯指定ver.と呼んでいた)。

用意するもの(容器などすべて滅菌)

おこす用 LB plate 1 枚
前培用 LB broth 2 mL(15ミリファルコンとか)
バッファ(一般的なPIPES入りのやつ)(一回で200mLくらい使う)

最後に懸濁するバッファ入れる用50mLファルコン
1 本250 mL 容遠沈管 2-4 本
本培用 SOB broth 500 mL in 500 mL bottle
本培用2Lひだ付きフラスコ
ディスポのピペット(10mL) 2-3 本
ニップル 1 つ
DMSO (終濃度7%にする)
エッペン たくさん
えきち
効率チェック用 LB+Amp plate 2枚
(緊急用にSOB broth 500mL くらい冷えていると安心)

一日目
コンピのエッペンを凍ったままがりがり突っついて, LB plate にストリーク37℃, o/n ↓
二日目
朝単コロニーをつついて 2 mL LB broth で 37℃, 濁るまで6時間くらい培養
     ↓
本培用SOB brothを2Lフラスコに100mL入れ、 振盪機と一緒に 18℃ にしておく(残りの400mLは瓶に残しておく)
     ↓
濁度計測の brank 用に少し培地を確保する
1~1.5 mL 前培液を100mL SOB broth に植える
(前培の残りはRTでいいので残しておく)
18℃, 200 rpm(回転), 一晩とりあえず培養する
      ↓
三日目
朝昼夕3-4回濁度を計って対数増殖期の近似曲線だす
(エクセルで計算用のシートとグラフを作っておく。片対数グラフで近似曲線書かせて時間とか予測する)
(殖え方が遅い場合は前培液を足してもいい)
(使ってたDH5αは倍化時間5時間30分くらいになることが多かった)
残りのSOBや緊急用SOBも18ºCで待機
     ↓
増殖時間を計算し、翌日集菌するのに都合の良い時間にいい濁度になりそうなことを確認しつつ、残りのSOBbroth400mLを足し入れる
(濃すぎる場合は緊急用SOBも使う)
(緊急用入れても足りない場合はすでに培養している分を減らしてもいい)
(吸光度計のせいかもしれないけど、濁度の上がり方は加速していく傾向があるように思える)
      ↓
四日目
朝イチでとりあえず濁度を計って殖え方とよさげな集菌時間を確認する
(ODは0.85まで行くと効率が下がった。0.4とかだと単純に菌体が少ないのでとれる本数or効率が減る感じ。0.8くらいがいいのかもしれないけどODが上がるほどいいところで止めにくい)
(ここで殖えすぎてたら緊急用SOB入れて時間稼ぎもできる)
     ↓
集菌 1hr 前に、遠心機とローターを冷やす
250 mL 容遠沈管, バッファ, チューブラックなどを氷上で冷やす
     ↓
振盪を止めた培地を遠沈管に均等に移してから、氷水中で 10 min 冷やす
     ↓
遠心, 4500 rpm, 10 min, 0℃
     ↓
上清捨て約150 mLの バッファに完全に懸濁する
     ↓(遠心が減速してからここまで 6~8 min)
遠心, 4500 rpm, 10 min, 0℃
     ↓
上清捨て40 mL バッファに完全に懸濁する
     ↓
3 mL DMSO を加え, よく混ぜる
     ↓
エッペンに分注したそばから十分な量のえきちに放り込む
※エッペンの底を先に一瞬浸して凍らせた方が液面がきれいで使いやすい
     ↓  
-80℃ で保存(遠心が減速してからここまで15~20 min)
     ↓
形質転換効率のチェック
①1 μL, 1 ng/mL なんかプラスミド  + 100 μL コンピ
②①のプラスミドがない(TE or H₂O)バージョン
     ↓
on ice 10 min
     ↓
42℃, 50 sec
     ↓
on ice 4 min 以上
     ↓
全量 を LB+Amp plate にまく
37℃, o/n ↓
五日目
①コロニー数を計ってコロニー数/ug DNA を算出(コロニー1000個で 1×10^9/ug DNAになる)
②コロニーがないことを確認


だいたいこれで500mL SOBbroth全部使って午後1時くらいに集菌みたいなスケジュールだったと思う。早いと朝イチになったり遅いと夕方になったりはする。前培養を前日からやって増殖が止まってるくらいのを使うとぶれなくなる可能性はあるけど初めの頃そうやってた気がするのでよくわからない。初めに100mLで培養してるのは、いきなり500mLだと殖え方が遅かったのだと思う。多分。

パッと思いつく試してないこと:
・濁度によるコンピテンシーの推移
・最後に懸濁するバッファの量を減らすと単純に効率が上がるのか
・残存した培地はどれくらい影響があるのか
・DMSO入れたあと静置してないのでその影響
・遠心するときのgと時間の影響
・低温室でやった方がいいのかそんな影響ないのか(元職場では遠心機の位置的にちょっと無理があった)
・トラホメの方の影響(使うプラスミド、混ぜ方、菌液のボリューム、ヒートショック方法や冷やす時間、前培してないこと)

前に調べてから多分五年くらい経っているけど、その間に誰か詳しく検討してたりしないかな。論文探すのはめんどくさい。

別にこれでできた^8オーダーのコンピでも十分(10uL/sampleあれば余裕)だが、^9でたら一人前みたいなのあるじゃん。何が鍵なのかがいまだに気になっている。

以下は菌体数当たりの効率みたいな計算

プラスミドは 1 ng/mL=1 pg/uL
これを1 uL 使うので 1 pg/100 uL 菌体液
プラスミドの分子量は、約 3000 bp だったので
650 Da/bp * 3 kbp ≒ 2*10^6 g/mol 
プラスミド1つ当たりの重さはこれをアボガドロ数で割って
2*10^6 / 6.02*10^23 = 3.32*10^(-18)
プラスミド 1 pg あたりの分子数は
1*10^(-12) / 3.32*10^(-18) ≒ 3*10^5

菌体の方は、
OD1≒ 8*10^8 cells/mL らしいので
500 mL の本培養液に含まれる菌体数はこれを使って、
OD 0.75 x 8*10^8 cells/mL x 500 mL = 3*10^11 cells
これがバッファとDMSOと菌体合わせて 50 mL の懸濁液になったとすると
3*10^11 / 50 = 6*10^9 cells/mL
これを 100 uL トラホメに使っているので使った菌体の数は 6*10^8 個 
600,000,000 六億
使ったプラスミドの分子数は 3*10^5 個
300,000 三十万

菌体の数の方が核酸の2000倍あるんだな。あれ、じゃあ使う菌体の量がもっと少なくてもコロニー数が変わらない可能性もあるんだ。この辺ずっと気になってたんだよな。

ちなみにプラスミドをあらかじめ10uLのバッファで希釈してそれを全量コンピに入れても特にコロニーが増えたりしなかったので、プラスミドが菌体に入るとしたらだいたい一匹につき一個と考えていいのではないか。またプラスミドを100uLのトラホメ用バッファで希釈して全量入れたらコロニーの数は1/6になった。菌体とプラスミドの濃さも大事なのかな(ヒートショックの熱の伝わり具合が影響している可能性とかも否定できないが)。

菌体一つにつきプラスミド1個入るとして、1000個コロニーができたとしても、菌体でいえば60万分の1だしプラスミドで言えば300分の1なんだな。プラスミドでいうと結構確率高い気がしてきた。となるとプラスミドのコンディションも関係ありそうだな。。。

ていうかプラスミドの分子数が菌体に対してこんなに少ないと認識していなかったな。あくまで「プラスミドがどれだけ無駄なく利用できるか」という感じなのか。プラスミド1pgに対して菌体どこまで減らせるのかも試してみたいな。

あと18℃でやるのは高めの良い感じの濁度で止めるためだけの可能性があるので、途中まで37℃で培養にして時間短縮できるかどうかもずっと気になっている。あと単コロニーつつく必要が無ければストックのコンピをそのまま前培液として使えないのかなとかも気になっている。

だれか教えてor試してほしい。


追記

知らない人がもしいたら気の毒なのでシームレスクローニングについて書いておこう。あんまり情報収集してない先生の下にいる学生さんとかどっかにいるよな。

私が仕事を辞めてからも結構経ったのでだいぶ普及してるんだろうか。シームレスクローニングは、プラスミド用のDNA断片を制限酵素とリガーゼで切ったり貼ったりする従来の方法と異なり、ベクターとインサートの末端に11ベースだったかのオーバーラップを作っておいて両方大腸菌にぶち込むだけで、大腸菌の持っている修復酵素が働いてつながったプラスミドを作ってもらえる、という手法だ(ったと思う)。制限酵素部位を作らなくていいのでベクターとインサートがシームレスにつながる。

この方法を知り、実際に使えてしまった時、正直「今までのあれは何だったんだ」と思った。目的のプラスミドこさえるために認識配列検索しまくってプライマー発注してとかしてた帰りの電車の中、マンションか何かの車内広告の「~…こころあたたまる~…」という文字列が制限酵素の認識配列に見えた日のことは忘れられない。

制限酵素とリガーゼの話はタンパクの機能や生き物の仕組みの機械っぽさを説明するのにちょうどいいけど、シームレスクローニングの話は大腸菌の生き物性みたいなのとクソ便利な道具性みたいなのを説明するのにいいよな。こっちが主流になると高校生物での記述のされ方も変わったりするんだろうか(もうされてる?)。すでに退職して大分経ってるし子供はまだ小さいので、世の中的にどうなってるのかさっぱりわからない。何を今さらという感じだったら恥ずかしいが、ただの専業主婦という身分なのでまあいいだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?