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35歳とタトゥー

20歳前後の頃、タトゥーを入れたくて入れたくてたまらなかった。
入れる場所やモノをよく考えていたし、今も考える。
悩んでいるうちに周りの友達ではタトゥーを入れる子もいて、
「やっぱり入れようかな」
「でも……どうしよう」
という中でずっと迷っていた。
入れたいのは、かわいいから。これは理解できない人には全く理解できない感覚だと思う。でも、タトゥーがかわいくオシャレに見える人には、タトゥーというものは途方もなくかわいく見える。
入れるのを迷うのは、家族からの反応や、日本での社会的な立場の悪さ(温泉・銭湯好きだし)、隠していかなければいけない煩わしさ、バイトや就職活動での弊害、消えないことでの流行の廃れや飽き、入れた数年後の後悔などを考えるこどなどから。

だれかのかわいいかったりかっこいいタトゥーを見ると、発作的に「入れたい!」と思ってしまい、それを定期的に繰り返していた。衝動的に入れたい。でも、理性がそれを邪魔をする。思い切れない自分にがっかりしたりもした。

18歳くらいのころからずっとこの葛藤はあったのだけれど、わたしはあるとき一つの答えを出した。たぶん21くらい、イタリア留学していた時だ。当時のルームメイトが腰にタトゥーを入れていて、結構ぽっちゃりだった彼女の腰からは、(入れた当初からはたぶん拡張されたであろう)タトゥーがいつもだらしなく見え隠れしていた。そしてそれを見るたびに、私は迷っていた。そして彼女の腰を見ながら、ある日私は決意した。

ふたりでミケランジェロ広場に行き、他愛もない話をしていた。そんな折、私は彼女に向かって唐突に「私、タトゥーで決めたことがあって」と話し始めた。
「35になって、それでも入れたかったら入れるわ」
それが私が出した答えだった。ルームメイトは、「いきなり何言ってんだこいつ」という顔でしばらく沈黙していた。(当たり前である。)
私の考えはこうだ。今の自分は学生で、これからのことを考えるとタトゥーは(日本では)弊害になることしか考えられない。でも、入れたい。ただ、まだ社会に出ていない自分には社会的に見た善悪の判断がちゃんとつかない。でも、35歳になっていたら、きっとある程度社会的地位も築いているだろうし、判断もできるだろう。その後に入れたのだったら社会でも許容されるだろうし、そこまでたっても入れたかったら本当に入れたいんだと思う---それが私の出した結論だった。いま出せない結論は未来の大人の自分に託したのだ。
ルームメイトの反応は、
「はあ?」
だった。「なんで? いま入れるからいいんじゃん。35で入れてたら逆にイタイ。それよりだったら今入れて、あとになってから『20代の頃に入れちゃってエヘヘ』って言った方が言い訳が立つ」とも言われた。
ごもっともである。ぐうの音も出ない。
ルームメイトは呆れていたが、それでも私は入れないことにした。
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そして先日。コーヒーを淹れながらふとそのことを思い出した。そして気がついた。私はいまちょうど35歳だと。
結局タトゥーは入れていない。でも、いまだに入れたいなとは思う。たぶん入れないけど。
理由は、若い頃と違って痛みへの耐性が全然なくなったので、単純に痛みを我慢してまでタトゥーを入れることに価値を感じなくなってしまったからだ。それに、入れるのもお金がかかるし、メンテナンスにもお金がかかる。(タトゥーはインクが薄くなってくるので適宜入れなおす必要がある。)それに、万が一いらなくなった場合の切除はその何倍もかかる。そこにお金をかけるよりだったら、本とか読みたいな、と思う。旅行や美味しいものを食べるのもいいな。
それに、振り返ると、私は結構カタいところに就職してたので、更衣室で着替え中に「あの子タトゥーがあるよ」とか噂にならなくてよかった。隠す手間もなくて時間の節約にもなったな。タトゥーを入れていた場合を考えると大概のことについては大したことなく思えたので、自分の趣味等についてはある程度のことを大っぴらにしていた。なので、事務職で受付なのに戦闘機のTシャツを着ながら仕事したり、職場の忘年会とかにはコスプレして参加したりしてた。タトゥーを入れていなかったおかげで忘年会にコスプレ参加できてたと思うと感慨深い。

でも、いまだに入れたい気持ちはあるので、ヘナタトゥーはたまに入れている。私の場合は1週間くらいで消えてしまって、その都度「やっぱりタトゥーを入れようかな……」とも思うんだけど、「でも、この手軽さが飽きなくていいんだよな。痛くないし」とも思う。タトゥーについては、たぶんこうやって一生迷うんだろうな。まあそれもいいかなと思う。

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