愛を減らす

悩んでいる。

吉本ばななさんが以前エッセイで書いていた。
「私は親切の方法が『下町』。例えば、店の経営がうまくいっていない友人を「よっ、借金王!」と揶揄うが、週末はみんなでその店に押しかけるなど、裏では手厚くフォローして支える。ただ口の悪さから誤解を招く事も多い。
「辛い時に頭を撫でてあげる」みたいな真っ直ぐな愛情表現は自分にはできないが、そういう類の親切に救われた経験もある」。
あんなにやさしく、やわらかく、愛情を描く人なのに、実生活は若干無骨モードなのが意外だったので、印象に残っている。まあ、下町気質は小説にも出ているけれど。

私はどちらかというと「真っ直ぐ派」だ。感謝やお礼はすぐさま言うし、してあげたい事は可能な限り早めに行う。自分に対しては結構適当だけど、歳を重ね、人に対してはフットワークが軽くなった。人生の残り時間を意識し始めたのと、突然の別れなど、色んな経験を積んだのが主な理由だ。
身近な人、大切な人、あるいは関わらなければならない人に対する私の姿勢は基本ひとつだ。
「受容」である。
その人を丸ごと受け止めて、対応する。それが私の愛情表現だ。
例えば苦手な人なら、背景や状況をよく把握し、そのままの姿を認める。端的に言うと多様性の肯定だ。現状を俯瞰で見て、冷静に観察さえできれば「そういう考え方もあるよな」「ああいう環境に居れば、こうなるのも仕方ないかな」「自分にもすこーし、そういう部分ってあるかも」とか思える。そうすれば大体は受け止められるのだ。距離の作り方は関係性によるけど。
親密な関係性の場合は、とにかく丸ごと受け止めて、一生懸命大切にする。もちろん、愛情があるからと言って、相手の全てを認められるわけではない。自分にとって「何だかなあ」と感じる事も、出来るだけフラットに受け止め、消化しようとする。
人は変わらないし、変えられない。でも自分の在り方や対応は変えられる。
そもそも、相手の言動で引っかかる部分というのは、大体自分にも原因があるものだ。つまり、誰かと摩擦が起きる時というのは、自分が無意識下で問題だと思っている部分に向き合うチャンスなのだ。そこで自己対峙と研鑽を重ね、関係性を育てる事は可能だ。

自分は、歳をとって頑固になるのが一番怖い。新しいものを受け入れられくなり、視野が狭まり、明晰さが失われているのに経験だけ振りかざして空威張りしている人をたくさん見てきた。ああはなりたくない。
「無知は罪」が座右の銘なので、世界に対する好奇心や驚きを失うことだけは避けたい。柔軟に物事を受け入れられる器をキープしていたい。そのためには、たゆまぬ学びと謙虚さ、観察眼が必須だ。様々な事柄を受容しようと心を砕くのはその一環である。一言で言えば修行みたいなものだ。

この対処法は、自己成長を促せて器を広げられるところが気に入っている。
ただ、そうやってると、結構なめられることも多い。「こいつになら何やってもいいだろ」みたいな人が必ず出てくる。
苦手な人や距離のある人なら割に平気だ。「ああ、そういう人なんだなあ」と思うだけだ。それ以上でも以下でもない。距離を徐々に離して、深入りしなくなる。
ただ、これが好きな人や、親密でいたい人だと結構きつい。あれもこれも受容しなくてはならないのか…、とパンクする。
キツさを緩和するのにはいくつかやり方があり、ベタなのは「愛情を減らす」。心的に距離を作れば感情がやわらぐから。私は、たとえ身内であっても、無理に好きでいる必要はないと思っている。我が身を守れるのは自分だけだから。
ディスカッション出来そうな相手なら、素直に打ち明けて、妥協点を探る。でも、これも結構難しい。自分の気持ちを分かってもらえる事の方が稀だ。「こんぐらいならいいだろ」って思い、それがどんどん叶えられて、「じゃあこれも」ってなって来た人には、こちらがどんだけ苦しんで対応しているのか分かってもらえないから。

今、まさにそんな状況にある。
ここ最近、身近な人との関係性で悩んでいた。何度かディスカッションも試みた。その場は丸く収まるけど、その後はあんまり変わらなかった。
愛情を減らさざるを得ないのかもしれないなと思う。大切に考え育んできた関係性なのでとても悲しいが、今これ以上何かあると自分が壊れてしまう。
原因は自分が卑小で、器を広げられないことだ。あと依存心も。求める気持ちが強すぎるのは分かっており、自分の卑しさに押し潰されてもいる。
己の小ささを認めるのは悔しいが、事実なので仕方ない。今の自分に出来ることを、少しずつやっていくしかない。

そうは言いつつも、まだぐちぐち悩んでいる。これ見て思い当たる方は連絡ください(私信)。

仕事の合間のコーヒータイム。

休み休み、前に進みます。
お休み中は、哲学本から小説まで溜まりまくってるので、読書しようかなと。執筆も少ししか進んでないので、しっかりやります。

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