見出し画像

たかが成分表示、されど成分表示

ほとんど人は、洗剤の成分表示などには興味はないかもしれません。ほら、容器の裏面とかに表記されてる細かい成分とか使用上の注意とか、そういうやつです。

とあるお店で、たまたま目にした洗剤の成分表示が、めちゃくちゃでした。多分、この洗剤を開発しているところは、成分表示のルールについてあまり理解していないんだろうというような感じでした。

が、問題なのは、そんな洗剤は、普通にお店で販売されていることです。しかもそのお店は、良い商品をセレクトしてお客さんに届けることを第一にしている僕も大好きな素敵なお店なんです。店員さんも商品についてできるかぎり正しい知識をつけ、お客さんにしっかり説明していこうとされてる、本当に素晴らしいお店です。

なのに、成分表示がめちゃくちゃな洗剤をセレクトしてるということには、すごく吃驚したのと同時に、なるほど、この分野については、殆どの人はきちんとした知識もなく、どちらかというとメーカー側の言ってることをそのまま鵜呑みにしてしまう傾向が強いのかなぁと思ったんですね。

僕はその洗剤の中身がどうだとか、性能がどうかと言うつもりは全くないんです。ただ、いちおう洗剤などの成分表示に関しては、家庭用品品質表示法というルールが法律で定められていて、それに則った表記が必要です。そこはちゃんとしたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。

別に表現上の細かい間違いを指摘するつもりはありません。家庭用品品質表示法上はかなり細かく色んなことが決められてますが、多少の表記ミスは大した問題ではないと思ってます。ただ、ここは間違えちゃいけないだろう、というところはあります。

それは、品名とその成分についての関係のところです。ここはすごく重要だと思うんです。その製品が何であるか?を表すところだからです。
そこが適当だと、そもそもその商品が謳ってることが本当かどうかも分からなくなります。

その洗濯用洗剤の成分表示は、こんな感じになってました。

品名:洗濯用石けん
成分:界面活性剤(ヤシ油24%、アミノ酸、グリセリン)香料

これは見る人が見たら、すぐに間違いだということが分かります。

「洗濯用石けん」という表記は家庭用品品質表示法で定められたルールを満たすものだけ表記できる

品名に「洗濯用石けん」という表記がありますが、家庭用品品質表示法では、「洗濯石けん」と表記できる洗剤は厳密に決められていて、それは界面活性剤に「純石けん分」以外の界面活性剤が含有してないこと、と決められてます。

「純石けん分」以外の界面活性剤が入ってないので、そもそも成分に「界面活性剤」という表記がでてくるのがおかしいのです。なので見た瞬間、なんだこれ、表記ルールむちゃくちゃやんと、突っ込みを入れてしまいました。

「洗濯用石けん」という品名になる場合、成分の表記には必ず、

純石けん分( XX% 脂肪酸カリウム) 

というような記載がないといけません。「純石けん分」という表記の後に、括弧の中に、石けんの種類と配合率を記載する、これもルールで決められてます。括弧の中は、「脂肪酸ナトリウム」か「脂肪酸カリウム」、どちらか、あるいは両方になります。

「純石けん」も家庭用品品質表示法で定義されてる

家庭用品品質表示上での「純石けん分」として定められているのは、「脂肪酸ナトリウム」か「脂肪酸カリウム」だけです。なので「洗濯用石けん」という品名表記になる場合は、必ず、上記のような表記が使われないといけないのです。

「石けん」という意味では、「脂肪酸ナトリウム」「脂肪酸カリウム」以外にも、例えば、「アミン石けん」などもあります。しかし、家庭用品品質表示法上は、これは純石けん分にはならないんです。

上記の間違い成分表記にも、界面活性剤に「ヤシ油」と「アミノ酸」というのがあります。

ものすごく石けんに詳しい人であれば、ヤシ油脂肪酸を、苛性ソーダなどの一般的なアルカリ剤ではなく、アルカリ性のアミノ酸であるアルギニンなどで中和して石けんは作れるので、そういう「石けん」なんじゃないかと思う人がいるかもしれません。

ただ、家庭用品品質表示法では、ヤシ油とアミノ酸で中和した石けんは、「純石けん」とは今のところ認められてなかったりします。

「洗濯用複合石けん」と「洗濯用合成洗剤」とは何か?

さて、「洗濯用石けん」ではなかった場合、この洗剤は「洗濯用複合石けん」か「洗濯用合成洗剤」かのいずれかになります。

「洗濯用複合石けん」になるか「洗濯用合成洗剤」になるかは、純石けん分(脂肪酸カリウム/ナトリウム)が、界面活性剤中、どれぐらいの比率入ってるかで決まります。

洗濯用複合石けん」は、純石けん分の含有重量が界面活性剤の総含有重量の70%以上のものになります。70%以下は「洗濯用合成洗剤」となります。

界面活性剤の括弧の中に「ヤシ油」「アミノ酸」「グリセリン」というような記載がありますが、これもよくわかりません。括弧内の表記は、通常、界面活性剤の名称を入れますが、「ヤシ油」「アミノ酸」「グリセリン」は、界面活性剤ではありません。

この洗剤が「洗濯用複合石けん」の場合で考えてみると、成分表記は下記のようになります。

成分:界面活性剤【○○%、(純石けん分(○○% ヤシ油脂肪酸カリウム)、○○% アミノ酸系界面活性剤)】、香料

洗濯用複合石けんには、必ず「純石けん分」が含まれていて、それは必ず、界面活性剤中、70%以上含まれてることになるので、「界面活性剤」の内訳として、必ず「純石けん分」が最初に来て(成分の記述は、成分量順番に記載しなければならない) 、その後に、他に配合されている界面活性剤の名称と配合率を記載される形式になります。

元のラベルでは、

界面活性剤(ヤシ油24%、アミノ酸、グリセリン)

という表現になってましたが、「ヤシ油」も「アミノ酸」も、界面活性剤の名称としては正しくありませんし、「グリセリンン」は界面活性剤ではありません。

家庭用品品質表示法上では、「アミノ酸系」という表記は認められており(「系」がついてるついてないの違いが大きい)、これは「アミノ酸系界面活性剤」のことを表します。 ここで記載されている「アミノ酸」が、「アミノ酸系界面活性剤」のことを意味するのであれば、少なくとも「アミノ酸系」と正しく記載する必要があります。

「ヤシ油」というのも界面活性剤の名称としてはありません。これはもしかしたらヤシ油からできた「純石けん」のことを意味しているのかもしれませんが、その場合は、きちんと「純石けん」と書いて、括弧でその種類の名称を表記する必要はあります。

ただ、「ヤシ油」から生成される合成界面活性剤もありますので、この「ヤシ油」が、合成界面活性剤のことなのか、純石けん分のことなのかはわかりません。

ついでに...表示必要のない成分、必要な成分について

化粧品は、薬機法という法律ルールに則って成分表示が必要で、化粧品の場合は「全成分表示」というのが前提にあります。つまり、入ってる成分はすべて表示しなければなりません。

一方、洗剤や洗浄剤などは、家庭用品品質表示法という別の法律によって成分表記のルールが定まっており、その基本は、配合量が1%以上のものを表記するというものです。

ただし、1%未満でも、「蛍光増白剤」「酵素」「漂白剤」は含まれてる場合には表記が必要です。また、界面活性剤についても、1%未満でも含まれてるものについては表記が必要です。

1%以上含まれてる成分については、その成分の機能の名称を示す用語を用いて表示し、含有率が10%以上のものについてはその成分の機能の名称の次に括弧書きで種類の名称を示す用語を用いて表示する。

というルールになっています。

成分表示がテキトーなのは良くないと思う理由

成分表示は、独自のルールもあり、一般の方はよくわからないところも多いかなと思ってます。ほとんどの人は、成分など気にせずに、商品の謳い文句やキャッチコピーを参考に、あ、これ良さそうだな、というぐらいで選んでられるでしょう。

でも、たとえば、色々な理由から、どうしても合成界面活性剤が配合されてるものを使いたくないという人もいます。(ちなみに、僕らは合成界面活性剤が悪いとは思ってません。)

そういう人たちにとっては、「石けん」かどうかが、商品選定の目安になってることもあり、成分の「石けん」「複合石けん」「合成洗剤」の違いには敏感だったりします。

僕らも「SOMALI」という「石けん」にこだわったブランドを展開してますが、SOMALIのお客さんの中には、合成界面活性剤を使ってないから使ってる、という方が少なからずいらっしゃいます。

品名に「洗濯用石けん」とあれば、それは石けんだと信じて買う人も沢山いると思うのです。それが、実は中身が違うということであれば、それは大きな問題です。

石けんじゃなくても、中身は石けんと同じぐらい安全だとか、石けんよりむしろ環境に優しいみたいなことが仮にあったとしてもです。それは食品偽装で、美味しければ産地偽装しててもいいじゃんという論理と同じようなものかなと。 そうではないんじゃないかと思うのです。 

洗剤や化粧品などの化学品は、めずらしく生活者側より圧倒的にメーカー側のほうが知識がある分野です。ネットで調べればだいたい何でもわかるこの世の中で、化学品の情報は、あるにはありますが、かなり偏った、あるいは間違った情報が氾濫してます。間違った情報を元に、また誰かが間違った記事を書いたりして、正確な情報を得るのは、非常に難しい分野です。

その中で、この成分表示は、法律で表記ルールが定められている部分でもあり、すごく重要な情報の「拠り所」の1つだと思うのです。なので、成分の偽装は絶対にやってはいけないことだし、間違いも減らしていかないといけないものだと思ってます。

今回、取り上げた会社さんの洗剤も、おそらく家庭用品品質表示法のことをきちんと理解しないまま、商品の販売を始められたのだろうと思います。今の時代は、誰もが簡単にメーカーになりえる時代です。それは決して悪いことではありません。これを機に、成分表記についての知識も得て、正しい情報を伝えていくように意識が変わればいいなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?