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昔話。検索エンジン登録代行サービスをどうデザインしたのか?

前職では検索エンジン登録代行サービスなんてものをやっていたんです。若い人には何のこっちゃ分からないと思いますが、昔は検索エンジンが沢山あって、サイト作ったらいちいち登録しないといけなかった時期があったんです。とりあえず集客の第一歩は数多ある検索エンジンに登録する、そんな時代だったんですね。

参入障壁がめちゃくちゃ低いサービスだったこともあり、物凄い数の似たようなサービスが立ち上がりました。そして殆どのサービスは程なくして消えました。

大半のサービスは登録可能な検索エンジン数で差別化しようとしたんです。最初は20の検索エンジンへ登録とか50サイト登録ぐらいのレベルだったのが、そのうち世界1000の検索エンジンに登録とか2500に一括登録とか、どれだけ沢山の検索エンジンに登録できるかをアピールするようになっていったんですね。如何に安く沢山の検索エンジンに登録できるかの競争です。

沢山の検索エンジンに登録するには、当然、システム化が必要です。人的に対応しているわけにはいかないので、どこもかしこも一括自動登録の機能を磨くんです。といっても、各検索エンジンのフォームにデータを流し込むだけなので大したシステムではないんですが。検索エンジンによって登録フォームの仕様は微妙に異なるので、そこに合わせないといけないとか、必要なタイトルや紹介文文字数が違うので、それをどう処理するかとか、その辺に対応することが肝でした。新しいITベンチャーの市場なので、人手をかけないサービスにするのがセオリーだったんだと思います。

僕らはと言えば、登録数を多くしていく方には舵を切らず、むしろ厳選された、ちゃんと運営されている検索エンジンだけに絞っていく方針を取ったんです。そしてシステムや自動化ではなく、人的に丁寧に対応する、という真逆の道を選んだんですね。

お客さんから頂いたデータ(サイトのタイトルやURLや紹介文)は、人がちゃんとチェックして間違いがあれば修正します。意外と間違える方は多いんです。例えば、URLが少し間違っててそのまま登録してしまったら、いくら沢山の検索エンジンに掲載されても意味がありません。

また、検索エンジンごとに最適な紹介文やタイトルを作成するというサービスも提供しました。自動化の方向に舵を切ってるサービスは、お客さんに何十ものパターンの紹介文を入力させたりするものが多かったんですが、これはかなり面倒な作業です。なので、それをこちらで代行しようというわけです。お客さんのサイトをスタッフがチェックして紹介文を考えるんです。今ならAIとかでも出来そうですが、当時はすべて人が個別に対応してました。

検索エンジンに掲載されてるかどうか、掲載されてるとしてどんな風に表示されているかをチェックしてレポートするサービスなんかも用意しました。
普通の企業が検索エンジン登録代行サービスに仕事を依頼する時を考えた場合、とにかく沢山の検索エンジンに登録できるということよりも、「ちゃんとしてる」かどうかとか、社内の稟議を通せるレポートが出るかとか、そっちのほうが大事だと考えたんですね。これは大人気のオプションになりました。

電話でのサポートにも積極的に対応するようにしました。当時の似たようなサービスを提供する会社さんの大半は電話番号を明記してなかったと思います。お客さんから電話なんて掛けてこられたら、時間ばっかり取られて大変だ。そんな風に考えてたんだと思います。

僕らは、サービス全体で、とにかく人がしっかり対応する、ちゃんと対応することをウリにしたんですね。丁寧さとかチェック体制とか。電話対応も、人的にちゃんと対応していることの一つの象徴でもありました。

そして、一方裏側では人が色んな作業をするための仕組みやオペレーションを洗練させていったんです。競合は、お客さん側にセルフサービスでやってもらうためのシステムを強化させていってましたが、僕らは全然逆で、自社のスタッフが作業を早く間違いなく行うためのシステムとか、お客さんとのやり取りを漏れなく出来る仕組みとか、そっちを強化したんです。作業はあくまでも人がやる。人がやるから柔軟に対応できる、丁寧に対応できる。それが僕らのサービスの肝だったんですね。

案の定、僕らのサービスは企業からの依頼が増えたんですね。大企業からの注文もかなりありました。大量登録&自動化、格安をウリにいていたところは多分、個人とか個人に近い会社さんとか、そういうところの依頼が多かったんじゃないかなと思います。

大企業とかになると部門とか商品とかブランドごとにサイトを作ったりするので、一度使ってもらって問題なければ、そういう横の広がりみたいなものあるわけです。あと、広告代理店さんとか制作会社さんががっつり入られてるケースも多いので、僕らはそこと代理店契約を結んだりして、そうすると、とりあえずサイト作ったらお願いする、みたいな流れを作れるわけです。その辺の営業活動もかなり泥臭く人的にやってました。

僕らのサービスは平均客単価は確か3~5万ぐらいだったと思います。(※ヤフービジネスエクスプレスは登録審査料とかで5万とか10万とかしたとは思うけど、それは除いて。あくまでも自社のサービス料としての対価)
競合は価格の安さも追及しようとしてたので、1回の利用で1万円を超えるようなところはほぼなかったように思います。何千サイト登録2000円とか、3000円みたいな料金設定をしているところばかりでした。

今思えば当たり前なんですが、企業が何かの商品やサービスを購入する時に、2000円、3000円だけど「あやしいところ」と、3万5万するけど、「ちゃんとしたところ」なら、「ちゃんとしたところ」を取る会社さんの方が多いですよね。自身が発注する側になった時、有象無象ある中から選ぶのは、やっぱり信頼できるとか、人が見えるとか、会社としてきちんとしてるとか、そういうところじゃないかと思います。大きい会社になれば2000円だろうが5万円だろうが、予算とか稟議の範囲では大差なかったりもしますしね。

僕らは最盛期で、このサービスだけでアルバイトさん入れて20名弱ぐらいの所帯をまかっていました。売上規模も数億レベルあって、ちゃんと収益を上げられるサービスになっていました。一方で、競合の多くはどんどん消えていきました。参入は簡単だけど全然儲からなかったんだと思います。

うん。いや、ここでは便宜的に「競合」と書いたのですが、実際は殆どのサービスは競合ではなかったんです。表面上は同じサービスを提供しているように思えますが、サービスの組み立て方は全く違ってて、お客さんが何を求めるかの設計も全然違うし、お客さんの層や質も全然違ってたと思います。

なんて、えらそーなことを書いてますが、実は、僕らも最初から全て計算して狙ってサービスを組み立てたわけではありませんでした。とにかく人的な代行サービスを始めてみるかと、あまり深く考えずにスタートしたら意外と注文が来て、注文が来てからサービスを洗練させていった、というのが実際のところでした。全自動とか一括登録処理とかも、最初は技術力がなくて対応できなかっただけだったんですね。なので、スタッフが人的にやるということになり、人的にやれる範囲の中で、どう付加価値を上げられるのかを考えた。そんな順番だったと思います。それがたまたまうまくいっただけなんですけどね。

その後、ヤフーがビジネスエキスプレスを止めたり、検索エンジン登録が集客に対して意味ないものになっていく中で、僕らもサービスを終了させました。

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