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届いた箸の色が違う。そこから見えた心模様。

最近、箸は津軽塗のものを使っている。津軽塗というと、あのツルツルした表面のまだら模様を連想するけれど、それとはちょっと違うすべらない加工が施されたもので、とにかく使い心地が好み。以前津軽に住んでいたこともあり、強烈な個性を放つ青森の工芸品に思い入れがあるから、というのもある。

ところが先日、その箸が折れた。私のではなくて息子のなのだけど。お揃いで使っていたこともあり非常にショックだったし、やはり箸の使い方を覚えたての子どもにこそ使いやすい箸が良いとほぼ確信していたので、同じものを新しく買うことにした。これまた不思議なもので、良い箸を使うとなぜかご飯が美味しく感じるものなんですね。

ネットで探したら、運良くその箸を取り扱っているオンラインストアを見つけたので、息子用の小さな箸を買うついでに「そういえば私もお弁当用にもう1つあったらいいな」と思い、自分用の箸も買うことにした。

ちょうどその少し前に、私は職場に持っていくためのお弁当箱を2つ買っていた。黄色い花が標本のようにあしらわれたものと、淡い青を基調とした花柄のお弁当箱。それまでは箸箱はおろか箸箱に入るサイズの気に入った箸が見つからなくて、余った割り箸を使ったり息子のお下がりを使ったりと適当にしていたのだけど、食べるときに実は毎回感じていた小さなストレスのことを思い出した。

「この箸箱も箸も、好きじゃない。。全然このお弁当箱に合わない。。」

そう思いながら使いにくい箸を使い続ける道も確かにあるし、それで全然良い時もあるのだけど、自分の中の小さな望みに気づいてしまった以上はそれを無視しないでちゃんと自分の好みに現実を合わせてあげよう、と思い、買うことにしたのだ。そして、それらのお弁当箱に合う箸の色は、絶対にオレンジだった。

思いがけず箸が折れたことも悪くないな。私の理想がまた1つ叶うための出来事だったんだなと思いながら、届くのを待つこと数日。届いた箸の色は、赤だった。

「え?これ、オレンジじゃない。。なんで。。?」

確かに発注履歴には「オレンジ」と書いてあるし、納品書はもちろん現品にも「オレンジ」と付箋が貼られている。でも中に入っていたのは赤い色の箸だった。

例えば飲食店で頼んだものと違うものが来た場合はもちろん店員の方に伝えるけれど、私は基本的に来るもの拒まずで「縁あってこうなったんだろうな」とわりと受け入れるたちなので、今回も返品交換の文字は本当に全く浮かばなかった。お店の人が間違えたんだな、まあ赤は赤で良いか、と思った。

でもふと、このまま何も言わずにいて良いんだろうかという思いが頭をよぎった。今回のようなことが仮にまた繰り返されたとして、青森の工芸品(を作る職人さんやそれを売るお店の人々も含む)というものは本当にクオリティの高い素晴らしいものであるにも関わらず「発送時に色を間違える」という凡ミスごときで未来の他の購入者にがっかりされたくないな、と思った。私は青森というブランドをまるごと深く気に入っているし、その良さを広く皆に知ってもらえたら嬉しいと心底思っているのだ。

「じゃあ、分かった。このままでいいけど、色が違ってましたよ、というのだけは伝えよう。」という風に自分を納得させて、ちょっぴり勇気を出してお店に電話をかけてみることにした。

定休日だった。

「なんだ、定休日か。返品交換したい訳じゃないんだし、わざわざメールまでして伝えるほどのことでもないな。。」それで終わるはずだった。

そのとき、「本当に赤でいいの?オレンジが欲しかったんじゃなかったの?」という声が聞こえた気がした。

あれ。私は本当は何が欲しかったんだっけ。

そう思った瞬間、少し泣きそうになった。ああ、また私は自分の望みをなかったことにしようとしている。本当は気づいている自分の望みに耳を貸さず、なかったことにして周りに合わせ、本当はすごくつらいのに「助けて」も言えず病気になったことを、忘れたの?

もう二度と、自分の本音からはぐれない。どんなに小さなことでも、自分の望みを自分で叶える。私は私を守る。そう決めたはずなのに、こうしてまた無意識に「波風立てず自分が我慢すればそれでいい」をやってしまうの?

「本当に赤い色の箸でいいのか。」そう思いながら、お弁当箱の上に赤い箸をそっと並べて置いてみた。黄色い方はまあまだいいけど、青い方はもう絶望的に似合わなかった。だめだ。私はこんなことをしたいんじゃない。お気に入りのお弁当に合うお気に入りの箸で、お弁当を食べたいんだ。

やっと自分の望みを再確認し、あとはもう行動するだけ、という段階になった。そこで大事なことに気がついた。

「そういえばこの箸、箸箱に入るの?」

試したところ、あれ?入らない。どうにも箸が大きすぎる。だめだ、これじゃあオレンジ色の箸を手に入れたって持っていけないじゃないか。

だんだん笑えてきた。なーんだ、箸の問題だけじゃなかった。その箸を入れる容れ物のことを忘れてた。どんなにお気に入りの箸だって、それに合う包むものがなくちゃ、私はイヤなんでした。じゃあお気に入りのものに出会えるまで、もう一度ゆっくり探すことにしよう。

よし、箸問題、保留! 一気に勝手に 晴れ晴れとした気持ちになった。

こんな感じで私のランチタイムを豊かにする箸セットを探す旅はこれからも続きそうで、こういうのをひっくるめて「日常」というんだろうな、と思う日曜日だった。ものすごく人間的な過ごし方をしている自分をどこかで許しながら、自分は何が好きで何が嫌いなのかを自覚し、大事なことを大事にできる思考状態と環境をこれからも守っていきたいと思っている。

ありがとうございます!