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ハバナで想う。「老人と海」のサンチャゴはなぜアフリカの夢を見る?

ハバナからビニャーレス渓谷へ向かうバスの中、

ガイドはおケツのでっかい黒人おばちゃんでした。

国家公務員のプロ意識か、行きしなは始終しゃべりっぱなし。
まずは英語で説明し、次にスペイン語。相当なインテリです。

乗客は、スペイン、フランス、ドイツ、デンマーク、スイス、キューバ、ニッポンなど世界中から。

彼女が言います。

「皆さん、キューバって黒人の国だっていう印象あるんじゃないですか?」

確かにそんな感じがする。
野球のリナレスだって、高跳びソトマイヨールだってそうだし、カーニバルで踊ってるのも黒人ばかりが目立ってる。

「でもね実際は黒人はたったの9%。白人が65%で、残りはメスチーソ(混血)なの」

ちなみにお隣イスパニョーラ島のハイチは黒人95%。

キューバ島で原住民のインディオが絶滅しちゃった話は前に紹介しました。

「じゃあもうひとつ。ラテンアメリカの独立の英雄たちがどうして白人ばかりかわかる?」

南米各国を独立させたシモン・ボリバールやキューバの英雄ホセ・マルティらはみんな白人。

彼女の説明によると事情はこんな感じ。

白人はヨーロッパから渡って来たんだけど、現地に住み着いて、二世三世になると、母国の国籍はもらえなくなった。つまりクレオールってこと。
植民地にありながら、支配階層ではなく支配される側になる。
でも国籍ないから国に戻れない。
そして自らの権利のために戦うようになったと。

一方、黒人はというと、彼女はこう言います。

「私たちは連れて来られたの。アフリカから。特にカナリア諸島からが多かった。
自分の意思でなく、奴隷として。だからね、みんなアフリカに帰りたいの。
ラテンアメリカは祖国じゃない。だから独立のための英雄は出なかった。」

「キューバを知るためのための52章」によると
キューバに運ばれた黒人奴隷は70ー100万人。
その八割が19世紀に"取引"されたとあります。


なるほど。
アフリカに帰りたいって意識があるとは想定外でした。
数世代経過してもなおアイデンティティを求めて源へ。
確かにリベリアなんかはアメリカ黒人が建てた国ですね。

これで思い出したんですよ。
「老人と海」
ヘミングウェイです。

ハバナの漁師のお話。

老人サンチャゴはよく夢を見るんです。
アフリカのライオンの夢。

少年の頃、漁にでた先で見たアフリカ。

「金色にj輝く広々とした砂浜、白い砂浜、あまりに白く照り映えていて眼を痛めそうだ。」

砂浜にたわむれるライオンの夢を何度もみるんです。

もしかして老人は黒人?
そうだとしたら衝撃。
イメージがすっかり変わる。

小説に明記はありませんが黒人ではなさそう。
腕相撲で戦った相手をニグロと呼ぶし
アフリカの夢には船を漕ぐ土人が出てくる。

ということはカナリア諸島から渡ってきたメスチーソなのかな。
いずれにせよ夢は単に少年時代の思い出だけではなく
数世代に渡り漂流してきた血の源流が夢を見させているに違いない。
魚と格闘する壮絶な人生に行き着いた船出の砂浜への想い。

「老人と海」の世界に歴史の深みが加わりました。

老人がいたキューバの革命を成し遂げたゲバラはアルゼンチンの白人です。
そのことに違和感がありました。
でもわかったんです。
キューバにいる人は全部外から来てるってことに。
原住民は消えてしまったから。

カストロもそう言ってます。
我々はラテンアフリカンだと。

キューバは1975年に、自らの苦難は横におき、アフリカのアンゴラ軍事支援に赴きます。

それはキューバの原点の一つアフリカの民族を解放するために。
砂糖キビ畑で奴隷として国を支えたルーツたるアンゴラ。
それを率いているのが白人カストロ。
民族解放が外交の最優先課題であったと。

こうした世界観は日本人には持ち得ないなあ。

以上

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