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半月 : 妄想



やけに明るいと思ったら、
月が廊下に上がり込んでいた。

満月でもない半月の月でも
これ程までに明るいとは…。

「いらっしゃいませ。
 今年も宜しくお願いいたします。」

「ああ。
 どうも勝手にお邪魔しまして。
 少し休まして下さいまし。」

「ええ。
 どうぞ。
 この時間、
 この場所を使うのは泥棒さんくらいの
 ものですから、
 どうぞゆっくりなさって下さい。」

月は少しくたびれた様でもあったし、
ただすましている様でもあった。

「少し、お聞きしても…。」

月はちらっとこちらを見たが、
返事らしきものはなかった。

「今日のあれ。
 あれはあれですかね…。
 何か意味でも…。」

「なんでも意味を持たせたがる…。
 この世のもの全部、
 ぐるぐると回っております。
 誰が意味など知りましょう…。
 ……。
 ただね。
 あれはやっぱり疲れます。
 意味など知らなくても、
 みんな同じ膜で引かれあってます  
 からな。」

「そうですか。
 ……。
 今日のは、
 同じ膜ではなくて…。
 ……。
 なんと言いますか…。
 体内に入った異物を
 膜が取り囲んで、
 にょろっと体外に押し出すような…。」

「はあ。
 そんな感じがしましたか。
 はあ。
 なるほど…。

 同じ膜と思ってましたが…。
 そうかもしれませんな。

 そのせいですかな…。
 なんだか疲れておりますのは…。」

「いえ。
 貴方様なら
 なんでもご存知かと…。

 お休みのところ
 いらぬ事を…。
 ゆっくりお休み下さい。」

「ああ。
 どうも…。」

以前は、
膜とは別に、
細い細い粘ついた、
蜘蛛の糸がびっしりと
張り巡らされていた。
その糸の隙間が大きくなった矢先だ。

半月か
廊下で沈む時間も限られる。
月の角度が変われば、
もう廊下には居られない。
全ては
音を立てるほどぐるぐる回っている。

それなのに、
自分の興味に任せ、
下らないことをきいてしまった。

半月が
廊下に沈むその姿を
眺めればいいものを…。
光は徐々に薄くなり、
角度が変わると帰って行った。

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