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納豆キムチ : 独り言



おとといまで真夏日だったくせに…
凍てつく
前に進めないほどの風が吹いて…
空は淡い鉛色
レモン色の冷たい夕焼けが綺麗だった

君の頬は
冷たい風にさらされて真っ赤

レモン色の夕焼けをみたら
きっと君を思い出す

「レモン色の夕焼けが綺麗だね」
と言ったら
「きたない」
と、背中を向けた
きっと
今日の日を
覚えていたくないのかもしれない


別れ際
「元気でいるんだよ」
と、君の髪をくしゃくしゃに撫でた
君は戸惑いながらはにかんだ

そんな君を見て
この胸の感情を表す言葉を探したけど
どこにも見つからなかった

君はカーテンの向こうに消えて
「グッ バイ」
と言った

グッ バイ
グッ バイ
グッ バイ

光の速さで頭の中を駆け巡る

違うよ
シー ユー レイター
そう言えずに
「グッ バイ」
と私も返した



車に乗り込み
交差点で車が止まる
ビルの谷から
レモン色の夕日が真っ直ぐ
私を射貫く

やっぱり
レモン色の夕焼けを見たら
君を思い出すだろう

何故か泣きたい気持ちで
いっぱいになる

幸せなんかやって来ないのに
サヨナラだけはちゃんとある…

そう思ってしまった

そうだろうか?
幸せがあったから
サヨナラに胸を詰まらせるんだ
幸せが先
サヨナラが後
幸せとはなんと切ないものだろう
でも
確かに幸せはあったんだ

幸せは去っていく時にしか気付かない
ただ それだけのこと



家に着いて
無意識に
納豆キムチ丼を作る

「納豆を食べるならキムチを入れて
 キムチがないなら今すぐ買いに行っ
 て」
今日の夕飯を聞いてきて
『納豆』
と言うと
必ず君はそう言った

納豆をかき混ぜながら
鼻先が熱くなる
溢れるほどの涙が出たらすっきりするのに
涙はイチミリも出なかった

これから君の名は
納豆キムチだ
レモン色の夕焼けを見るたびに思い出す


シー ユー レイター
…そう言いたかったのに

出会った記憶はないのに
いつもさよならした記憶だけが
蓄積する

シー ユー レイター

私が村を作ったならば
みんなで一緒に暮らせるだろうか





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