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世界的材料不足と価格高騰は革業界には関係ない??

新型コロナウイルスの蔓延、世界情勢の変動による物価の高騰、円安……

こうした世の中の動向を受けて、モノ作りの現場は今、大きく影響を受け、さまざまな困難に見舞われています。

たとえば、私たちの社会に大きな影響を与えている半導体。電力の制御を主機能としており、コンピューターや電波を必要とするパソコン、スマートフォン、エアコン、炊飯器、テレビ、洗濯機など、身の回りにあるものに多数使われています。数年ほど前から深刻な材料不足と高騰化が取り沙汰されていましたが、なぜ、世界的な不足に陥ってしまうほど供給が減っているのかを、自分の持つ情報からお伝えできればと思います。

まず一つは、需要の急激な拡大。たとえば、新型コロナウイルス蔓延によるワークスタイルの急速なデジタル化は、半導体ニーズを2-3年は前倒ししたと言われています。半導体は設計から製造、出荷までに年単位のリードタイムがかかり、設計を除いた製造以降のプロセスだけでも、早くて3ヶ月、長ければ半年が必要となるため、急激な供給に対応することはできません。また、「クリーンルーム」という大変厳密な環境下でしか製造できないものもあり、長いリードタイムに加えて特殊な設備の維持管理が必要となると、安易に新しい工場を作るわけにもいきません。多数の企業が連携している半導体のサプライチェーンは、どこか一社がブレーキを踏むだけでも大渋滞が発生しますが、半導体においてはさらにその材料となる樹脂も不足しており、遅延が遅延を生む状態に陥っています。

では、皮革業界をはじめとするモノ作りの現場はどうかというと、やはり同様の状況が発生しています。

モノ作りの場では今、テキスタイル資材の一部が不足しており、特に先端技術を使用した生地は3ヶ月〜半年ほどのスパンで入荷が遅延するような状況にもなっています。不織布マスクの需要拡大、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に軍事需要も影響し、優先度合いの低いアパレル資材は後回しになっていることが要因と言われています。化学繊維の原材料は石油ですが、世界3位のエネルギー国であるロシアからの原油輸出が滞るのではないかという懸念から原油価格が高騰した結果、石油を必要とするすべての物価と物流に大きな打撃を与え、あらゆる物の価格高騰を引き起こしている2023年現在。

材料不足と価格の高騰化は、材料の囲い込みを招きます。資本の大きな企業が材料を囲い込み、大量発注・過剰に在庫を抱えた結果、中小企業には資材が全く行き渡らない事態が発生しているのです。。。

また、問題は人員体制にもあります。

新型コロナウイルス流行当初、生産現場はニ分されました。医療関係の物資は全く生産が追い付かない状況となる一方で、生活必需品以外のぜいたく品(奢侈品)や需要が減少した業界の品物を生産する現場で受注のほとんどがなくなりました。その結果、状況に適応するべく、職人を半減させた工場や、マスクなどの特需品の生産に切り替えた工場が次々に出たのです。

現在、新型コロナウイルスは2類相当に分類され、感染症と隣り合わせの生活は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるように思います。

発注数を落としていた業界も需要は回復傾向ですが、円安の影響によりこれまで比較的安価な人件費で依頼できていた海外の工場を頼ることがかなり難しくなりました。必然的に国内生産に切り替える企業が増えていますが、この数年間、生産人数を減らして耐え忍んでいた工場は、突然受注数が増えたためにパンク状態です。資材の納期が見えない上に、各社からの納期要求は厳しいものですが、急かせば急かすほどにミスは起こりやすいもの。その後始末でさらに工期の後ろ倒しに……と、ミスがミスを生む悪循環が続いています。

そのような状況を打破するためには新しい人材の確保が急務ですが、技術職は育成に時間がかかるため、逼迫した生産キャパシティが正常化されるにはかなり長い時間を要することが予想されます。

職人という仕事は、精巧で美しい日本のモノ作りにおいて欠かせない職業ですが、ITビジネスなどの新しい時代の職業と比較すると、給与水準が高いとは言えないのが現状です。機械による効率化、そして大量生産が安易になった今、人の手で生み出せるモノの数量には限りがあり、企業はそこから生み出せる利益、そして1人あたりの給与をシビアに考えなければならないからです。高い技術と生産性を持つ職人には、もちろん、相応の対価が支払われます。しかし、その技術の習得に長い年月を要するとなると、未経験者の参入は容易ではありません。

ここ最近ではどの業界も高齢の職人がその多くを占めており、跡継ぎがいないため廃業する工場や、継承の途絶えてしまう技術が後を絶ちません。

事業所数や就業者数が減少し、人口減少も進む中で、このままでは日本のものづくりの市場は拡大どころか維持することも危うくなっていくことは明らかです。今でさえ「日本製」の文字を目にすることは徐々に減ってきていますが、10~20年後ともなるとさらに希少になっていることでしょう。それだけ、現代において「人の手でモノを作る」ことは困難になっているのです。

材料不足、物価の高騰、コロナ以降の人員難……と、中小の製造業のみならず、モノづくりの現場は今、納期の見えない状況が続いています。生き残るためには、何が出来るのか。どうすればこの現状でも生産する状況を生み出せるのか。この状況を逆手に利用することは出来ないか、あらゆる仮説を立てて先読みを続けていくことが重要です。

ここ数年で、「例年」や「これまで」が常識ではなくなり、視野を広く持たない限りまったく先行きが見えない時代に突入しました。
だからこそ、より多くの情報を幅広く集めて、いち早く企業戦略に落とし込んでいく事が、今、求められているように思います。

しかし、どれだけ困難な状況でも「人の手でモノを作る意義」や、「人の手仕事へのこだわり」「日本のモノづくりの力」を信じ、yuhakuはその一員として信念と使命感を持ち、これからも望んでいきたいと考えています。


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