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長編小説『becase』 18

 でんぱちという男性に会ったのは、私の家の近くにある小さな定食屋で、私が何気なしに店に入り、いつも座っているカウンターの一番端の席に座り、「焼き魚定食を」と言ったその瞬間に「今日は、一人か!」と声を掛けてきたがそのでんぱちだった。

会社を辞めて三日後の昼。私が驚いて振り向くと、大口を開け愉快に笑っているそのご老体が見える。嗄れた声で、顔中に張り巡らせれた皺と辺り構わず生えた髭、清潔感という言葉があまりにも似合わないその男性の前には豚生姜焼き定食が置かれている。

この定食屋の人気メニューであり、私の彼がいつも食べていたそれだ。私と彼はこの店によく来ていたし、そのでんぱちという男性の存在も知っていた。ただその人がでんぱちという名である事なんて知らなかったし、それを聞いたってでんぱちなんて名はどうせただ適当に言っている名だろう?とさえ思ってしまう。それくらい彼を取り巻く空気がいい加減そのものだった。

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