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ラーメン戦記

 暖簾をくぐると店員に空っぽのドンブリを手渡される。何に使うか店員に問うてみれば、「頭に被ってください」という返答。何が何やら分からないまま、いわれるままに被ってみると、案外、頭にフィットする。帽子ではなく陶器であるから、いささか重みはあるものの、安定感は抜群だ。

「三番射出口、スープ出ます!」

 威勢の良い声が響き渡り、熱帯雨林のスコールさながら、凄まじい勢いで頭上からスープが降り注ぐ。ずぶ濡れだ。寸胴鍋をひっくり返したような有様で、体中が豚骨くさい。頭髪だけはドンブリに守られて無事ではあるが、そういう問題ではない。顔に張り付いた背脂の塊を手でぬぐい落としつつ、白い長靴をはいた店員に声を掛ける。

「すみません。おしぼり貰えますか」

「え、あの、当店のご利用は初めてですか」

「はい」

「ということは、おしぼりのご利用も初めてですよね。大丈夫ですか。初めての人には、なかなか難しいと思うのですが……」

 店員の言葉を怪訝に思いつつ、一刻も早く顔をぬぐいたかったので、気にせず頼む。

「構いませんので、おしぼりください」

「かしこまりました。三番のお客様、おしぼりお願いします!」

 瞬間、視界の脇を何かが掠めたと思ったら、背後で炸裂音が鳴り響く。店員も私も床に伏せる。

「やはり初見では難しいですよね。三回ほどチャレンジして成功されるお客様もいらっしゃるので、気を落とさないでください」

 三回チャレンジしたところで、これが何になるのか、私にはいまいち想像できなかった。

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