「プレバト!!」の藤本敏史

 「こんなに書けるのか!」

この文章を書くに当たり、「プレバト!!」というTBSの番組内の人気コーナーで発表された藤本さんの俳句を改めて見直してみた時の率直な感想です。   

驚いたと同時に少しショックを受けました。なぜなら、普段、いかに自分が人の表面的なところしか、見ていないかと言うことを突き付けられた思いがしたからです。

TVに頻繁に登場するこの芸人さんのいったい何を見ていたのか。正直言って、ただのうるさいガヤ芸人という認識しかありませんでした。


今更説明するまでもないとは思いますが、藤本さんは、吉本興業所属のお笑い芸人で、原西孝幸さんとFUJIWARAというコンビを組み活動されています。ひな壇に陣取り当意即妙なガヤを入れることに定評のあるツッコミの名手です。

ですが、テレビに写る普段の騒がしいイメージとは裏腹に、その句は読めば自ずと情景と物語が、手に取るように読み手の心に浮かぶ、素晴らしいものです。


以下では、その藤本さんの句を紹介したいと思います。


まずは、


 陸橋を渡れば熱を持つマスク


この句はちょうどTVの放送を観ていて、その時は、あまりにあっさりしているので、なんてことない平凡な句という印象しか持ちませんでした。しかし今読むと、陸橋を渡る人の息づかいが感じられる、迫真にせまった描写であることが分かります。さらに句の中の因果関係も無理なく納められています。


次に、


藤本さんは、2012年に第一子、2015年には第二子をもうけられていますが、二児の父親らしい視点から詠まれた句が次のものです。


 秋刀魚焼く煙の向こうに子と夕日

 鯉のぼり挿され五つのランドセル

 肩車子の鼻先に触れる梅


我が子を見守る父親の暖かい眼差しが感じられます。


そして、父親ということと関係があるのか、本人が持ち合わせたそもそもの資質なのかは分かりませんが、ファンタジーとも称される、とてもかわいらしい句も特徴的です。


 船長の側にペンギン日向ぼこ


 扇風機首振りゆっくりトーベヤンソン 


 山あいの秋雲工場フル回転


 はこね号これより初夏へ入ります


動物(ペンギン)や無機物(扇風機・工場・列車)が擬人化されていて、微笑ましい描写です。


さらに、その自由な発想からスケールも大きく大胆に詠まれた句が次のものです。


 大仏の御手から月は生まれます


 白雲を吸い込み放つ大瀑布


 マンモスの滅んだ理由ソーダ水


 マッチ箱の汽車眩し優虹の街


 夕陽にもたれてかじる焼きもろこし


 滝壺に向かって白龍まっしぐら


このように、情景ももちろん描けていますが、瞬間を写しとることに留まらず、前後の展開・物語がある句は次のものです。


 節分の次の日靴に豆ひとつ


 羊郡の最後はすすき持つ少年


 魚群探知機朝寒のがなり声


 タッパーを持ってもつ煮屋春の宵


そして、かわいらしさを排した大人の句が以下のものです。


 ラジオ体操おおおなもみのある空き地


 アメリカの歯磨き粉色した浮き輪


 1 DK八重桜まで徒歩2分


 短夜や付録ラジオの半田付け


 節分のセンサーライトが照らす闇


 歩行量調査戻り梅雨の無言


 プール開き前のプールに水馬
 *水馬・・あめんぼ


 タイカレーのラムは骨付き銀杏散る


 セイウチの麻酔の効き目夏の空


 信号待つ騎馬警官の背のさやか


いかに物事をよく観察して、それを心に留めているかということが分かる優れた句ばかりです。


その中でも目を引くのは、やはりこの句です。


 節分のセンサーライトが照らす闇


「節分の夜に、防犯対策か何かで取り付けられた、民家の玄関先の人感センサー付のライトが突然ともるが、照らされた先はただ夜闇が広がるばかり。ひょっとしたら何か人外のものが訪れたのかもしれない。」という内容です。


非常にニュートラルというか、この闇は決して不安を掻き立てるような恐ろしいものではありません。それでいて、日常とは解離した何か人知の及ばないものとの接点ともなりうるのです。


ただのお稽古ごとの一種に堕してしまった現在の俳句の中にあってなお、現代的な感覚を詠み込むことに成功しています。


twitter「プレバト!!才能あり俳句bot」を参照しました。

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