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月9ドラマ『女神の教室』第7話の考察(弁護士の視点から)

第6話に引き続き、「女神の教室〜リーガル青春白書」第7話を見て弁護士視点で個人的に気になったことを、つれづれなるままに書き留めます。

第7話が神回である理由

「第7話は本当にすごい!」が、第一声の感想です。(あくまで個人的な感想ですが)第7話は「神回」でした。その理由は、大きく3つです。

  • 司法試験会場の緊張感がリアルすぎる

  • 柊木先生の講義のテーマが最先端すぎる

  • 藍井ゼミが本気すぎる

司法試験会場の緊張感がリアルすぎる

いよいよ照井さんが司法試験に挑戦する日が来ました。ドラマの見どころの1つ目は、司法試験会場の再現度の高さです。

試験室に入る緊張感

照井さんが試験室に入る前、教室前に掲示された座席表と受験票を照らし合わせながら自分の席を探す緊張感は、現実の司法試験さながらでした。

驚いたのは、受験票と座席表が、現実に近い形で見事に再現されていることです。さすが法務省の協力が入っているだけのことはあり、再現度の高さに感服しました。

試験室に入る瞬間は、「この後、どんな難しい問題が待ち受けているんだろう」という独特の緊張感に押しつぶされそうな思いになります。照井さんも、きっと同じ思いで自分の席を探していたのだろうと想像すると、胸が苦しくなります。

司法試験用法文

照井さんが着席した際に机上に置かれていた「司法試験用法文」は、司法試験の会場で貸与される「試験専用の六法全書」です。表紙の色から、厚みまで、実際の「司法試験用法文」が忠実に再現されていました。

「司法試験用法文」は非売品ですので、ロースクール生でさえ日常で目にするものではありません。それを会場で生まれて初めて目にしたとき、「ついに本番を迎えたんだな」という心境になります。

問題用紙の開き方

試験開始の合図とともに、受験生が一斉に問題用紙の青いシールを破り始めました。司法試験の問題用紙は、試験前の開封を防止するため、封印がされていて、試験開始とともに、その封印を手で破るところからスタートします。

あの封印を破るとき、「一刻も早く問題を見たい」という気持ちになり、心の緊張が高まります。

司法試験の緊張感が見事に再現されたシーン

おそらく、司法試験の雰囲気をここまで忠実に再現したドラマは、日本初だと思います。照井さんの心の鼓動がひしひしと伝わってくる名シーンでした。

柊木先生の講義のテーマが最先端すぎる

crowの自殺を機に、検察官を目指すことにためらいを覚えてしまった桐矢。それに対する柊木先生の課題は、次のようなものでした。

裁判の判決をAIに委ねるべきか否か。

「誤判の可能性や、その人の人生を変えてしまうことに対する責任をだれかが負うからこそ、裁判は成立している。」

これが、柊木先生の答えでした。

裁判において重要なことは、正確な判断をすることだけではありません。その判断結果に服することに当事者が納得できるような「信頼感」が必要です。そして、そのような「信頼感」を得るためには、自らの判断に対して、悩み、時には苦しみ、様々な痛みを感じる人間の関与が不可欠であるというのが、柊木先生の答えでした。

まさにこれは、「AI倫理」として最近議論されている重要なテーマの1つです。

EUでは、GDPR(日本でいうところの個人情報保護法)において、人間が一切関与しない形で(AIだけの判断で)本人に重大な影響を及ぼす決定をされない権利が保障されています。

日本でも、このような法律上の明確な根拠はないものの、AIにすべてを任せてしまうことの倫理的な問題が議論されています。

柊木先生の課題は、まさに、「時代の最先端」というべきテーマでした。

藍井ゼミが本気すぎる

藍井先生が答案を返却しながら行政法の「違法性の承継」について語るシーン。山田裕貴さんのことを「本当の行政法の教授」と見紛うほどの説得力に、圧巻しました。

このシーンの驚くべきポイントは、それだけではありません。ゼミ生1人1人に答案が返却されますが、その答案用紙1枚1枚に、ロースクール生が現実に書きそうな解答が、きちんと記されているのです。たった1秒にも満たないシーンのために、ここまでこだわるとは。スタッフの皆様の努力には脱帽します。

照井さんはどうしてスランプになったのか?

ところで、照井さんはなぜ、藍井ゼミで成績が振るわず、スランプに陥ってしまったのでしょうか。その答えは、藍井先生の言葉の中にありました。

訴訟要件の検討はあくまで前提に過ぎない。できて当たり前。時間をかけるべきところではない。論文式試験の試験時間は2時間。答案構成はその4分の1、30分以内におさめなければ、満足のいく論文を書くことは不可能だ!

照井さんがスランプに陥った理由について、表面上は、「藍井ゼミについていくのに必死で、睡眠時間を削りすぎたから」であるように描かれていました。ただ、照井さんが藍井ゼミに苦戦していた理由は、それだけではないように感じたのです。

照井さんは、大変真面目な性格で、「完璧主義者」であるように思われます。そのような性格の受験生がしばしば陥りがちなのが、「メリハリをつけられない」問題です。

藍井先生が力説していたように、司法試験は、限られた時間の中で、与えられた課題に対する答えを網羅的に答案用紙に書き込まなければなりません。ただ、「2時間」という限られた中で、細かい論点まで切々と論じていると、時間オーバーになってしまうのです。

おそらく、照井さんは、「完璧主義者」ゆえに、「思いついた論点は細かいものまですべて拾い上げて、全力で答えを書かなければならない!」と考えていたのだと思います。ただ、そのようなやり方で答案を書き進めると、時間オーバーになり、本当に大切な論点を書けなくなってしまいます。

藍井先生は、このような照井さんの問題に気づき、改善を促していたのです。

司法試験においては、「完璧主義」になることよりも、むしろ、「本当に大切なことを見極める」要領の良さ、メリハリが重要になります。照井さんの問題は、単なる睡眠不足ではなく、「(次の日の授業や藍井ゼミでの体力維持を考えずに)睡眠不足になるほど勉強しすぎてしまう完璧主義」にあったのだと思います。

ドラマの後半、照井さんは、それまでのこだわりを捨てて、頑なに守り続けたスーツ姿を卒業します。これは、「常に完璧主義でなければならない!」という固定観念を脱却し、「メリハリ」を獲得した照井さんの成長を象徴していたように感じました。

藍井先生の名前の由来

司法試験は今年から7月に変わりますが、昨年までは毎年5月に実施されていました。

私はロースクール時代、京都で過ごしていましたが、ちょうどこの時期は、京都三大祭の1つである「葵祭」(あおいまつり)が開催され、街が賑わいます。

もしかすると、「あおい」という名前は、ここから来ているのかもしれないな、と思いました。そうであれば、「司法試験絶対主義者」の藍井先生にふさわしいネーミングです。

~おわり~
※ noteで執筆する内容は、私の個人的な見解に基づくもので、所属する事務所としての見解ではございません。

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