記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第2週(画期的な判決)

第2週は、寅子がいよいよ明律大学女子部に入学しました。今週は、法廷シーンも登場し、法律ドラマ感が出てきました。

NHK連続テレビ小説「虎に翼」を視聴して、弁護士目線で気になったことを、毎週noteにしたためています。


戦前の法廷シーン

今週は、裁判傍聴シーンが登場しましたが、戦前の法廷を再現したドラマというのは、画期的でした。

演出上の脚色もあると思いますが、「現在の民事事件とはだいぶ違うな」と感じるところが多々ありました。

傍聴のために手続が必要

寅子が傍聴する前、窓口での手続を行っていました。現在の裁判所は、傍聴前にこのような手続はなく、だれでも自由に出入りすることができます。

戦前も、法廷は公開が原則でしたが、(大日本帝国憲法59条)、裁判所が現在ほど開かれた場所ではなかったことがうかがえます。

代理人弁護士がよくしゃべる

現在の民事事件では、証人尋問などでは代理人が法廷で話す機会はあまりなく、ほとんどの手続が書面のやりとりで進められます。

(さすがにドラマに登場した弁護士の大演説は脚色でしょうが)たしかに、戦前の民事事件の期日(口頭弁論期日)では、代理人弁護士が自分の主張を「演述」(口で話す)していたようです。

このことは、水野浩二「「実務向け文献」に見る明治民事訴訟法 : 審理の準備と審理過程をめぐって」(北大法学論集, 70(3), 1-68)において言及されています。

「戦前の裁判ってどんな感じだったのかな?」と、様々思いを巡らせながら楽しみました。

弁護士の法服

ドラマでも解説がありましたが、戦前の裁判所では、裁判官だけではなく、弁護士も法服を身に着けていました。

裁判所が、今よりも「権威性」が重視され、一般市民に開かれた場所ではなかったことが、うかがえました。

画期的な判決

寅子が傍聴した民事事件の判決は、妻の財産に対する管理権を主張する夫に対し、「権利の濫用」法理を適用した画期的なものでした。

「権利の濫用」法理は、今では労働法を中心に登場する機会が増えています。

「権利の濫用」法理は、昭和10年の宇奈月温泉事件で、大審院(今の最高裁判所)として初めて明確に認めた考え方です。

もっとも、寅子が明律大学女子部に入学したのは昭和7年ですから、寅子が傍聴した事件は、宇奈月温泉事件大審院判決より前のものです。

裁判官としては、いまだ大審院が明確に認めていない「権利の濫用」法理を判決に書くことを、おそらく何度も躊躇したことでしょう。

本来、民事事件の判決では、主文(結論)しか読み上げませんが、あえて理由の主旨を読み上げたのは、新しい法曹時代を担う女学生たちに、「既存の考えにとらわれない信念」を伝えたかったからだと思います。

民法学の権威である穂高先生の面前で判決を読み上げる際の緊張感は、想像に耐えがたいものです。

原告代理人弁護士は、「権利の濫用」法理について思い至らない中で、原告の救済を訴え続けていたと思われます。(原告代理人弁護士の思いに心を動かされた)裁判官は、原告が大演説の中で主張した様々な事情から「権利の濫用」法理を適用するための事実を拾い上げて、自由心証主義に基づいて真実と認めたうえで、原告勝訴の結論を導きました。

ドラマでは説明がありませんでしたが、寅子が授業中に述べていた「自由心証主義」の話は、まさに的を射たものだったと思います。

みんなちがって、みんないい

明律大学女子部のメンバーには、まさにこの言葉がふさわしいと思います。

穂高先生が話していたように、法律の世界は、答えが1つに決まるものばかりではなく、1人1人の価値観・物事のとらえ方の違いで、様々な解釈が生まれることがよくあります。

生き様も考え方も全く違うメンバーが、それぞれの考えをぶつけ合い、時にはけんかをしながら、議論を交わすことが、法律を学ぶうえで何よりも大切なことだと思います。

事務所サイトで執筆したコラムの紹介

所属する法律事務所のWebサイトで、法律に関するコラムを定期発信しています。ぜひ、こちらもご一読いただければ幸いです。noteでは、事務所サイトでは取り上げづらい個人的見解や、日々の業務とは離れた社会問題への考察を主に発信しています。

ITベンチャーなどビジネス向けの最新テーマを主に取り上げたサイト「Web Lawyers」はこちら

身近な日常の法律テーマを主に取り上げた事務所公式サイトはこちら

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?