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月9ドラマ『女神の教室』第10話の考察(弁護士の視点から)

第9話に引き続き、「女神の教室〜リーガル青春白書」第10話を見て弁護士視点で個人的に気になったことを、つれづれなるままに書き留めます。

風見刑事を更生させた天野さんの言葉

性犯罪を犯しながら法で裁くことのできない塾講師松下に私的制裁を加えようとした風見刑事。その選んだ手段は、重大な犯罪行為にほかならないものでした。

このような風見刑事の曲がった正義感に対し、天野さんが次のように話し、更生の道を開かせます。

被害者を守りたいなら、犯罪者を罰するだけじゃない。もっと他のアプローチだってあるんです。私たちは、被害者を救える方法を、私たちなりに探していきます。そして、被害者が、また心から笑える日が来るように、力を尽くします。

第9話で、天野さんは、柊木先生から、諸澤英道著『被害者学』(初版・2016年・成文堂)という本を手渡されています。おそらく、天野さんは、この本を必死に読んで、「被害者を守る」とは何かを自分なりに考えたのだろうと想像されます。

この本では、被害者支援活動について、「被害者が抱えるさまざまな問題に、被害者と共に立ち向かい、1つ1つ解決し、被害者が再び元の生活を取り戻すまで、途切れることなく寄り添い支えていく活動」であると説明されています。そして、単に被害者の理解者となるだけでは足りず、被害者とともに問題を解決し、生活を取り戻すための良きパートナーにならなければならないと説かれています(同書856頁)。

被害者学の視点から風見刑事の本来行うべきことは、被害者の抱える苦しみを復讐という形で加害者にぶつけることではなく、被害者の苦しみを取り去るための方法を被害者とともに考えて、行動することでした。

復讐にこだわるあまり、本来の被害者支援のあり方を見失った風見刑事に対し、天野さんは、被害者学を踏まえて、被害者支援のために大切な視点を伝えたのです。

被害者学によれば、性被害の被害者は、次の6つの苦しみを抱えているといわれます(同書324頁)。

  1. また再び被害を受けるのではないかとの不安

  2. 加害者に、また会うのではないかとの不安

  3. 加害者の友人や家族から、いやがらせをされるのではないかとの不安

  4. 人から信じてもらえない、理解してもらえないのではないかとの不安

  5. 通常の生活や仕事に戻ることへの不安

  6. 男性全般への不安と不信

性被害における被害者支援では、これらの不安を解消するための周囲のサポートが重要になります。そのために風見刑事がすべきことは、復讐を果たして妹のもとからいなくなることではなく、妹に寄り添い、不安を解消するための行動を続けることだったのです。

柊木先生の最終講義

柊木先生が最終講義でロースクール生たちに伝えたのは、次のようなことでした。

まずは人がいて、人のために法律があること。そして、そんな風に思える法律家が、少しでも増えたらいいなって。

これは、あまりにも当たり前でありながら、法律家が時に忘れてしまう視点であるように思います。

法律は、「A+B+Cの要件を満たせばDになる」といった要件と効果の関係を、いわば杓子定規に定めています。その法律を当てはめて物事を解決する際、ついつい、要件と関係のない事情をすべて捨象して(切り捨てて)解決策を考えてしまいがちです。

ただ、紛争の背景には、法律が定める要件には当てはまらないものの、当事者の怒りや被害者感情を解消するために必要な事情が複雑に入り組んでいるケースが少なくありません。

「まずは人がいて、人のために法律がある」とは、紛争に関わる当事者の背景事情や心情を理解し、法律をどのように当てはめれば当事者が一番納得できる解決策を導けるのかを理解することの大切さを説いた言葉であると感じました。

このnoteを書く前、GPT-4に関連して、「弁護士の相談業務は将来的にAIに代替される可能性がある」と、(AI分野の権威である)松尾豊教授がコメントされているニュースを見ました。

たしかに、単に「●●法●●条の要件を今回の事例は満たすか」といった杓子定規な質問であれば、将来的にはAIでも高精度な回答を導けるようになると思います。

ただ、紛争に関わる当事者の背景事情や心情を理解したうえでの法的アドバイスは、感情と共感力をもった人間にしかできないことであり、AIに代替されうるものではないように思います。

「まずは人がいて、人のために法律がある」は、柊木先生の講義を締めくくるのにふさわしい言葉であったと感じました。

柊木先生に共感した藍井先生

藍井先生は、ついに、柊木先生の考えに共感し、「人に興味を持つ」ことの大切さを感じるようになっています。藍井先生がロースクール生たちに伝えた「いい法律家になれ!」という言葉も、まさに、柊木先生の考えを受け入れた証といえます。

以前の考察でも触れましたが、藍井先生は、表面的には柊木先生の講義を軽んじながら、内心では関心を抱き、ずっと聞き入っていました。柊木先生の言葉は、ロースクール生のみならず、藍井先生にも響き続けていたのです。

~おわり~
※ noteで執筆する内容は、私の個人的な見解に基づくもので、所属する事務所としての見解ではございません。

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