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法学と数学は似ていると思う

最近、NHKで「笑わない数学」という番組を視聴しています。数学専攻ではない私にとって縁のない数学の定理・仮説について、数学者による試行錯誤の歴史を取り上げながら、分かりやすく説明する番組です。

この番組を視聴しながら、最近、「数学と法学は、アプローチが似ているな」と思うことがしばしばあります。


法学のアプローチ

法学には、既存の法を解釈したり、新しい法を提言したりと、多様な分野がありますが、ここでは「法解釈」に視点を置きたいと思います。

「法解釈」とは、その名のとおり、法を解釈することです。世の中で起きている(あるいは今後起きるかもしれない)事案を解決するために、(既存の)法の意味(要件)をどのように考えて、どのように適用するかが、法解釈におけるテーマです。

法解釈には、①用いられる文言の辞書的な意味を当てはめるだけではなく、②その法がなぜできたかを探究する、③過去の事案で用いられた解釈を探究する、④海外の法と比較するなど、様々なアプローチがあります。

いずれのアプローチにおいても、法解釈の最終目標は共通しています。それは、「世の中の多数人から受け入れられる体系的な考え方」と、個々に存在する法との関係を、矛盾なく整合的に説明することです。

数学のアプローチ

(私の理解する限りではありますが)数学もまた、すでに多数の学者から受け入れられている公理や定理を起点に、仮説の正しさを証明して、体系的な理論を形成することにテーマがあります。

法学と数学とは、「言葉」によるアプローチか、「数字」によるアプローチかの相違はあるものの、その目指す方向性は共通しているように感じます。

フィクションで成り立つ世界

法学と数学とは、いずれも、フィクションによって成り立っています。

法学におけるフィクション

例えば、民法には、次のような規定があります。

民法
(法人の能力)

第34条 法人は、・・・権利を有し、義務を負う。

たった一文の規定の中にも、様々なフィクションが詰まっています。

まず、冒頭の「法人」という用語、いきなりフィクションが登場します。法人には、会社、公益法人、さらには、地方自治体まで、様々なものが存在します。もっとも、「法人」は目に見えるものではありません。会社のビルは目に見えますが、あくまでもそれは会社の持ち物(あるいは借り物)でしかありません(なお、「持つ」「借りる」というのもフィクションです)。

次に、「権利」や「義務」も、同じく目に見えるものではありません。契約書は目に見えますが、あくまでも、法人の権利や義務の発生根拠である「契約」の存在を形にしたものにすぎません。

「法人」「権利」「義務」という実体のない概念を法で規定したのは、それが世の中の仕組みを説明するうえで一番都合がよかったからです。

法学は、世の中の仕組みを体系的・整合的に説明するために、様々なフィクションを生み出しているところに、大きな特徴があります。

数学におけるフィクション

このようなフィクションは、数学の考え方と共通します。

例えば、数学の世界では、√-1という一見して意味を理解しがたい数字を虚数iと定義して、そこから様々な理論を生み出しています。また、(少なくとも一般人の感覚では)現実世界の常識とかけ離れたn次元(n≠3)という概念が用いられることがあります。

数学もまた、様々な理論を体系的・整合的に説明するために、様々なフィクションを生み出しているところに、大きな特徴があります。

法学と数学の融合

ときには、法学の理論の中で、数学が用いられることもあります。

例えば、独禁法の分野においては、経済市場のあり方を説明するために数学的な理論が用いられます。また、会社法の分野においても、様々な規制の合理性を説明する際に、数学的なアプローチが用いられることがあります。

※詳しくは、田中亘編『数字でわかる会社法〈第2版〉』(2021年・有斐閣)をお読みください。

このような法学と数学との融合が見られるのも、前提として、法学と数学のアプローチが共通しており、親和的であるがゆえだと思います。

法学部にとっての数学の価値

法学部に進学すると、数学に接する機会はほとんどありません。ただ、高校までに学んだ数学の基礎的なアプローチは、法学に関わるうえで大きな助けになった(今でもなっている)と思います。

もし、法学部への進学を考えるお子さんが「数学をなぜ勉強しなければならないか分からない」とおっしゃっていたら、ぜひ、このnoteのことをお話ししてみてください。

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