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ベルマーク運動改革論・無駄をなくして今こそ全面DX化を

現在のベルマーク運動に対する疑問

私がまだ小学生の頃、子どもながらに疑問を感じていたことがあります。それは、学校で集めていた「ベルマーク」のことです。だれもが目にしたことのある、買い物をした商品に付いている点数付きのベルのマークです。

ある時期になると、「家でベルマークを集めて持ってきてください」と学校で告知があり、(一応任意とはされていましたが)半ば義務的に、家族総出でベルマーク集めに奔走していました。

学校では、「ベルマーク1点=1円」になって、「みんなの集めたベルマークでボールを買ったりしている」と説明されていたように記憶しています。

私が子どもながらに疑問を感じていたのは、ベルマーク収集に要する労力の大きさです。(1)ベルマークが付いた商品を自宅で探して、(2)きれいにベルマークの形を切り取って、(3)それを袋に入れて・・・と、たった20点、30点のベルマークを集めるのに手間がかかりすぎでは?と思ったのです。

その後大人になり、忘れかけていた当時の記憶が鮮明に思い出されました。それは、知人から、PTAでベルマークを取りまとめる仕事を担当した経験をうかがったからです。

子どもの頃、集めて袋に入れて持っていたベルマークは、どこかの業者に送って、機械で自動仕分けをしているのかと思っていました。しかし、決してそうではなく、PTAで担当者を決めて、1枚1枚を会社別・点数別に丁寧に仕分けしているというのです。

この話を聞いたときは、さすがに驚きを隠せませんでした。「何という手間のかかることを・・・」と。

※ベルマークを集めて現金化するまでの流れは、ベルマーク教育助成財団サイト「仕組みと流れ」に詳しくまとめられています。

ベルマーク運動はどうして始まったのか

ベルマーク運動は、いったいいつから始まったのでしょうか。そういえば、昔、ちびまる子ちゃんで「ベルマークを集めよう」という回がありましたので、さくらももこ先生の幼少期である1970年代には、ベルマーク運動はすでにかなり普及していたようです。

調べてみたところ、ベルマーク運動は、へき地学校の教育設備の充実を目的として、1960年にスタートしたそうです。その取組みが全国のPTAからの賛同を得て、今の形になったそうです。

ちなみに、ベルのマークには、「国内外のお友達に"愛の鐘"を鳴り響かせよう!」という意味があるそうです。

ベルマーク運動の理念自体はすばらしいものですが、問題は、その実現のためにあまりにも多大な労力を要していることです。

現在のベルマーク運動は少しずつ支持者を減らしている

ベルマークに対してこのような疑問を抱いているのは、私だけではないようです。インターネットでベルマーク運動に対する疑問の声を調べてみると、「手間がかかりすぎる」「PTAで協力するのが大変」といった様々な意見が見られます。

統計的にも、ベルマーク運動への参加学校数は、2010年頃から減少傾向にあります。学校の統廃合の影響も考えられるため、すべての減少要因がベルマーク運動への消極的な意見によるものとはいえませんが、少しずつベルマーク運動に対する疑問の声が広がっているのは確かではないかと思います。

また、大手企業が協賛会社から脱退する例も出てきています。例えば、2022年にはロッテが、2021年にはファミリーマートと岩塚製菓が、それぞれ協賛会社から脱退しています。

ベルマーク運動の費用対効果

ここで、ベルマーク運動の費用対効果について、改めて考えてみます。

1枚のベルマークが現金化されるまでの間に、(1)商品からベルマークが切り取られる、(2)学校(PTA)でベルマークが仕分けされる、という2つのプロセスが介在しています。仮に、(1)の作業に30秒ないし40秒、(2)の作業に10秒の時間を要するものと仮定すると、1枚のベルマークについて、およそ50秒に相当する人的コストが発生します。

1枚のベルマークの点数は、「1点」「2点」程度が多く、たまに「3点」以上のものが、ごくまれに大きな点数のものがあるくらいですので、1枚あたりの平均点数を「2点」と仮定します。ベルマークの価値は1点=1円ですので、50秒の人的コストにより、2円の収益が発生することになります。

この仮定のもとで、1時間の人的コストをかけて得られる収益は、「144円」です。

さらに、実際には、ベルマークの仕分け作業について担当者に説明する時間や、集計時間など、関連するその他の人的コストも発生しますので、おそらく、実際の1時間当たりの収益は、100円に満たないものと推測されます。

都市圏の現在の最低賃金は1,000円を上回っていますので、ベルマークによる収益は、最低賃金の10%にも満たないことになります。

統計によれば、1年で集まったベルマークは約4億点とのことですので、私の仮定によれば、ベルマーク運動によって社会に”400万時間”もの人的コストが発生していることになります。

このように考えると、ベルマーク運動が、社会に多大な無駄を発生させる根源となり、経済的合理性を欠いたものであるかが分かります。

ベルマーク運動の存続のためには抜本的な改革が必要

ベルマーク運動の現在のやり方には疑問がありますが、その理念自体に反対ではありません。むしろ、企業の収益の一部を教育現場や地域社会に還元する仕組みは賞賛すべきものだと思います。

ただ、現在のような経済的合理性を欠いた仕組みでは、社会に利益を還元する以上に、多大なコストを生じさせて、「社会的マイナス」の要因になっているように思えてなりません。

ベルマーク運動をこのままの形で続けていけば、反対の声が次第に大きくなり、いつか「ベルマーク運動廃止」の運命をたどるのではないかと思います。

ベルマーク運動の理念は守りながらも、より経済的合理性のある形に改革することが必要であると思います。

ベルマーク運動こそDX化すべき

ベルマーク運動は、最近話題の「ポイント還元」に仕組みがよく似ています。ベルマーク運動こそ、DXと親和性が高い仕組みであると思います。

そこで、ベルマーク運動の新しいあり方について、私なりに考えてみました。

1.クレジットカード会社やその他の電子決済サービス提供会社が、協賛企業と共同出資して、「ベルマークプラットフォーム」を立ち上げる。

2.消費者が店舗・ECサイトで電子決済を利用すると、(協賛企業の)購入商品ごとにあらかじめ設定された点数が「ベルマークプラットフォーム」のベルマーク口座に貯まっていく。

3.消費者は、「ベルマークプラットフォーム」Webサイトや専用アプリから、ベルマーク口座に貯まったベルマーク点数を確認することができる。

4.消費者は、居住地の近隣の学校があらかじめ設定した使途(学校の備品購入、国内団体や海外への寄付など)から、ベルマーク口座に貯まったベルマーク点数の還元方法を選択する。

5.ベルマーク運動の協賛企業は、消費者が選択した還元方法に従って、学校や、国内団体・海外への寄付額を決定し、寄付を行う。

以上のような仕組みであれば、ベルマーク運動の本質的な理念を損ねることなく、かつ、現行のベルマーク運動で生じていた「社会的マイナス」を解消することができます。また、現在政府が推奨している電子決済の普及にも貢献することができます。

ベルマーク運動のDX化はすでにスタートしていた

ここまでの内容をお読みいただいて、「ベルマーク運動をDX化なんて現実味がないな」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、実は、ベルマーク運動のDX化は、すでに始まりつつあるのです。

それは、「ウェブベルマーク」という仕組みです。ウェブベルマークは、協賛企業のECサイトで商品を購入した際に、運営企業からウェブベルマーク協会に広告費が支払われ、そのお金が助成金として財団に入金されて、通常のベルマークに近い仕組みで学校などに還元されるという仕組みです。

ただ、ウェブベルマークは、現在のところ認知度がかなり低く、あくまでもベルマーク運動の補助的な位置づけのものにとどまっています。

私は、ウェブベルマークのような仕組みを、先ほど述べたような、より規模の大きいものに発展させ、ベルマーク運動自体を「すべてオンラインで完結する仕組み」に一本化していくことが、ベルマーク運動の長期的な存続のために必要ではないかと思うのです。

現在のベルマーク運動のやり方に対する反対の声を上げていくことが重要

1960年代から60年余りが経過し、社会は大きく変わりました。電子決済が普及し、「DX」が流行語となり、「社会の無駄をなくしていく」ことが正義とされる時代になりました。

それにもかかわらず、ベルマーク運動が非効率なやり方を踏襲し続けてきた要因は、「ベルマークを、時間をかけて、みんなで集めて、達成感を味わうことこそが正義」という固定観念から多くの人が抜け出せなくなっているからではないかと思います。

固定観念に対して疑問を持ち、ベルマーク運動のあり方を見直していくことが、大きな課題として社会に求められているように思います。

~おわり~
※ noteで執筆する内容は、私の個人的な見解に基づくもので、所属する事務所としての見解ではございません。

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