優衣羽(Yuiha)

作家 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のその先で、」など、翻…

優衣羽(Yuiha)

作家 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のその先で、」など、翻訳含め7冊ほど出版させていただいております。 お仕事連絡こちらまでよろしくお願いします。→yui10yuiha07@gmail.com

マガジン

  • 短編小説まとめ

    作家、優衣羽の新規短編小説を載せる場です。気ままに更新。

  • 元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

    作家による日記風エッセイ

  • 既刊作品の小さなお話

    既刊作品の小話などまとめ。たまに追加。

  • 僕と君の366日の嘘

    僕と君の365日のアナザー版です。Webサイトに投稿していたものを加筆・大幅修正し同人小説として出した作品です。※本にはあとがきが収録されておりますが、こちらには収録されていません。

  • 作家の気まぐれグルメレポート

    時折のご褒美飯をレポート。気ままに更新。

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優衣羽のポートフォリオ

はじめまして、作家・シナリオライターをしております優衣羽です。 お仕事情報は随時更新します。 自己紹介 書籍 2019年3月『僕と君の365日』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々 2020年4月『紅い糸のその先で、』(KADOKAWA/角川文庫) 装画:和遥キナ 2020年8月『さよならノーチラス 最後の恋と、巡る夏』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々 2020年12月『このラブレターが、君の所に届くまで』(KADOKAWA/角川文庫) 装

    • 泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

      「泡になって消えちゃうらしいよ」 昔々、と言っても二百年ほど前。ハンス・クリスチャン・アンデルセンが残した物語の一つ。海の底で生きていた少女が地上に憧れ、一人に恋をし声を引き換えに足を得た。再会を果たすも想いは伝わらず、真実は変容し、恋のために少女は犠牲になった。 死んで献身的な愛が神の目に止まり、彼女は長い旅路に出た。天国に行くための、長い長い旅路。 「馬鹿げてるよねえ」 少女はきっと、どこかで地上に上がっていた。恋をせずとも、あの行動力で外の世界に出ていたはずだ。

      • 10年後には忘れてるかもね

        時間は残酷で時に優しくて、 忘れられない現実があった。いつしか思い出になり過去と化す。過去になるのが先か、思い出になるのが先かは、そこに込められた想いがあるか否かで変わると思っている。 思い出はまだそこにあって時折思い出しては懐かしむ気持ちが存在する。けれど過去は過ぎ去った時間だ。概念と心情。思い出す事が出来ても、想いが消えてしまった日にそれは過去になると、私は考えている。 消えると言うのも霧散するのではなく、水の中に溶かしたインクのように揺蕩い、その後濁った水が蒸発し

        • 海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

          深海を揺蕩う海月のような生物 クラゲという生物がいる。透明で水の流れに揺蕩っている、ゼリー状の生き物。ロマンチックを売りにしている水族館で、クラゲは絶対的なエース。LEDに当てられ透明な身体は色を変える。人は、色を変えるものが好きだと思う。クラゲしかり、四季も、グラデーションも。 ところでクラゲは漢字で海の月と書く。何で海の月なのだろうと調べてみれば、海に浮かぶ姿が反射する月のようだから、だそうだ。 確かに、水面に反射する月は薄いクリーム色さえ分からず、白くて透明で、ク

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        • 短編小説まとめ
          16本
        • 元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い
          68本
        • 既刊作品の小さなお話
          6本
        • 僕と君の366日の嘘
          10本
          ¥500
        • 作家の気まぐれグルメレポート
          2本
        • 140字小説を小説にしてみた
          4本

        記事

          潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

          波打ち際に残した足跡は消えてしまうけれど 絶望的な運動不足により数時間の移動で筋肉痛が起きた。階段上り下り、スーツケースを何度も持ち上げ右腕が死んだ。同時に、自分に対し死ぬほど引いた。 嘘でしょ?君、このレベルの移動で筋肉痛になるの?笑えないよ?人生まだ続くらしいよ?今からこれってやばいよ?冗談止めようぜ……? 東京の片隅、用が無いと外出せずただ何にもならない文章を書き綴る日々。足元から腐っていく感覚がした。茶色く濁った水のように心は色を変え、折れた花のように身体は崩れ

          潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

          この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

          東京を離れる。 それを決めたのはここ数ヶ月の話。2年住んだマンションの更新通知が来る前、転職してフルリモートになり、インターネットさえあればどこでも仕事が出来るようになった。何となく、ここにいる必要はないなと思った。 ここに住み始めたのは前に勤めていた会社から近かったから。ただそれだけの話なのだが、東京という街へ来て何となく、どんなもんかと考えていた節があった。 東京という街はとにかく利便性がよく、電車に乗ればどこへでも行ける。休みの日に話題のスポットへ足を運ぶのも簡単

          この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

          Paradise Regained

          薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。 かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手は斧を引きずりながら歩を速めた。崖の上に立つ小屋は石造りで外壁。崖の下に広がる海から吹く潮風によって隙間風が吹くようになってしまった。 小屋の前まで着いた時聞こえた大きな波音に扉を開けようとした手が止まる。薪と斧を投げ捨て、小屋の壁を伝い崖の先へ足を進めた。 海は荒れ白い飛沫は何百年も前に描かれた浮世絵のようだっ

          Paradise Regained

          Planetes

          彷徨う者たちへ 『アテンション、アテンション――プロジェクト・ノアが地球から離れて、本日で1252万8750年が経過しました』 『青き星は人々の度重なる愚行により息を止め、残された僅かな人類はこの 宇宙船に乗り、人類が住める土地へ向かうべく、長き航海を始めました』 『24万3750年、宇宙船内にいた人類の60%がティガーン星へ移住。文明は発達したかに思えましたが、信号が途絶え生命が消えた事を確認』 『216万4500年、船内にいた20%の人類がK2-18bに移住。高温

          君が残した365日 あとがき

          ※この記事には微かなネタバレ(匂わせレベル)が含みます。ご注意ください。 それでも誰かを想い残したのなら、きっとこれが本物の愛なのだと ある日、雲一つない秋晴れがまるで世界が一つになったかのように続いていた。マスクの下、薄く開いた唇はただそんな空を眺めていた。空想も何もない、綺麗だという言葉すら頭に浮かばず、目を奪われたような感覚で歩いていた。 不意に金木犀の匂いがした。ああ、もう秋だ。分かっていたけれど、歳を取るにつれ時間はあっという間に過ぎ去っていく。週5、8時間。

          君が残した365日 あとがき

          小指でした約束を、薬指で誓い合う。

          「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」 「指切った!」 遠い昔の記憶、誰もが口にした事のある約束の言葉を、忘れず守った人間はどのくらいいるのだろう。 嘘をついたら針千本飲ますなんて、子供の頃は考えもしなかっただろう。そもそも、幼子の考える針千本は、魚の方のハリセンボンをイメージする可能性が高い。 針というものに触れたのはいつだろう。小学校に上がってから? 家庭科の授業は四年生になってからだっけ。何にせよ、遠い記憶は薄れていき、引き出しに仕舞った思い出の中、見つ

          小指でした約束を、薬指で誓い合う。

          さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

          「人は必要な時に、必要な人に会うらしいよ」 深夜のファミレス、ラストオーダーを聞きに来た店員は、席に流れる空気を察し足早に去っていく。 180円のドリンクバー。グラスの中で香料しか入っていないメロンが泡を立てた。向かいの席にはブラックコーヒー。白い陶器の縁に薄紅がついている。最後に見たそれは、もっと鮮やかだった気がした。 「そういうこと」 ”そういうこと”ってなんだ。聞き返す事すら出来ず開きかけた唇を閉じた。窓の外に広がる夜は都会の喧騒を掻き消す事が出来ない。点滅する

          さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

          前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

          突然だが、前世の記憶はあるだろうか。 人は皆、輪廻転生を繰り返すと言うが、前の世で生きていた事など憶えているわけもなく、人生はニューゲームの状態で開始される。もしかすると、コンティニューかもしれないのに。 はっきり言おう。私には前世の記憶がある。 時代は明治~大正頃。通っていた女学校の通学路に大学があった。自分たちより少し年上の男子学生が行き交うそこを、女学校の生徒たちは憧れの視線を向けていた。男女の距離が今よりも厳しかった時代で、私たちはお互いに思春期特有の視線を向け

          前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

          神様なんて

          ※この物語は2020年に角川文庫より発売された「紅い糸のその先で、」の初期原案、「ウラニアの慈悲」の視点別原案です。 飛び出した瞬間見た笑顔が、今まで見てきた君の笑顔の中で一番美しかったなんて、酷い皮肉だと思う。 物心ついた時から未来が見えた。最初は偶然だと思っていたそれは、何度も一致し僕に真実だと教えてくれた。そのせいで楽しみは減った。両親がプレゼントを買っておいてくれても、貰う未来が見えてしまい喜ぶ事が出来ず愛想のない子供に仕上がってしまった。全く酷い話である。 そ

          ウラニアの慈悲

          ※この物語は2020年角川文庫より発売された「紅い糸のその先で、」の初期原案です。 ウラニアとはギリシア神話に登場する文芸の女神ムーサたちの一柱。未来予知が出来、多くの人々が彼女の元を訪れ予知を聞いたという。 でも、慈悲なんてない。 君の目には未来が見えるらしい。 それはあまりに突然の告白だったのに、何て事のない、特筆する必要さえないような有り触れた下校時に放たれた。冗談に思える言葉を信じられるほど子供でもなく、しかしそれを完全に否定出来るほど大人でもなかった私に、平

          ウラニアの慈悲

          馬鹿みたいな時間に意味を見出すのが人生だと不意に思った

          ずっとやりたかったことを、やりなさいと貴方は言った 自分にはこれしかないとしがみつき、報われない努力を重ね疲弊し全部終わらせたかった時間がある。迷走。人生で一番悲しかった事かと問われれば否と言うだろう。そもそも、一番悲しかった出来事なんて甲乙つけがたい。レベル的にはどれも同じような物である。 けれどこの二年は何十回も自分をゴミ屑だと嘆き、書き出した最初の一文を破り捨てるような日々だった。こうなりたい、こんな未来に辿り着きたい。最初に抱いた希望が何光年も前に死んだ星のように

          馬鹿みたいな時間に意味を見出すのが人生だと不意に思った

          爆発しても、散った残骸は美しいと信じている

          爆弾みたいだなと思ったんだ 空に上がる火や色鮮やかな花、点滅するサーチライト、爆弾みたいなものの寄せ集め。百日紅の花が爆弾みたいだと語る人を知る前の話、散る花を爆弾みたいだと思った。 理由は分からない。ただ、爆発して散った物の名残が地面に落ちていると思った。実際花は爆発しないし、本当の意味で爆発しているのは空に上がった火花や何光年も先で既に死んだ星くらいなもので。けれど地面に散ったそれを、咲き誇り花盛りを迎えているそれより好きだったのは、どれだけ汚れても物の本質は変わらな

          爆発しても、散った残骸は美しいと信じている