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【35話】幼馴染みの想いで話(唯と梨紗ちゃん)

唯ちゃん、初めての一人外出(前編)

さて今回は、唯ちゃんと梨紗ちゃんが、梨乃さんから聞いた話だそうです。
その話を聞いて唯ちゃんは「もーお ビックリだよ」と、梨紗ちゃんは「唯なら不思議じゃないわ」と、言っていました。
しかし、一緒に聞いていた唯未さんは一言も喋らず、うなだれていました。
何故でしょうか。
追々分ります。

玄関に落ちた唯ちゃん

今日も唯ちゃん、廊下を超高速ハイハイでドタドタ往復しています。
何故その様なことをするのかは、全く分りませんが楽しそうです。
最近は、玄関へ落ちないように、急ブレーキを身に付けました。
しかし今日は急ブレーキが一瞬遅れたために、玄関に落ちてしまいました。
落ちた唯ちゃん、ビックリしたように大きな目を更に大きくして、固まってしまいましたが、ほんの少しの間です。
おもむろに目をパチパチさせると、またご機嫌になります。
滅多なことでは泣きません。

そして玄関から上がろうとします。
唯ちゃんは落ちるとアウアウ言って助けを求めますが、唯未さんは一々上げに行くのが段々面倒くさくなってきたので、上がるためのスロープを付けて自分で上がれるようにしてあります。

好奇心な光景

そして、いつものように上がろうとした唯ちゃん、いつもと違う様子に気付きました。
玄関の引き戸が少し空いていて、外が見えたのでした。
好奇心旺盛な唯ちゃん、少し空いていた引き戸から外を覗くと、見たことにない光景が目の前に広がります。
その光景は、何度も行き来していたのですが、それは抱っこされてのことで、今の唯ちゃんの目線では見たことのない光景だったのです。

こうなると唯ちゃん、もう外に出たくてたまりません。
頭を空いているところに突っこみ、戸を広げます。
そして、おもむろに外に出ました。
門までの2~3メートルを、大きな目をキョロキョロさせ、ゆっくりとハイハイで門まで来ました。
門の外は道路ですが、通学路になっているため、そんなに車も通りません。
また舗装もされていています。
その時間は、人通りも少なく静かでした。

見たことのある光景

門から身体半分出たところで、唯ちゃんはどっちに行こうか考えます。
取り敢えず、そこにお座りして、あっちこっちとキョロキョロします。
後ろは見ません、引き返す選択肢は唯ちゃんの頭には全くありません。
そして、左の方を見ると、何となく見たことのある光景でしたので、そちらへと向かいます。

ハイハイで少し行くと、よく見る門と玄関がありました。
一旦お座りをして、唯ちゃんは考えます。
目線は違うが、見上げると、何度も行き来している所だと分りました。
またハイハイで、玄関口に辿り着き、キョロキョロと辺りを見回します。
そして、ここが何処か分ったのです。

梨紗ちゃんの家

「・・・・リーチャ(梨紗ちゃん)・・リーチャ」

そうです、ここは梨紗ちゃんの家だということが分ったのです。
中に入りたくなった唯ちゃん、閉まっている玄関の戸口の前で、どうしたものかと考えます、取り敢えず、お座りです。
そして、戸口の前で、赤ちゃんと思えないでかい声で、

「リーチャ」

「リーチャ リーチャ」

「リーチャ リーチャ リーチャ リーチャ リーチャ」

まあ、なんです、いくら赤ちゃんと思えないでかい声と言っても、限度がありますから、閉まっている戸から中へは聞こえるはずもありません。
次は戸をバンバン叩きますが、やはり所詮は赤ちゃんです、効果はありません、玄関にいれば分る程度です。

唯ちゃんの肉弾戦

意を決した唯ちゃん、後ずさりをします。
もちろん帰るわけではありません、そんなことは頭の片隅にもありません。
そこからハイハイで猛突進して、戸に身体をぶつけます。
そうすると戸がドーンと震え、家の中まで聞こえそうな音がしました。
唯ちゃんは、それを何度も繰り返し、加えて引き戸をバンバン叩きます。

痛くはなかったのでしょうか、内出血したり、擦り剥けたりしなかったのでしょうか。
後に唯ちゃんの身体を調べても、何の異常も無かったそうです。
ただ、唯ちゃんは梨紗ちゃんと遊びたいと、強く思っていたことには違いないのですが、何か関係が有るのでしょうか。

ドーンドーンという音が、家に響き渡ります。
梨紗ちゃんにオッパイを飲ませていた梨乃さん、不審な玄関からの音に気づき、梨紗ちゃんを部屋に残し玄関へと向かいます。
玄関に着いた梨乃さん、バンバンの後に唯ちゃんの声がしたのです。

「リーチャ リーチャ」

「あらっ 唯ちゃん・・・唯未なにやってるのよ 空いてるんだから早く入りなさいよ」

(バンバン)

「ゆみー なにふざけてるのよー」

(ガラッと戸を開く梨乃さん)

「ゆみー いい加減に・・・・あらっ・・居ない・・た 確かに唯ちゃんの声が聞こえたのに・・・」

梨乃さんの衝撃

もそもそと動くのに気づいた梨乃さん、ゆっくり下を見ると、お座りしている唯ちゃんが、満面の笑みで梨乃さんを見つめ両手を伸ばしています。

「マーマ コッコ マーマ コッコ」(ママ 抱っこ)

「あらー 唯ちゃん 一人で来たのね えらいわねえ 唯ちゃん えらい・わ?・・ねえ?・・・・・・・・???ゆい?・・ちゃん?・・・ひとり?・・で?・って・・・キャーーアーアーアーアーーーーーーアーーーー」

梨乃さん、何が起こってるかを今一つ理解出来ていませんが、衝撃的に恐ろしく大変なことが起きていることは理解できています。
慌てて唯ちゃんを抱っこします。

「ゆ 唯ちゃん どうしたのよ どうやって来たのよ 唯未は唯未は って唯ちゃんに聞いても分らないわよね 一体どうなっているのよ」

玄関先を見ると、唯ちゃんの這いずった跡があり、唯ちゃんのベビー服が砂だらけで、特に膝下が酷い汚れで、手のひらも酷い汚れです

「唯ちゃん・・ここまでハイハイで来たのね 間違いないわこの状況は」

梨紗ちゃんの嬉しい誤算

すると、梨乃さんの叫び声に、ただならぬ事件性を感じた梨紗ちゃんが、慎重にゆっくりとハイハイする場合じゃないと言わんばかりに、ダダダダダだーっと玄関に駆けつけてきました。
眼光鋭く駆けつけた梨紗ちゃん、なんと、そこに居たのは唯ちゃん、梨紗ちゃんの嬉しい誤算です。
もう梨紗ちゃんにとっては、何が起こっているのかは、どうでもいいことで、唯ちゃんがいるという事実が全てなのです。

「ウーイ(唯)ウーイ」
「リーチャ リーチャ」
「ウーイ ウーイ」
「リーチャ リーチャ」

お決まりの挨拶です。

怒り心頭

「もう ウイウイリチャリチャじゃないわよ なにやってるのよ唯未は 冗談じゃないわよ こんなのあり得ないわよ 唯ちゃんを何だと思ってるのよ ゆ・みいいいいいいいい いい加減にしなさいよーーーーーーーーー」

と、怒り心頭で唯ちゃんと梨紗ちゃんを抱えて、唯ちゃんのハイハイしてきた跡を確認しながら、唯未さんの家へまっしぐらに向かいます。
今まで見たことのない、鋭い眼光で。

言わずとも、眼光の鋭さは梨紗ちゃんの専売特許ではありません。
梨紗ちゃんの眼光の鋭さは、梨乃さんに似たのです。
梨紗ちゃんが梨乃さんより、眼光の鋭さが強くなっただけです。
梨乃さんは、普段鋭さを押さえることが出来ているだけで、その気になればかなりいけるようです。

前編はここまでです。
後編【36話】はどうなるのでしょうか、波乱の予感です、いえ、波乱です。
梨乃さんは、唯未さんは、唯ちゃんは、梨紗ちゃんは。
では、また次回に、お会いしましょう。

幼馴染みの想いで話(唯と梨紗ちゃん)
【索引】 【登場人物】

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