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第100回箱根駅伝の青学が優勝できた理由

2024年1月2日〜3日に開催された第100回箱根駅伝。
優勝は当初の駒澤大学一強という予想を覆して、青山学院大学であった。

世間からすれば予想外なことかも知れないが、
私からすると青学優勝にははっきりと裏付けられた理由があるように整理しているし、大会前から下馬評通りにいかない雰囲気を感じた。
(後出しのようで悪いが)

その理由を書いていこうと思うが、その前に駒澤大学と青山学院大学の大会前の前提条件を整理しよう。

前提

①駒澤大学

昨年度は田澤廉という大黒柱を中心に、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の三冠を達成。
今年度も出雲駅伝、全日本大学駅伝を圧倒的な実力で制覇し、2冠を達成ずみ。加えての2つの大会とも1区からトップを譲らず、完全優勝を達成

10,000m27分台ランナーも4名おり、その中でも4年鈴木芽吹、3年篠原倖太郎、2年佐藤圭汰という三本柱は学生界トップの存在で社会人ランナーに混じってもトップクラスと遜色ない水準。

それ以外のランナーも花尾、安原、赤星、赤津、という三大駅伝の区間賞経験者が有する。
加えて山川、伊藤蒼唯という山区間(箱根駅伝5区-6区)を昨年も経験しており、盤石な布陣。

②青山学院大学

2年前には箱根駅伝で総合優勝をしたものの、昨年は山でのミスが響き、総合3位。今年も全日本大学駅伝こそ2位に入れど、ランナー1人1人の持ちタイムで言えば駒澤大学には及ばない水準。

27分台ランナーは1人もおらず、駒大の3代エースに対抗できる選手が持ちタイムだけで言えば存在せず、往路で勝負を決められる確率も大いにありえた。

しかし額面通りにいかないのが箱根駅伝の面白いところである。
私なりに分析した、青学優勝の理由を3点に分けて以下に記載していく。

青学優勝の理由

①3区で駒澤大学の23区間連続1位に終止符を打ったこと(太田蒼生の激走)

先ほども述べたが、駒澤大学は昨年度の箱根駅伝で優勝し、今年度の出雲駅伝、全日本大学駅伝も1区から1位を譲らない完全優勝を成し遂げていた。
連続区間で見れば、今年度の箱根駅伝開幕前時点で21区間連続1位を死守していたのである。

しかし逆に言えば、それだけの間、誰も相手選手の背中を見て走ることはなかったのである。

この均衡を崩したのが、青山学院大学2区黒田朝日、3区太田蒼生の激走である。
1区こそ駒大の篠原に区間賞を譲ったものの、青学2区黒田は日本人歴代2位で今年は区間賞(1位は東洋大の相澤晃が過去に作り出した大記録)、
3区太田は日本人歴代1位のタイムを記録し、1位でタスキを4区の佐藤一世に渡す。

この時の駒大4区の山川の心情はいかがなものだったろう。
山川からしてみれば、駒大の1区-3区は学生トップの篠原、鈴木芽吹、佐藤圭汰を投入しているので、当然1位でタスキが届くものと思っていただろう。

しかも鈴木も佐藤も区間1位こそ青学にゆずれど、区間2位で素晴らしい記録を残しており、3区佐藤に至っては太田がいなければ日本人最高記録というとてつもない走りをしていたのである。

山川は頭には不安と迷いが生じたはずだ。

それを見逃さなかった青学4区の佐藤一世は区間賞を獲得する走りで更に差を広げる。
(この時に走りは佐藤が4年前の八千代松蔭高校時代に都大路1区で区間賞を獲得した際の走りを思い起こした)

一方山川は区間6位ではあったものの、低体温症気味になってしまい、本来の実力とは程遠い走り。

5区の山登りも青学若林が区間記録を塗り替える走りで、2位に2分以上の差でゴール。
駒大5区の金子の走りも悪くはなかったが、元々は1-4区で圧倒的に1位で繋いで、安定した走りで逃げ切る算段だったはずのため、若林との差は詰められなかった。

長くなってしまったが、端的に言えば太田蒼生の激走で駒大の選手の心を挫いたのである。

②駒澤大学が山区間で昨年の経験者を活かせなかったこと

チームの個別事情は知らないので突っ込んだことは言えないが、
過去の実績だけで言えば、駒大が昨年度に記録した5区山川、6区伊藤のタイムを持ってすれば、優勝への算段は立てやすかったはずである。
(両選手当時は1年生ながら、山川は5区4位、伊藤は6区区間賞)

然し乍、今年はその配置を使わなかった。
もしかしたら使えなかったのかも知れない。

確かに駒大の5区を走った金子は2年前にも山登りの経験はあるし、実力もある選手だと思う。
ただ、山川がそれ以上の山登りの実績があることや陸路を走れる選手は他にもいた(タイムだけでみれば)のだから、可能であれば、山川を山登りに使いたかった。
青学の原監督もそう踏んでいたはずだ。

しかし実際には山川は4区で起用され、思ったような走りができなかった。
もしかしたら元々体調不良で5区を外されたのかも知れないがそれならば往路の4区には別のランナーを起用できたはずなので、調子自体は悪くなかったはずである。

山くだりに関しても、昨年区間賞の伊藤を起用せず、帰山を起用。
帰山は元々山に強いという評判は昨年からあったので起用自体は間違っていなかったはず。ただなぜ経験者の伊藤ではなく、帰山にしたのかは部外者のためわかっていない。
帰山からしても初の駅伝で追う立場でスタートするというプレッシャーはあったはずだ。実際にその走りを見てもあまり体が動いているようには見えなかった。

6区開始前には2分半ほどであった1位と2位の差が、6区終了時点では4分になっていた。ここで勝負あり。

③駒澤大学の選手の気持ちが切れてしまったこと

結論、これが最大の理由であると私は整理する。

①の内容と若干重複するが、3区終了時点で駒大の選手のどこかに「やばい、負けるかも」という気持ちが芽生えたはずなのである。
箱根駅伝開始前も21区間連続1位を守り、1区篠原、2区鈴木芽吹が圧倒的な走りで1位をキープしたのは圧巻だった。3区佐藤圭汰自身も区間新の走りで十分な働きをしていたし、これは部員みんなも思ったはずだ。

しかし、3区終了時点で1位だったのは駒大ではなく、青学だったのである。

おそらく駒大の選手は理解が追いつかなかったはずだ。
全員が完璧に近い走りをしているのに、なぜか負けている。

これが4区の山川の走りに出てしまい、5区金子は4年生副キャプテンの意地を見せてなんとか差を最低限に留めるも、青学が圧勝したいたのである。
ちなみに駒大自体も往路新記録を出していたので、山川や金子の走りも悪くはなかったのである。

ただ青学の選手が全員が思っていた実力以上の力を発揮した。
それにより駒大の選手が萎縮してしまったのである。

以上

まとめ

気持ちというのは怖いもので、一旦迷いや不安が生じると相手に一気に流れが傾くものである。

そんなことはないという人もいるかも知れない。
だけれども、駒大だけでなくどの大学の選手も、一般人が想像できないような血の滲む努力はしているのである。

競技は変わってしまうが、
今年度の甲子園で慶應義塾高校が優勝したことや、秋の神宮大会で慶應義塾大学が優勝した際の雰囲気は圧巻だった。

私は神宮大会の決勝を見に行ったが、対戦相手の青山学院大学にはドラフト1位で指名された投手が2名(下村、常廣)がいたのだが、両投手から2点をもぎ取り2-0で優勝したのである。
この時の球場の雰囲気もすごかった。応援で相手の選手が圧倒されてしまい、不安や迷いが生じたプレーヤーは普段通りのプレーができなくなるのである。

同じことが今回の箱根駅伝でも起きたのではないだろうか。

私はそう考えている。

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