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「読み語り『父と暮せば』」誕生!Side:まがりのりこ

「芝居屋ゆいまの」の4人が、それぞれどのように「読み語り『父と暮せば』」と関わっているのか、関わるようになったのか、のエピソードを本人が語ります。今回は演出・広島ことば監修担当まがりのりこの場合――

こげえド拍子もなー話

『父と暮せば』の舞台を私が最初に見たのは2016年、「学園座」の先輩である岩渕健二さんが群馬県の前橋文学館で、地元の方と共演した朗読劇だった。
岩渕さんがこの後、60回以上も竹造役で『父と暮せば』の上演を重ねることになるとは思いも寄らないことだったが、岩渕さんにはすでにその構想はあったのだろう。いろんなところで上演したいから、「のりこの住んでる千葉でもやろ!のりこが美津江やり!」と言ってきた。

その言葉を半分真に受けて、帰って早速『父と暮せば』の戯曲を読んでみた。
するとびっくり。舞台から受けた印象以上に、広島ことばが濃厚だった。
さすが、言葉、日本語、方言にこだわる井上ひさし先生!文字から広島ことばが立ち上がってくるように台詞が書かれてある。

こう感じられたのは、私が新卒で入った会社の本社のある広島で過ごして、ネイティブの発する広島ことばを聴き知っていたからだろう。
  竹 造 「わしゃよう飲めんのじゃけえ。」
  美津江 「あ、そうじゃったかいね。」
の掛け合いは、まるで庶務のY課長とKさんの口調だし、
美津江の「まだ居ってん?(まだ居るの?)」は、同期のIちゃんが残業が終わらない私(涙)にかけた言葉そのままだ。

『父と暮せば』は、どこか長閑な、まさに瀬戸内海のような雰囲気の広島ことばで語られていることで、凄惨な記憶がいっそう痛みを伴って迫ってくる。
戦時下を懸命に生きていた市井の人が、あの8月6日の晴天の朝に、突如として悪魔的な暴力にさらされ、一瞬の死滅と、長く長く続く苦しみとを植え付けられた。そのことが、静かにじわじわと胸に押し寄せてくる……
このすごい戯曲を声に出して読み終えて、「私は美津江の台詞を広島ことばで読むことはできる、でも、この作品を演じる力はない。」と思い知った。
なので、岩渕さんとの共演は諦めた。

時は流れて2019年に「学園座」同窓会が大阪で開催され、多くの人と久々の再会ができた。
以降、コロナで中断はあったが、関西から上京する先輩方と観劇をご一緒するようになった。
特に“超”がつくほど芝居好きの先輩方は桜井由利子さんの同期。彼女らと2023年3月に「学園座」OB・OGの近況を話していたとき、
由利子さんが今も舞台に立っていること、
岩渕さんが『父と暮せば』を上演し続けていること、
由利子さんがかつて『父と暮せば』を演じてみたいと言っていたこと、
が話題となった。
そこで先輩がポンと一言、
「由利子と岩渕で『父と暮せば』やったらええ!」。

そうか、由利子さんなら、きっと素晴らしく美津江を演じてくれる!
「ならば、私は広島ことば監修ということで関わらせてもらいたいです。」と控えめに名乗りを上げたつもりが、いつしか先輩に「演出し!」と背中を押された。

同じ頃、由利子さんご自身も岩渕さんに直接声をかけて、2023年8月の那須塩原市図書館「みるる」での公演に向けて一気に状況が動き出した。

ここからは、岩渕さんと由利子さんの芝居への熱が原動力。
関西出身のおふたりにとっては広島ことばのイントネーションにこだわることは厄介だったはずだが、リモートで稽古を重ねて、それぞれの役を作っていってくださった。
私は限られた条件の中で戯曲をとにかく「忠実に伝える」ことを考えた。
広島ことばについては、会社の後輩だった広島在住のDさんを頼って、細かく教えてもらった。

「読み語り『父と暮せば』」を作っていく過程は、私が生きてきた中で出会ったいろいろなモノ、コト、なによりヒトが、不思議に影響しあって繋がっていくさまを見ているようだった。
張った覚えもない伏線がどんどん回収されていくような。

「じゃけんど、こげえド拍子もなー話があってええんじゃろうか。こげえ思いも染めん話が……、」
劇中序盤の美津江のつぶやき、これはまさに、うちの言葉じゃったかもしれんね。

*   *   *   *   *
芝居屋ゆいまの京都公演「読み語り『父と暮せば』」
2024年4月6日(土)17:00~/4月7日(日)14:00~
会 場:法光寺(京都市上京区中長者町通西洞院西入中橋詰町172)
定 員:各回40名(お申し込みが必要です)
料 金:1000円  中高生500円(全席自由)
    当日受付にてお支払い(現金のみ)
お申し込みはこちらから↓↓↓Googleフォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSe9aPB0Mxfpo0hsYRxryucjSjPXuEDomThNoRkRul75h3fjEg/viewform?usp=sf_link

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