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「東京百景」を読んで

「シティガール未満」を読んで
田舎から上京した人間に対し、
並々ならぬ感情を持ってしまうことに気づいた私。

その感情をもう少し観察したくなったので、
ここのところは「田舎から上京した人間」によるエッセイを読み耽っている。

又吉直樹の「東京百景」を読んだ。
東京の街に紐づく著者の日記が百篇綴られている。
「シティガール未満」と全体構成は似ているが、
書く人によってここまで纏う雰囲気、受け取る感情が異なるのか、と驚く。
「東京百景」では日常風景と地続きのまま、フィクションが綯い交ぜになっていく。なんとなく「小説を書く人のエッセイってこういうことなのかな」とハッとしつつ、著者の輪郭をなぞっていくような、エッセイの面白さに触れられた気がした。

個人的に心がいちばん揺さぶられたのは、文庫化にあたり書き下ろされた「Ⅳ」章。
本編では存在感の薄かった「相方」に対する、著者の想い、その変化が綴られている。

褒めるでも貶すでもなく、フラットな目線で、少し距離をもって綴られるその文章は、一見ドライに見える。でもページを進めるほど、著者の「相方」に対する強い熱量があればこその筆致だと気づく。

そんなものは、とっくに超越している。あらゆる要素を含み、得体の知れない生きものとして存在しているその人こそを隣りで笑っていたい。
「東京百景」(又吉直樹 著)

こんなに強くて逞しい言葉があるだろうか。
ただただ真っ直ぐに愛をぶつけられている「相方」その人が、とても羨ましくなった。

そして全編通して、
筆者の「言葉」に対する深くて強い愛情が
そこかしこに散らばっていて、
充実した読後感と共に、言葉を愛したくなる、
そんなエッセイだった。

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