IT業界における市場価値という名の幻想

概要

IT業界における市場価値とは一体何なのか?

巷では自身のスキルセットが世の中にどれくらい評価されているか....ということだと言われている。そのため多くの若いエンジニアは市場価値を高め、転職等で有利になろう、最終的には年収をUPしようとしている。

...さて、スキルを高めるのはいいことだとして、この市場価値というものを高めることに腐心することはいいことなのだろうか?

本記事ではIT業界内でよく言われる市場価値について考察したいと考える。

市場価値の定義

そもそも市場価値とは何か?wikiの定義は以下である。

市場価値(しじょうかち)は、価格時点において買う意欲のある買い手と売る意欲のある売り手が各自市場及び資産に関する十分な情報を持ち、慎重に、かつ強制されないで行動し、適切なマーケティングの後に、第三者間の公正な取引交渉を経て、当該資産が交換されるであろう評価額である。(国際評価基準) 一般には、「適正な時価」あるいは「正常な取引価格」と称されている。

ここで注目してほしいのは「第三者間の~」という文面だ。つまり、客観的にみて適正な価格と言える。

ダイヤモンドの適正価格は想像がつきやすい。その大きさやカットから、市場全体で共通の認識(基準)があり、またその時の需要と供給から「○○なダイヤモンドであれば✖✖円」となる。同じダイヤモンドであれば日本だろうが、アメリカだろうが似たような値段で売買される。もちろん値段は一意に決まるが、それが売れるかどうかは需要による。

IT業界における市場価値

上記の定義をIT業界に当てはめてみよう。

もし本当にIT業界に市場価値というものが存在するのであれば下記のようになるはずだ。

私のスキルセット「資格:○○、✖✖保有、言語:C、Javaをそれぞれ5年、etc,etc...」
A社「600万で雇いたい」
B社「600万で雇いたい」
C社「600万の価値があるけど、今は雇う必要がない」

市場価値とは第三者が客観的に評価し、その時の需要と供給で決まるはずのものであるから、雇う雇わないは別として、どの企業もその瞬間は同じ価格を付けるはずだ。

現実はどうだろうか?当たり前だが、こんなことはありえない。

もちろん、雇用形態やフリーランスかどうかの問題により金額が変動するのは当然だ。しかし、それ以前に基準となる値段を客観的につける方法が、私の知る限り存在していないはずだ。

本当に市場価値というものが存在するのであれば第三者の集団、あるいは数式を元に基本価格が定義され、需要と供給を元に現在の値段が決まり、雇用形態によって実際の値段が決まるというプロセスを通る。

今現在、この基本価格を決める基準がIT業界には存在しない。つまり、市場価値なんてものは存在しないと私は考える。

市場価値という幻想を追う場合

さて、IT業界に市場価値は存在しないと仮定するなら、存在しないものを追うことが成果に直接結びつくとは思えない。

例えば市場価値が存在しない場合、「○○の技術が✖✖までできれば△△万円」という基準はない。そのため、各社ごとにバラバラの値段を提示されることになる。

私のスキルセット「資格:○○、✖✖保有、言語:C、Javaをそれぞれ5年、etc,etc...」
A社「600万で雇いたい」
B社「400万で雇いたい」
C社「800万の価値があるけど、今は雇う必要がない」

結局、高値をつけてくれる企業を練り歩くことになる。これのどこが市場価値が高まった状態といえるのだろうか?ダイヤモンドのようにどの国であっても同じ値段が付かないのならば、それは市場価値とは言わない。

特にスキルがある場合と無い場合の値段の比較すらできない状態だ。定量的に測れないものを追うなんて理系として恥ずかしいとさえ思う。

また、市場価値を高める方向性も曖昧になる。

身に着けるスキルセットについて、それらの価値について第三者の基準がないのだから、市場価値を高めようとする人たちは「流行っている技術」に飛びつく人が多いだろう。(誰が声高らかに言っているのかは知らないが)新しい言語、新しいFW、AI等のバズワードだ。

それらは確かにその瞬間は需要が多い技術なのかもしれない。しかし、そのバズワードの寿命を考慮しているだろうか?仕事として成り立つまで必要勉強量、その技術を買ってくれる企業の数、そしてそのスキルセットの値段。

バズワードは確かに市場に今現在溢れているかもしれないが、それがそのまま就活の際に値段として反映されるわけではない。そして誰もその値段を保証してくれない。

市場価値とは市場が一定の値段以上を保証して初めて意味があるのだ。

市場価値を作るには

本当にIT業界の市場価値を作ろうと思うのなら、第三者機関の発足は必須だろう。それが横の労働組合なのか、経団連なのかは知らないが、全ITエンジニアが加盟し、全企業に影響力を与えられるような機関が存在して初めて基本価格が決められる。

それ以外で決まる市場価値は、単に企業がお気持ちで決めている値段以外の何物でもない。企業の気分次第でどうとでも変わるような代物だ。

まぁ、複雑なIT技術の中でこのようなものを決めるのは不可能なのかもしれない。少なくとも日本ではスキルセットに関わらずエンジニアの年収は低いままだし、アメリカはスキルと時期によって乱高下している。

年収をあげるには?

市場なんて曖昧ものに注目するより、年収1000万みたいな具体的な目標をたて、年収1000万を達成できる企業の研究をし、その企業に入るためのスキルセットを身に着ける。

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