ジェイロウ

元広報マン。メーカー退職後、アドラー心理学を学び、現在は進化心理学を研究中。イラストも…

ジェイロウ

元広報マン。メーカー退職後、アドラー心理学を学び、現在は進化心理学を研究中。イラストも描いてます。 2005年に絵本「ある朝、庭に出てみると」出版。兵庫県在住。

マガジン

  • イラスト作品集

    自分で描いたイラストを載せてます。テーマは色々。

  • 長編小説「我ら瓦礫のうえに立つ」

    1995年の阪神淡路大震災を題材にした長編小説です。被災したマンションのその後の3年にわたる復興の物語を綴りました。 [第1部 被災](1)〜(19)、[第2部 復興](1)〜(16)で構成されています。

  • 小説・ドキュメンタリー

    これまでに書きためた、短編小説や、ドキュメンタリーなどを公開します。

  • 一万年の眠り

    人類の進化史を振り返り、狩猟採集民とIT社会に生きる現代人のライフスタイルをダイレクトに比較してみました。 そこから見えてくる人類の未来を考えます。(全6話)

  • 本の紹介

    2022年3月から大阪市内の読書会に参加しています。その会で紹介した本を、このNOTEにも掲載して「本を読む楽しさ」を伝えられれば、と思っています。乞うご期待!

最近の記事

春を待つ

季節は冬。春を待つ樹木と、若い男女。彼らはこれから出会おうとしている。

    • 森のバレンタイン

      毎月参加している大阪の読書会から「2月はバレンタイン・イベントをやるので、何か描いてきてください」と注文を受けて、必死で描いたのがコレ(笑)。 いやー、注文に応えるのって大変なんだなあ‥と商売の大変さを実感。いままで好きなようにしか描いてなかったもんで。 でも参加者から楽しく受けとめてもらえたので良かったです!

      • 龍神あらわる

        今年は辰年ということで、龍神を描いてみました。

        • [第2部 復興](16)

          そびえ立つクスノキ 10月の末ともなると風が少し冷たい。ベージュ色の半月がぽっかりと夜空に浮かぶころ、僕たちは思い思いの格好でくつろいでいた。 「遅いね、田代さん」と僕がプーさんに言うと、さっきからチーズを爪楊枝で突いていたプーさんが 「まあ気ばってはんねやろ」とにこにこしながら言う。 「しかしはやく来ないと、折角のスープが冷めまっせ」と賀来さんがビールグラスを傾けながら言う。 「ホンマや」と池谷さん。バーテンダー風の店員さんが 「大丈夫です。すぐに暖め直しますから」と気を

        マガジン

        • イラスト作品集
          23本
        • 長編小説「我ら瓦礫のうえに立つ」
          36本
        • 小説・ドキュメンタリー
          1本
        • 一万年の眠り
          6本
        • 本の紹介
          2本
        • ロゴスとレンマ
          4本

        記事

          [第2部 復興](15)

          まるで地響きのように 「静粛に願います、静粛に・・」と瀬戸理事長が声を高めた。皆川さんが、壇上にあるもう1つのマイクを手元に引き寄せた。 「A棟の皆川です。先程の大山さんのご意見ですが、私ども理事会は7月の総会以降、皆様から多数の手紙をいただいており、内容は充分に拝見し、理事会として検討もしております。その中には大山さんからの『公開意見書』も確かに含まれておりました。ただ、あの時点では7月の総会の議事録が出来ておらず、それをまず欠席された人にお伝えしてから、理事会で『公開意

          [第2部 復興](15)

          [第2部 復興](14)

          最後の集会 会場の中に入り、ゆるいスロープを降りていくと真ん中を横断する通路のわきにプーさんと妻、さっきの双眼鏡の男が並んで座っていた。プーさんは僕の顔をみて「ヨッ、ご苦労さん」と声をかけてくれる。妻が僕の袖を引っ張って、 「矢車さんの奥さんが来てるわよ」と斜め後ろの席を指差す。その方角をみると、なるほど、うちの子供を時々遊ばせてくれている小柄な奥さんの姿が目に止まる。 「そうか、旦那は欠席か。ということは、もう結論は出てるということか」 「多分、そうでしょうね」 「どっち

          [第2部 復興](14)

          [第2部 復興](13)

          自分達で結論を出さなくてはならない問題なんだ 翌朝は晴れていた。理事と、我々発起人は、午前11:00に会場の市立勤労会館の控え室に集合し、最終打ち合わせをすることになっていた。いままでほとんど集会には顔を出さなかった妻も、「今日は見届けるわよ」と珍しく張り切っていた。僕はトーストと目玉焼きの朝食をとり、紅茶を飲みながら会場に持ち込む書類を整理してカバンに詰め、自転車に乗ってマンションを出た。かつて復員兵のような顔をした無数の避難者たちが往来した国道2号線は、いまはごく普通の

          [第2部 復興](13)

          [第2部 復興](12)

          本当にそういう人でいいんですか? 9月22日(月)、総会の前日の夜、皆川さんから電話がかかってきた。 「三島さん、うまくいきました!昨日、矢車さんを連れて沢田さんの家に行きましてね。例の編集会議のムードに持ち込んで、2人で彼を説得しました」 「矢車さん、納得してくれたんですか?」 「ああ、よくわかった、当日は理事会案に賛成する、と確かに言明してくれました。これ、沢田さんもその場に居たから、証人付きですわ」皆川さんは声が上気していた。その興奮が僕の方にも伝わってくる。 「そう

          [第2部 復興](12)

          [第2部 復興](11)

          全身に傷を受けたまま、ただ黙って耐えている しかし実際には、それ以上票は伸びなかった。9月13日、総会の10日前、議案書が各戸に届けられた夜に、平林さんから連絡が入り、伊賀さんが疎開先の名古屋から断わりの電話をかけてきた、と僕に伝えた。 「修復なんて、中途半端だよ」と言い捨てたそうだ。思いのほか、わがままな人だった、と平林さんはつぶやいた。その翌日、今度は瀬戸理事長が、田畑さんとの交渉が不発に終わったことを告げた。 「不動産の仲介業者がいろいろ説明してくれてね、本人も、総会

          [第2部 復興](11)

          [第2部 復興](10)

          ごく普通に話をしてみよう 翌日の朝、僕や賀来さんたちの「総会招集請求書」と、それを受けた理事会の「臨時総会開催のお知らせ」が各棟の掲示板に一斉に貼り出され、僕達の運動はついにオープンになった。臨時総会は、9月23日(祝)の午後1:30から、場所は前回と同じ、西宮市勤労会館で行うことが決まった。その夜から毎晩、僕は会社から帰ってくると夕食を簡単に済ませ、電話器を食卓に移し、マンションの住民名簿とノート、それに7月の総会の議事録をその横に置いた。まず議事録の最後のページに記され

          [第2部 復興](10)

          [第2部 復興](9)

          彼の突然の転向 それでも理事会は我々の提案を受け取り、検討する、と一応約束してくれた。瀬戸さんは終始、黙っていた。帰り道、長部さんは絞り出すような声で言った。 「もし理事会が本当に拒否するなら、ワシはやるよ」 「うん、そらここまで来たら、そうせな」と賀来さんもうなずいた。僕は黙っていた。マンションの下で3人それぞれの棟に別れた。夜、皆川さんから電話がかかってきた。 「申し訳ない」と彼は言った。 「三島さん、このままでは終わりません。なんとか良い方向へ持っていきます」 「お願

          [第2部 復興](9)

          [第2部 復興](8)

          この署名の持つ意味がわからんのですか? 8月の最後の週、A、D棟の署名が集まってきた。賀来さんや長部さんは、周囲の様子を気にして、夜中にこっそり書類を届けにきた。田代さんが集めるはずのB・C棟の署名だけがまだだった。田代さんは、この間僕の家で打ち合わせ会をして以来、行方不明だった。この話を聞きつけた遊び仲間のプーさんは、 「どうせヨットやろ、ハワイ辺りに遊びに行ってるのちゃうか」と無責任なことを言う。8月30日(日)の理事会に全署名を提出しなければ、9月中に臨時総会を開いて

          [第2部 復興](8)

          [第2部 復興](7)

          帰りの阪急電車 8月の下旬、僕の会社に中島さんから電話が入った。 「瀬戸理事長がね、三島さんと話したい、って。3人で会おうか、って」 「いいですよ。どこで待ち合わせます?」 「新阪急ホテルのロビーにしましょう。あそこは喫茶もできるから」そうですね、と電話を切った。 その夜7:00に待ち合わせのロビーに行くと、「三島さん、ここ、ここ」と僕を呼ぶ声がする。観葉植物の横にあるテーブルに中島さんと理事長の瀬戸さんがいた。 中島さんは律儀な背広姿(僕と同じだ)、瀬戸さんはノータイのカ

          [第2部 復興](7)

          [第2部 復興](6)

          私達が愚かだったのよ その週末の夕方、夙川の河原を散歩していると、(妻が「最近、あなた運動不足だから」といって、河原に設置しているストレッチ用の鉄棒や吊り環を使った体操を勧めるのだった)川上の方から、副理事長の皆川さんがジョギングしながらやってくるのが見えた。 「こんちは」と挨拶すると、皆川さんはタオルで額を拭きながら近づいてきて 「三島さん、うわさは聞いてます。近いうちに理事長が連絡をとると思います。いま、住民から理事会に投書がいっぱい来てるんですよ」 「そうですか。中身

          [第2部 復興](6)

          [第2部 復興](5)

          わしらが本気出したらどれほどのものか お盆休みの最後の日、僕は朝からリビングの電話台の前に陣取り、「一覧表」をにらみながら次々に電話をしていった。矢車氏の主張を受け入れ、E棟集会を全体集会に切り換えて、各棟から署名を集めることにしたのだ。そうなると僕一人ではできない。各棟に協力してくれる人を決めなければならない。池谷さんと相談し、 *A棟 賀来さん *B・C棟 田代さん *D棟 長部さん を代表メンバーに決めた。 賀来さんは、僕が理事だったときの理事長。田代さんはそのときの

          [第2部 復興](5)

          [第2部 復興](4)

          黒猫とジャズの部屋 月曜と火曜の2日間であっけなく11名の署名が集まると、僕は自転車に乗って阪神西宮駅の近くにあるNTTのサービスセンターに赴いた。自宅の電話番号を変更するためだ。署名活動が公になれば、須崎氏らの攻撃を受けることは目に見えている。以前夜中に正体不明の男から無言電話がかかってきて家族全員がノイローゼになりかけたことがあり、もうそういうのはご免だった。番号を変えると、会社や親族、近しい友人に通知しなければならないので面倒だったが、やむを得ない。変更したことを管理

          [第2部 復興](4)