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【映画備忘録】千年女優/2001年

最初に断っておくが,私は別に今敏監督の熱狂的な,あるいは狂気的なファンではない.

『千年女優』はリバイバル上映をしていたので初めて観ることにした.

キャッチコピーは「その愛は狂気にも似ている」らしい.
映画を観た人に聴きたいが、この愛はどの愛のことだと思いましたか?

千代子の鍵男への想い,
女優への想い,
立花の千代子への想い,
鍵男の絵画への想い,
あらゆる人の優しさ,
姫の殿への想い,
明治から終戦までの愛国心,
千代子の鍵そのものへの執着,
千代子の千代子自身への想い

この映画の登場人物はかなり少ない方だと思う.
千代子の女優半生に沿って話が展開されるため,全く違う役を同じ人間が演じているからだ.
それにも関わらず人の愛は複雑である.
複雑な割に,時代や人を超えて,1つの話としてまとまっているのは誠に不思議に思える.
あらゆる人があらゆる時代にあらゆる立場から現実でも幻想でも物語の中でもそれぞれの愛の下で行動を起こしていた.

若き日の人は自らの想いに真っ直ぐ従い,それぞれの行動を起こしていた.
途中,自らの行いを省み,後悔や撤回,謝罪を行う人々もいたが,これらは皆,年老いた人間の役回りであった.
しかも劇中劇の役ではなく,きちんとその登場人物としての回帰の中で後悔が描かれていた.

自らの想いを曲げないことが必ずしも良いとは限らない.
それは見方を変えれば頑固で意地っ張りと捉えられるだろう.
そういう人間は年上の人間から「君若いね〜」などと評されることもあるかもしれない.

さて,想いや愛を曲げない人間は若いのだろうか?
逆に,若いということは想いや愛に真っ直ぐな人間なのか?
長い年月が経った時,自分の友人がまだ幼い頃の初恋を真剣に追いかけていたとしたら,あなたは何を想い,どんな言葉をかけるだろうか.
初恋の人は死んでいるかもしれない.
国を愛した男は終戦によって愛する対象の失墜を感じてしまった.
一世を風靡した時の女優は,自らの女優人生が脇役ばかりであると自覚した時,その若さを妬んでしまうかもしれない.
これらはいわばルサンチマンの克服に過ぎないのではないか.
千年女優とは超人であり,走り続けるポジティブな少女が老いてもなお,光の先へ進み続ける話であると感じた.
それはルサンチマンにもがき続ける人にとっては狂気に感じるかもしれない.
だがこの映画で千代子と立花は明確に超人であり,愛に溢れる人間であった.
とてもハートフルな話である.

映画の表現としても恐ろしい.
時代劇の様なカメラワーク,
当たり前のようなイマジナリーラインの切替え,
似たシーンをカットして繋ぎ合わせる表現(名前があったら教えて下さい),
人に先の展開や映画の時間経過を知らせる表現,
2001年ということもあるのだろうか、宇宙スケールの話,
カラーの表現による半幻想世界の描写
そのどれをとっても素晴らしく,千と千尋の神隠しとはまた違った良さがある作品だった.
21世紀初年の映画として,『千と千尋の神隠し』と『千年女優』は観て欲しい映画と思っている.

現代では狂気に駆られるほど何かを愛することはcrazyと言われるが,秘めた想いでもその様なモノを腹に抱えた人はとても魅力的だと私は思う.


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