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【レポ】リゴレット 2023/05/20 歌劇団テオ・ドーロ 第2回公演【オペラ】

社会人になってから初めてコンサート参戦してきました!!
しかもリゴレット全幕公演観るのもお恥ずかしながら初だったのですが。。。
学生時代、抜粋で作品を扱っていた頃には気付けなかったことがたくさんあり
フルオケ演奏の贅沢さに酔いしれ、音楽の海に溺れてきました。。。

歌劇団テオ・ドーロ

団長は大坪正幸さん(21日公演のリゴレット役)。
こちらの団体は非常に珍しいフルオケのアマチュアオペラ団体(!)です。
団長さんを始めとしたご出演者の皆さんのプロフィールが多彩なご経歴で、
書きっぷりもとても楽しそうで、本当に音楽が大好きな方達の集まりなんだなぁという印象を受けました。
元々別の団体でも同様のご活動をなさっていたそうですが、そちらが解散された際、せっかくの取り組みを続けたいと意思を引き継ぐ形で新たに結成されたそうです。
国際的な活動もなさっていて、現地の方との音楽を通じた交流もされているような、非常に熱心な団体です。→facebook

公演について

20日、21日のA、B組公演の私は20日に伺わせていただきました。
まず思った感想なのですが、私、舘 亜里沙さんの演出もンンンンンンンンンのすごく大好きでした!!!!!!!!!!
自分も学生時代師匠の公演の演出助手をさせていただいた経験があるのですが
とにかく紗幕スクリーンと照明の扱いが効果的で、大道具も多くて椅子3脚と箱馬3段だけなのに、あんなに舞台の上に空間の奥行きを表現できるんだなぁって
お衣装も、色の扱いが巧みだなぁ。。。と
なんというかもう、すごく大好きでした!!!!!

序曲

序曲とても良かったです。。。
基本オペラって序曲に物語の全てが詰まっているんですが
ジルダ(福田 洋子さん)の死の予兆が前面に押し出されていて、リゴレット(川村 貢一郎さん)の苦しみが、避けられない悲劇の運命が全てそこに表れていました。
紗幕に左右上から舞台中央に向けて斜めに照明が射していたのが、天使の翼のようで、舞台中央に佇むジルダを後ろから包むような、ひたすらの愛のために命を落とすジルダを見守る、亡くなった母親の愛の描写のような
とても印象的でした。(こちらの一枚目のライティング)

ジルダが舞台を捌けた後、(多分廷臣の誰か?から)ピエロ帽を押し付けられるリゴレットが
「どんなに悲しくても笑わねばならない」ピエロの役割の悲しさと
お金を稼いでジルダを守って生きていくために、それまで多くの人を敵に回してきたリゴレットの業が全て本人に返ってきた
運命に嘲笑われるような、物語が始まる前からもう、胸が苦しくなりました。
あの時誰がリゴレットに道化の役割を押し付けたのか
メモを取りきれず、、、
「誰」が分ればもっと考察ができたのに非常に悔しいです。。。

第一幕

いざ物語が始まってからの群像劇。
廷臣の皆さんのわちゃわちゃ加減がすごく面白かったです。
酔っ払いの宴だけどお上品で、まだまだこれから飲むぞー!って感じが笑

そして登場するマントヴァ公爵(松原 陸さん)。
もう格好いい!ああ色男…!
ため息出ちゃいますよね。
ベロアな紺地に金の飾緒の付いたロングジャケットに胸元フリルの白ブラウスと
黒のカマーベルトにスラックス。
すごく正統派な貴族ルックなんですが、ビジューギラッギラのヘッドドレスがいい!!
首から上に女性的なアイテムがいきなり入ったので最初びっくりしたんですが
あの、古今東西、女性のアイテムを身につける遊び人 いますよね。
あのイメージ。あー浮き名流してそーって。
遊んでるけど上品で、陸さんご本人の雰囲気に合っていて
特にコーラスとの掛け合いから、公爵のプチソロに向かって
ピンスポが絞られてく中光ってとても綺麗でした。
個人的に椅子に座るときにジャケットの裾をバサッて翻される仕草が、
公爵の自信と傲慢さが透けて見えてめちゃくちゃ好きでした。
(3幕で公爵を「アポロ(ン)みたいだ」と例えるシーンがあるんですが
あのヘッドドレス アポロンの月桂冠のイメージもあったりしたんでしょうか?とにかく素敵)

チェプラーノ伯爵夫人(杉田 直美さん)も素敵でした。
柔らかいピンクのストレートドレスに髪をすっきり結い上げられて
白のロンググローブ。
なんとなく、なんとなーく、年上の伯爵に嫁ぎたての幼な妻←
善良な人だけど、イケメンの誘惑に揺らいじゃえる不満がほんのりある立場というか。
ここまで他のキャラクターもなんですが、人物設定がすごくしっかりしてらっしゃるんだろうなって感じました。
バックボーンからそれぞれの行動にものすごく説得力がある。
だから物語だけどリアルな世界にどんどん惹き込まれて、目を離したくない気持ちと
メモを取りたい気持ちとで上演中もう大変でした。

その後のボルサ(宇佐美 洋一さん)、マルッロ(堀 浩史さん)のはやし立てとチェブラーノ伯爵(小山 治彦さん)の怒り。
酔っぱらいのわちゃわちゃの最高潮でついに呪いが登場します。

モンテローネ伯爵(四方 裕平さん)。
この舞台で確か最初の「赤い人」です。
ネイビーの公爵と対照的で、一番強い色の衣装をお召しになられたはずなんですが、作品の中の登場のシーン数と相まって
キャラクターとしての印象は意外と薄いんですよね。
だからこそ、この先の悲劇の「呪い」や「死」そのものの象徴のような存在で、かえって不気味でした。

印象的で、皮肉だなと思ったのはコーラスが舞台の後ろで
前面で公爵とモンテローネ伯爵がやりあうシーンで
リゴレット、公爵の陰に隠れていたんですよね。
自分の娘に手を出されるとも知らず、庇護下に置いていてもらえると思っていたんだろうなと思うとなんとも言えない気持ちになりました。ああ無常。
だって、あんなにリゴレットが恐れたモンテローネ伯爵は
未来のリゴレットの姿なんですもの。

その後緞帳が下りて、舞台前の通路でリゴレットと二人目の赤い人、スパラフチレ(三輪 直樹さん)が邂逅します。
呪いへの恐怖と、人を殺す立場の人間への恐怖と、自分が今まで演じてきた役割への葛藤と、川村さん本当に演技がお上手な方だと思いました。

緞帳が上がって舞台中央手前のジルダ(福田 洋子さん)と紗幕の後方のモンテローネ伯爵と彼を抑え込む廷臣たち。
今回の舞台で一番印象的だったのが、「ジルダの後ろ姿」なんですよね。
板付きで完全に背中を向けたジルダの立ち姿が
顔が見えないことで地上の人間味が薄れるような。
彼女もまた象徴としての立ち位置が強く、美しいなと思いました。

白いブラウスに柄の小さい黒のスカートとハーフアップ。
娘の美しさが少しでも目立たないように、隠すようにする父親の愛を感じる服装でした。
バリトンで父親役を演じる方たちご本人の年齢のイメージに引っ張られているんだと思うんですが
私以前からジルダって結構遅くにできた子のイメージがあるんです。
お母さんもいなくて、過保護なくらいとにかくパパから大事にされた女の子。
ジルダが帰宅したリゴレットのマントを脱がせて椅子の背に掛けるって
なんともない日常の描写が、娘も父親が大好きで、ささやかだけど幸せな家族像が見れて、暗い物語ですが少し気持ちが和みました。

乳母のジョバンナ(林 汀さん)はもう、最高でした。大好きです!!
物凄く深刻なストーリーなのに突き抜けるくらいのコメディを持て来てくれました。
リゴレットから娘を託されてるのにしれっと舞台の奥で公爵から賄賂なんか受け取っちゃったりして。
てか公爵、名乗る前にジルダにちゅーなんてしちゃってましたけど
あー手が早ーい!さすが色男ー!恥じらうジルダちゃんかーわいー!!
なんて。
そのあともパパが帰って来ちゃうのにいちゃらぶ止まない2人を引きはがせないでいるジョバンナ。
なんというかもうコテコテなんですけどめちゃくちゃ笑えました。

恋を自覚するジルダも可愛い可愛い思ってたら
やって来てくれちゃいましたよね廷臣軍団。。。
やってることは人さらいなんですがこれまでの演出のおかげで
彼らを憎み切れないというか
この後の公爵も含めて本当にひどいことしたはずなのに比較的マイルドに受け止めれて
悲劇のバランスの取り方って大事なんだなって。
楽しめる悲劇というと、軽薄に聞こえてしまって難しいんですが
あくまで「エンタメ」だから、観る側が楽しめなきゃいけない。
重さの匙加減が絶妙でした。

第二幕

この時点で3,000文字突破しました。
すみません。私の愛は重いです()

休憩明け、どうするんだろうと思っていたら
幕が上がったら舞台のそこら中に人が倒れてる。
明るくなった瞬間とか、1発目のインパクトがすごく良くて
一旦現実世界に戻った意識が一気に物語に引き込まれました。
別に凄惨な事件現場ってわけでもなくて
単に酔いつぶれて寝入ってる廷臣たちだったんですが、公爵がお尻を叩いて起こしていたのもユニークでしたb

公爵のソロの始まりで紗幕に天使の翼ライトが当たって、ジルダを思う公爵が、この瞬間だけは精神的に救われていたんだろうなと(結果は、まあ、ですが.…)

公爵と廷臣の釣果報告もだいぶコメディでしたよね。
廷臣の歌の後ろ、紗幕の奥でジルダさらいをもう一度表して
テレビのイメージ映像リプレイのような。
廷臣の皆さんのちょっとぎこちない群舞(笑)も何となくジブリのエンディングみたいで
笑っちゃいけないんですけど笑えました。

物語が一気に進むのって第二幕以降だと思うんですが、
ここからはもう落差の演出が非常に巧みで
さらわれた女性の正体に気づいた後の公爵が最初意外と冷静だったのも
じわじわ喜びをかみしめていたのだと思うんですが
そんな純粋に恋をした、愛したなんて歌っていた人があっさりマッダレーナに言い寄る辺り、結局こいつ変わんないんじゃん
救いようのない男だなっていう失望だったり(陸さん本当にごめんなさいあくまで役に対しての話です)
企みに成功した側に共感してちょっと浮足立つ気持ちにさせられたところに
足を引きずるメロディラインと登場した悲痛のリゴレットを見て内心急降下。

お小姓の登場で少しマイルドになりますが、
何が残酷ってこの後ですよね。
廷臣の群像劇が本当に効果的で、
さらった女性の正体がリゴレットの娘だと知った瞬間皆さんちょっと衝撃受けてたんですよ。
なのに悔いは一切してない。
普段さんざ見下していた道化ごときの情婦になら何をしてもいいって前提。
驚いたのは女性の正体が思っていたのと違った事実についてだけ。
あれだけ娘を返してほしいって苦しみに苦しむ父親の訴えを完全に黙殺。
無視って下手にリアクションとられるより刺さるんですよ。
リゴレットも確かに廷臣から恨みをかってはいたけれど
だからってこんな仕打ちありかって。

なんとかジルダと再会できたことでいったん廷臣を許そうとしますが、ジルダからの衝撃の告白。
このシーンのジルダ、スカートを履き替えていたんですよね。
その後のジルダの内心の打ち明けでまた翼のライティングが差すんですが
私の気のせいかもしれないんですがこの時冒頭の時よりも光量落ちていたように感じたんです。
ジルダの中の一番が父親から公爵に変わって、彼女の(ある意味異常なくらいの)純粋さが薄らいで、人間らしくなってきたことの表れなのかと感じました。
その後のモンテローネ伯爵の処刑のシーンでリゴレットの「敵」が明確に変わるわけですが、
ジルダの祈りも「憎しみを抱いた父親」に対してでなく
「愛しの男」のためで、お父さん報われないな.…

第三幕

4,600文字です。すみませんあともう少しだけお付き合いください。

第二幕の冒頭が衝撃過ぎて、今度はどんな始まりかとわくわくしていると
まさかの抱き合う公爵とジルダ。そこに邪魔しに現れるパッパ。
公爵挨拶もしないで退散するんかい!!って思いましたけど、
本気でもなければ責任取るつもりもないから、そういうことできるんですよね.…ほんと色男←

かーらーのーリゴレットといえば、の公爵のアリア(カンツォーネ)。
大変すばらしかったです。

続いて4重唱。
本作の一番美味しいところですよね。
三人目の赤い人、マッダレーナ(久利生 悦子さん)はやっとここで登場するんですよね。
「情に厚い女」いいですよね。登場即舞台の中央を陣取って。
ここ公爵&マッダレーナが下手側だったのちょっと意外だったんですが
思い返すと本公演全体的に下手側にウェイトが寄っているんです。
「偉い人が上手」からすると最初に公爵が座った椅子も下手側で
違和感あったんですが、もしかして「感情の熱量が高い人」を上手に置く演出だったのかなぁなんて。
終始軽薄な公爵は下手で、娘を傷つけられたモンテローネ伯爵は上手から。
稼ぐ気満々のスパラフチレは揺らぐリゴレットに対して上手から現れて、恋に破れたジルダと憎しみの炎を燃やすリゴレットは上手。
かも?しれ?ない…

この4重唱しれっと注目ポイントでした。
もちろん音楽的にも派手なシーンなんですが
今まであれだけベッタリだったリゴレットとジルダの間に初めて物理的距離ができるんですよね。
他の女とのいちゃらぶを見せつけられて失恋の最中とは言え
一応まだ公爵が好きなジルダに対して
娘の気持ちは一切無視してとにかく殺意を燃え滾らせるリゴレット。
親子の精神的乖離が静かに表れていて、この先の悲劇に向かってもう未来は変えられない予兆を感じました。

なんてまじめなこと書いてますが、4重唱終了後の公爵とマッダレーナにはもう
「わーぉ」としか言えませんでした←

あとはもう、止まらない。
マッダレーナも恋に落ちてしまって、何とか公爵殺害を止めようと兄のスパラフチレを説得するシーンですが、あんなに男あしらいの上手い姐さんの純情さはたまらないですよね。
それを仕事の流儀で突っぱねるスパラフチレも格好良かったです。

嵐がやって来て、鐘が鳴って、時間がないと焦るジルダとマッダレーナの心臓の音に駆り立てられて。
殺されることを覚悟で歩いていくジルダのまっすぐに伸びた背中が悲しくなるくらい美しかったです。
舞台中央、箱馬の一番上でジルダの胸を貫くんですが、
ジルダを挟む兄妹が紗幕一面の赤に溶けて、刺し貫かれるジルダの白いブラウスが際立って、鮮烈な殺しでした。

その後約束の12時が過ぎて
スパラフチレの「仕事」を確かめにリゴレットが登場するんですが
日付を越す刻の音が葬送の鐘に聞こえて…

ジルダが殺された場所と同じ舞台中央箱馬のてっぺんから
リゴレットが死体袋を引き摺って降りてくるんですが、
ゴルゴダの丘のキリストのアンチだなって。
なんの救いもない。

ついに殺したと仄暗い歓びの中にいるリゴレットの耳に
あのノー天気な公爵の歌が聞こえてくるわけですよ。
(演出上は空の袋でしたが)中身が入っている重さを知っているリゴレットからしたらどれだけ衝撃か。
袋の口を開けたら出てきたのは瀕死の実の娘。
もう呆然とするしかないですよね。

また紗幕に天使の羽が映って、真っ白いストレートのドレスを着たジルダ(の精神)が上手奥から歌いかけるんです。
そのまま死に行きながら下手にジルダは捌けて、舞台にはひとり
リゴレットが取り残されて、終幕でした。

舞台の外のこと

本当に素晴らしい舞台でした。
ありがとうございました。
最後に、公演内容とは関係ないのですが、現地に赴いて感じたことです。

歌劇団テオ・ドーロさん ものすごくお客様を大切にする団体さんだと思います。


こちら当日ホールの入り口に掲示してあったものなんですが、
休憩時間まで事前に細かくお客様に掲示することあまりないんです。
ホール側で、地元の方に優待チケットを出されていたこともあると思うのですが
何となく、オペラやクラシック音楽・ホールに慣れていないお客様が多い印象でした。
慣れている側からすると
だいたい何時に終わって休憩が10分入って~みたいな
感覚で分かっているところもあるのですが
まず15分の休憩は長いですし、
土曜とはいえ夜公演で帰り時間を気にされる方も多い中、素晴らしいホスピタリティだと思います。
カーテンコールもとてもあたたかくて、マエストロの山内 亮輔さんもオケの皆さんに慕われていて、本当にいい団体だなぁと思いました。

素晴らしい夜をありがとうございました。
今後ますますのご活躍を心からお祈り申し上げます。
Bravi!!

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