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【エッセイ】深夜ラジオに救われた話

前記事を読んでもらえれば分かるのだが、この1月まで約1年間くらい一人暮らしでほぼ誰とも会わない自粛生活を送りつつ、修士論文を書き上げるという課題に直面し、タスクそのものへの苦悩よりも、孤独やキャパシティと向き合うことで自分の心の問題が浮き彫りになった1年であった。

そんな日常に、灯をともしてくれた存在が、深夜ラジオである。
特に、面白い芸人さんたちが話しているラジオたちには、非常に心が助けられた。

だいたい、昼頃に起きだしてコーヒーを何杯も飲みながら、少し研究をすすめる。(基本的にっちもさっちもいかず、必要な文献を借りに大学まで行くこともダルく感じてしまって、研究へのやる気もそがれる悪循環である。)
午後2時か3時くらいに、昼ごはんを食べる。大体、自分で麺ものを茹でるか、近所のラーメン屋さんや丸亀製麺にいく。帰宅して、コロナ関連のニュースを見ながら(あまりに家から出ないので、世間からの隔離が不安にも感じてしまうため、コメンテーターの危機感を煽ったり、ただその場を凌いでおこうというような言葉が少し耳障りに感じても、一応大きなニュースは追っておこうということである。)少し、書く。
ひと段落して、少しごろごろして、夜ご飯を何か適当に食べて、タバコ吸って、夜中の4時ごろまで書いたり、悩んだり、少し寝たり、何とも不健康である。

深夜ラジオ大体、この夜から夜中の時間のリアルタイムか、麺を食べに行くときにタイムフリー(聴き逃し配信的なもの)で、聞いていた。

ラジオの深夜放送は、定義としては零時から五時の枠らしい。NHKの『ラジオ深夜便』なんかは、今二十三時すぎから五時までやってて、固定リスナーがたくさんいるみたいだけど、俺は聴いたことがない。トシヨリ向きって感じで。まあ、今の民放ラジオが、若者の世界だなんて言わないよ。どうやら黄金時代に生まれそこなったらしいし。終わった文化と言われることもある。深夜番組のスポンサーも減ってる。
佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』より

この小説は、2016年のもので、当時まだ放送中だった『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』(のち、ゼロ)のリスナーが主人公及び主な登場人物である。ラジオのリスナー同士がリアルで出会うことで生まれた人間関係が、停滞していた主人公の生活のささやかな突破口になる。
引用した部分は一部で、鬱屈とした生活にどれだけラジオというものが糧になるか、特に心の糧になるか、がよく分かるのではないかと、是非全ラジオ好きに布教して、全編読んでほしい小説だが、本作の定義によると深夜ラジオはこうだ。
しかし、これは2016年の話で、実際昨今芸人さんのラジオっていうのは盛り上がりを見せているのではないだろうか。芸人にフォーカスした雑誌で特集が多く組まれ、ムック本も出ている。そして、かのオシャレ文化雑誌BRUTUSでも特集が組まれた。

そんな盛り上がりを横目に、しかし精神的に弱くなっていた私は(特に、いつ終わるともわからない孤独と自己の能力のなさと直面したことによって)、
むしろそれを「楽しむ」というよりも「人の言葉、それも公的に発される(授業や学会など)言葉よりも、もっと私的な、どうでもよい無駄話」の言葉を渇望するような感じで聞いていたと思う。終わらない修論と、孤独、誰もいない生活、しんどさ、そんなものに頭をもたげる空白の時間を、とにかく誰かのどうでもよい(だけど聞きごたえがある程度には十分面白くて、とにかく笑える)言葉で埋めたくなっていた。聞いてれば、孤独じゃない。聞いてれば、周りの楽しそうな人々の存在もそんなには気にならなくなる。
そんなわけで私は、radiko(スマホ用のラジオ視聴アプリ)のエリアフリー(月額を払うと、居住地域以外のラジオも聞けるサービス)にまで加入してしまう。暇さえあれば青いアイコンのこのアプリをタップしていた。

月曜日

好きなラジオは週の後半に偏っていて、だいたい日曜から月曜は、過去回を聞き直しているのだけれど、そんな月曜日の夜の唯一の楽しみが『ダイアンのよなよな』(よなよな…月曜日)である。ABCラジオで放送しており、つまり拠点は大阪なのだが先述のエリアフリー、あとよなよなに限ってはLINEでラジオブースの映像自体を配信している。2時間半の放送と、なかなかボリューミーなこともあり、東京の芸人の人気ラジオと比べると少しトークのテンポはゆっくりで、そこが心地いい。バンバンボケを量産するラジオも好きだけれど、ダイアンのゆっくり時事問題や天気の話、過去の(大体中学時代、NSC時代、baseよしもと時代の話が多い)話を割と漫然と、しながらも、時折クスっと笑えるノリは、ちょうど作業をしながら聞くのにちょうどいい。
これはこのラジオに限らずダイアンの好きなところなのだが、時事問題や芸能ゴシップを話している割にネットニュースになるような主張があまりない。逆に言えば政治の話について「まあ、みんな体壊さんようにな…」とか、「もっといっぱい寝て、一回落ち着いて…」とか、そういうふわっとしすぎたことを言って、どちらかが笑いながらツッコみ、オチになる。このなんともふんわりした会話、何の意味もない流れを面白くできるダイアンの話力と独特のテンポって、すごい。でもやっぱり、同級生だということがあって、過去の友人の話とか、名前は出てこない無数の先輩や同級生の話は、本人を知らないのにクスっと笑える。ユースケが意味のない、というか意味の分からない話を延々と続け、津田が慌てて(でもたぶん泳がせながら)たしなめる。最高な流れ。
ABC制作ってこともあり、ダイアン自身が元ファイナリストなのでM-1の時期には、ファイナリストが出揃ったくらいから彼らのインタビューも交えてゴリゴリの賞レースの話もある。活躍した芸人が後日ゲスト出演することもある。(昨年の年明けは、以前から親交の深かったミルクボーイ、今年はおいでやすこが)ABCお笑いグランプリの勝者(ユースケは審査員を務めた)コウテイもゲスト出演して、若手っぽい強い、熱いボケをかましてくる2人をダイアンがゆっくりと、静かなツッコミをいれながら聞く回もとてもよかった。津田の、若手のネタを見る目が優しいところが、実は好きだ。コーナーも、もちろん芸人さんのラジオに付き物の大喜利的なコーナーもあるが、普通のラジオのような、エピソードをただ送るコーナーもある。私も何度かメールを読んでもらって、うれしかった。一番、いい意味で頭を使わず(ゆるいボケが心地いい)に聞けて、だけど笑えるラジオだ。

火曜日

芸人ラジオ好きなら切り離せないTBSラジオだが、少しコーナーの内輪ノリが激しくて、聞き始めるのにハードルがあるな、と思うことがたまにある。その中でも、これだけは聞いている…っていうのが言わずと知れたラジオスター、『アルコ&ピースD.C.GARAGE』。「今日のゴシップ」、どうでもいい(よすぎる)スポーツ、サイエンス、芸能…あらゆるジャンルのゴシップをアルピーの二人が茶々を入れながら、連想される話をしてゆく。アルピーのトークはオチに至るまでの構成がしっかりしていて、笑いどころがはっきりとわかる。あと、(たぶんラジオ歴の長さからか)腕のすごい職人がついていて、それにアルピーがバンッバンツッコむ。それゆえに、コーナーも自由度が高くて、メールを送る側は大変だろうな、と思う。ごくごく最近はじまったコーナー(期間限定なのだろうか?)で恐縮だが、「ブレインスリープ」というコーナーがある。これは、リスナーが「寝て忘れたいこと」を投稿し、平子があのいい声で何とも言えない失敗話、意味不明なしんどい話を読み上げ、(時たまチャンサカがツッコむ)最後にブレインスリープ…と呟く。(だいたいもうこの一言でオチる)これが何とも良い。長々と構成された、もはや短編小説のような(女性へのしつこいアプローチのせいで避けられるという流れを何度も繰り返してしまう)少ししんどさのあるエピソードの後に、「鯛めしつくったら、味薄かった」、「Tinderで龍とマッチングした」とか、短い、意味不明などのエピソードが来る。「コーナーの流れ自体」で笑わせてくる高度さがある。先述の小説を読んで一層思うのだが、アルピーのANN時代のリスナーでありたかった…とおもう。

金曜日

急に飛んで、金曜である。私が、ラジオを聞き始めたきっかけの番組がまさにこの『霜降り明星のオールナイトニッポン0』だ。霜降り明星のコアなファンである地元の友人(過去記事に書いた、高校時代に出場した漫才大会でコンビを組んでいた元相方である)から「霜降りのラジオにヤバいコーナーがある」と言われて聞いたのが、今は無い「ポケットいっぱいのひみつのコーナー」(「通称ポケひみ」)である。「クレイジーマン」という時折出現するせいやの別人格(憑依人格?)がアグネス・チャン(せいやが大のアグネス好きであることは有名だが)の「ポケットいっぱいの秘密」に乗せて(この曲は、とんでもなく耳に残る。甲高い声で、あまり何を言っているか分からないけれど、合いの手とリズムが本当に耳に残る。)、リスナーから来た本当に大したことのない「秘密」(というか豆知識、トリビア的なもの)を読み上げ、クレイジーマンが「知っとるわ!!!!!!」と突然キレはじめたり、関連する言葉遊びを始めたり、ギャグを言ったりする。(余談だが、このコーナーの間の記憶をせいやは忘れている、ということになっているという不思議設定。)粗品はとにかく突っ込む。相手がまったく聞いていない状態にツッコむのって、そういうボケだと分かっていても結構難しいのではないかな、と思う。このコーナーは去年の初めころにあっけなく(しかも「意味がなさすぎる」という今更も今更すぎる理由で)終了してしまったのだが、このコーナーが思わぬ活躍をその後見せる。(この話はラジオ好きには有名すぎるので、詳しくは割愛するが、)せいやが週刊誌の報道で騒がれた直後の放送、(基本的にラジオはボケなしで本音が語られる場だと「思われて」いるので(本当にそうだろうか…?実際、ラジオ上でボケていない彼らを私はあまり見たことはない。地上波以上に「場の空気」や他の芸能人との絡みが無い分、むしろゴリゴリにボケ倒してるやろ、と思っているのだが)彼が何を言うのかネットニュースの記者が注目していることを見据えての戦略だろう)この「ポケひみ」のコーナーを復活させ、放送時間全てをこのコーナーで埋めてしまった。(しかも放送後に更新され、毎度その回の目玉のトークテーマが記載されるHPに、この日は「今日は特になにもありませんでした」と書かれていた痛快さである)「ポケひみ」を知らない人々は「ギャグでつないだ…!」という感想も散見されたが、そもそもこれは別人格であり、憑依でもある。正確にいうとこれは「せいや」ではない。それが、この放送回にとにかく適していることで、それが分かっているだけにリスナーはより一層アツくなっただろう。
通常回も、生放送独特の番組の序盤にはじまったノリを、霜降りの二人もリスナーも形を変えてどんどん繋ぐ形ですすむ。
粗品がとにかく、失礼ボケ、本音(を言いすぎるという)ボケをして、せいやがツッコむことの方が意外と多い。コーナーは、この二人らしいゴリゴリの大喜利である。生ぬるいものはあまり採用されない。
最近のノリ、というかトークテーマで好きなのは「奇人」の話である。「奇人」とは、せいやの実の父親のことである。家族全員分のチャーハンを一人で全て食べた(理由を問いただされると「わからん」とだけ)、何も言わずに霜降りの出るイベントに急に来る、うるう日生まれ、など奇々怪々なエピソードのあるせいやの父親のことを粗品が「奇人やんけ」と呼び始めたのを皮切りに、各コーナーで奇人を取り上げるメールが増え、その都度「いや俺のオトン!!!!」とツッコむ。粗品も実の父親が亡くなったことすらボケにするが、このイジりは「奇人」という語感の面白さも相まって(「鬼人」とたびたび曖昧になる)芸人やなぁ…と思う。

土曜日

https://twitter.com/damashiuchiinfo?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

土曜日もまた、この二人。M-1グランプリ優勝以前から、大阪のABCラジオでやっている番組で、特にANN0(あ、降格決まったからそろそろ0はとれますが)のようなガンッガンにボケをつくっていくノリとは違って(とはいいつつこのラジオでもボケは激しい。緻密に作られ、霜降りらしい、頭を使わなければ理解できないボケである)、少し大阪で起きた内輪の話(ラブおじさん、ニッポンの社長ケツら、せいやの元同居人たちの話は鉄板である)もある。(R-1優勝直後に粗品が号泣したのもこのラジオ。)しかし、そんな、よりコアなフリートークとは打って変わって最近のコーナーは霜降りの数ある全仕事(もちろん私も全てを追えているわけではないが)の中で一番尖ってるんじゃないか?とも思われる。最近、二人はとにかく「歌」を募集している。「かわいい歌選手権」、etc,せいやは歌詞(大体が意味のわからないもの、支離滅裂で何の主張もない)を募集して、節をつけて歌う。これに、粗品がツッコみ、そのツッコミをせいややリスナーがキレるというノリもある。粗品は「粗品の好きそうな歌募集」、これはすごい。
実際にある歌を送ってくる場合もあるのだが、リスナーが声を吹き込んだ生音源が流される(素人の、それも中学生くらいの男の子の何とも言えない自作ソング、しかも大体がアカペラである)。もはや我々リスナーは一体何を聞いているんだろう、という気持ちになってくる。何とも言えない仕上がりの素人生音源に流れる空気と、霜降りのツッコミ。尖りすぎていて、絶好の現実逃避になっていた。

(このほかにも、毎週ではないけれど『上沼恵美子のこころ晴天』、「やすよともこのOFF MODE』(終了は発表されてしまったが)、『ミルクボーイの煩悩の塊』、『ラランド・ツキの兎』、『宮下草薙の15分』、『和牛のモーモーラジオ』、『三四郎のオールナイトニッポン』なども不定期で聞いていた。)

不思議なもので、孤独なことがつらいのにも関わらず、一度孤独な状態で抑うつになってしまうと、もはや外に出たり、人と会って話すことすらしんどくなってしまうのである。日常の動作すらしんどくなり、いわゆるセルフネグレクト的な、何もしたくないモードに入ってしまう。そのとき、人の声、何かくだらない話、どうでもいい話、自粛生活の大学院生が失った少しほっと心が落ち着く時間と、人との繋がり。そういうものを手軽に手に入れられるものが、耳に入れるだけで笑いと会話が聞こえる、ラジオだった。

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