個展「夜も川は流れている」について
2月19日から3月3日まで、SUNNY BOY BOOKSさんで個展「夜も川は流れている」を開催します。
店内への入店が3人までということもあってお越しになった方がゆっくりご覧いただけるよう、在廊しない期間も多くなりそうなのですが、そのあいだも展示をより楽しんでいただけるよう、本個展について考えていることを書いておくことにしました。展示とあわせてご覧いただければさいわいです。
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本個展にステートメントはありません。そのかわりに詩を書いています。
夜も川は流れている
わたしたちは 眠り、わすれ
黒鍵のない ミとファのあいだのように
白い雪の上を 歩くのです
個展会場では、こちらの詩につづく3連をふくめた14行の詩をおさめた詩集を販売しています。SUNNY BOY BOOKSさんのオンラインショップでも販売予定ですので、もしお越しになれない場合はぜひそちらもご覧ください。
本個展では、いままでわたしのなかにあった形の輪郭をいったんほどき、ある瞬間において現象として重なり合うさまざまな気配を紙の上にとどめてみる、という試みをしています。遠いのにはっきり見えるとか、近いのにぼやけているとか、見えている色が次の瞬間には別の色になっているとか、客観的なまなざしや常識や先入観はいったん脇に置いておいて、ある光景を見つめるひとりの人間の世界の見え方に焦点をあわせています。
歩いていて突然ピントがあってしまう、ささやかな、けれどきらめく何か。その光はわたしをとらえ、わたしの暮らしを立ち止まらせる力があります。そういうものと出会うたびに、わたしはわたしの人生に立ち返ります。わたしが見たのはいったいなんだったのか?それは現象としてはすぐに失われ、言語化することも、形にすることもむずかしく思います。けれどそれはわたしの心にとって大きな価値のあるものなのでしょう。そしてそれはひとりひとり形は違えどきっと誰しも心のなかに抱いているものなのだと思います。
箱根湯本の旅館に泊まった夜、真っ暗な部屋で目を閉じたとたんに川の音が聞こえてきました。夜も川は流れている、それはほんとうにあたりまえのことなのですが、わたしがいま眠ろうとしているさなかにも川の上流からはとめどなく水が流れ続け、海へと送られていくのだと考えると、その瞬間にもう世界の見え方が変わってしまったように感じました。次の瞬間には真白の新雪を踏むように、世界を新しく歩いていくような、そんなことの繰り返しが人生のなかでおこなわれている。それはたぶん希望であって、ピアノの鍵盤の低い音に支えられて高い音が弾むように新しく生きることができるのは、逆説的にわたしたちが続いているからなのだと思います。
世界は無数の面ででき、多層的である。その全貌を見ることも、その謎を解き明かすこともできない。できないからこそ、わたしは世界のある一面を発見したとき、そのふくよかな世界の姿を想像することができます。発掘調査の現場で土器の破片を掲げ見るような気持ちで。
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本個展ではラッピングペーパーもご用意しています。ご自身へのプレゼントはもちろん、大切な方へのプレゼントにもぜひお使いください。
柊有花個展|夜も川は流れている
2022年2月19日(土)- 3月3日(木) ※月・金休み
12-20時(最終日18時まで)
SUNNY BOY BOOKS
〒152-0004 東京都目黒区鷹番2-14-15
(東急東横線・学芸大学駅東口徒歩約5分)
お問い合わせ_info@sunnyboybooks.jp
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