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第七話シノノメナギの恋煩い

「意外と出会いあって羨ましいわよォ」
と言うのは大学のサークルで一緒だった薫子(本名は薫、わたしと同じ心は女で派手な格好をしているドラグクイーンみたいなメイクアップアーティスト)。横で頷くのはサアヤ(彼女はわたしたちとは反対で中身と心と戸籍は女、ボーイッシュなヨガインストラクター)

サークルの仲良しメンバーだったこの3人で不定期に近場の酒屋で近況報告をしている。
3人とも結婚してない。薫子は外人の彼氏はいるが。

「でも既婚者のおじさんはパスよ。妻子持ちはアウト」
「サアヤ、それはわかってる……流石に」
歳を重ねるうちに二人は東京や世界に飛び回って。
わたしは地元の図書館でしがなく働く……でも集まればなかなか運命の人はいないねぇと語り合う仲。

運命の相手にはなかなか恵まれないけど友達が多いことがわたしの人生の支えだけど自然と女友達が多いわけで、30を超えると結婚だの子供だのでこうして夜に飲みに出かけられるのもこの二人だけである。

「ジロウって男もなかなか気になるわね。混んでても梛のところに並ぶって……」
「でももう片方のカウンターの人よりも梛の方が手際がよいとか? でも梛に微笑むとか……んー、ただの良い人ってだけじゃない?」
とわたし無視で二人の中で考察が始まる。そういうのが好きな2人だ。

「お見合い案件も受けてみたら? 写真はどんなのか知らないけど、写真写り悪いってことあるじゃない。人は見た目だけじゃないって」
……って薫子は言うけどさ。そりや薫子も見た目で苦労したけどメイクアップアーティストとして実力をつけてきたから言える言葉であって。

「いやいや、人は見た目が8割でしょ」
ってサアヤは現実的だ。

「それより梛、まだ同棲してるんだっけ。アパレルのあばずれ」
あばずれ、と言われてる寧々。薫子にとってはそうらしい。一回飲んだ時に考え方の違いで口論になって薫子は気に入らないらしい。
「同棲じゃなくてルームシェアだよ……今日も合コンだって」
「梛は寧々といつまで一緒なの」
「その……」

そんなこと言われても……どっちかが彼氏ができたらとか思ってたけど全くできない。

最初はわたしがたまたま訪れた服屋さんでわたしが男とわかっても分け隔てなく接客してくれてそっから仲良くなって互いにアパートの更新が近かったからルームシェアした仲だったわけで。

「そういや、まだいるじゃない……梛には!」
「え?」
「常田! 後輩の常田!」

……!!! 
わたしは常田の名前を聞いてびっくりして水を吹き出してしまった。

常田っ……常田……。

「背が高いし、イケメンだしクレバーだし……」
「ご実家は関西の呉服店だったんでしょ、元は」
確かにそうですけどぉ。二人は常田に会ったことがある。一回飲んだ。

「でも彼女いるんだっけ?」
「らしいけど、見たことない」
「本当かしらねぇ……」
また始まった二人の考察。わたしは常田……同僚のプライベートまで知る必要もないって思ってるし。
「あの甘いマスク、絶対今までモテないはずはないし優しいから女慣れしすぎてるってのはわかる」
「それ思った。女たらしってほどでもないけど弄んでそうってのはある」
有る事無い事また言うんだから。

でももし……付き合うことになったとして……常田と。

「でもわたしは常田と付き合ったとしても……支えることなんてできない」

とそんな弱音を吐いてしまう。

「……まぁ、そうかもだけど」
「……」
二人も言葉をなくす。二人は事情を知っている。常田のとあること。

……。

「はいはいはい、梛は周りに目の保養があります自慢はおしまいっ!!!! 次は私の話聞いてー」

サアヤが話を切り返した。
「はいはい、次は私! 彼氏との話を聞いてよー」

周りから見たら女子の恋バナで盛り上がっているように見えるだろうな……。

……常田も悪くないけどさ。

どうやらわたしが恋をするのはかなり高難度なんだろう、もうそんなのわかっている。
と思いながらサアヤと薫子の恋バナを聞き流していた。

続く

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