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宇宙幼稚園

今日は宇宙幼稚園の入園式。満開の桜が良い子たちを迎えています。
おや、園長先生の話が始まりました。どんな話か聞いてみましょう。
「皆さん入園おめでとう。わたしは園長のくまくらごんべえです。クマ園長と呼んでくださいね。この宇宙学園では名前にあるとおり、みなさんがうちゅのどこに行っても困らない立派な宇宙人になれるように遊びながら宇宙の楽しみ方をお勉強してもらいます。
もちろん皆さんが生まれたこの地球も宇宙の中の一つの星ですね。
では宇宙人の世界とはいったいどんな世界でしょう。
おどろくことに宇宙人の世界ではけんかや争いがおこりません。
そこではだれもが元気に笑っています。
そして自分のまわりを明るくすると自分が幸せになることを知っています。
だから自分の取り分が減るのがいやで争って取り合うよりみんなで分け合って楽しむことを選びます。
でも皆さんはこの地球のいろいろな場所で人と人が争っているのを知っていますか。
そこでは哀しいことにあなたたちの様な幼い子供たちが怖い思いや悲しい思いをしてくらしています。
自分たちだけがたくさんほしいと考えないで周りの人たちと分け合うことができればみんな楽しく暮らせるはずですよね。
でも大人たちはそのことに気づかないでもっと欲しいと大騒ぎをして争っています。残念ながら大人たちは自分が宇宙人だったことを忘れてしまっているんです。
でもね大人たちが戦争を始めたりお金を取り合ったりしてしまうのは仕方がないんです。なぜなら私たち大人は宇宙人の生き方を教えてもらえなかったからです。
ですから皆さんはこの学園で自分のまわりを明るくして人と争うことのない生活の仕方・考え方をしっかり学んでくださいね。いいですか?」
「ハーイ」とても元気な返事をきくことができたようです。
翌日から宇宙人になるための勉強が始まりました。教室をのぞいてみると、大勢の友達にテンションがあがって騒いでいる子やお母さんがいないので不安できょろきょろする子など教室はざわついています。
すると子供たちを見守っていた担任の先生が声を掛けます。
「皆さんおはようございます。私は今日から皆さんの勉強のお手伝いをするタンポポ組の田島みどりと言います。みどり先生とよんでくださいね。わからないことがあったら何でもきいてくださいね。それではこれから皆さんにはくつをはき替えて庭に出てもらいます。いいですか。それでは始めてください」
先生の号令でみんなくつをはき替えて次々に庭に出ていきます。するとくつをはき替えていた紗枝ちゃんが突然泣き出しました。
「紗枝ちゃんどうしたの」
みどり先生が声をかけると
「紗枝くつがなかなか履けないの」
ほかの子供たちが庭で騒いでいるのに一人取り残されて悲しくなったのでしょうか。
「紗枝ちゃんあわてなくていいのよ。くつをはき替えるのが早い人もおそい人もいていいの。いろいろな人がいるから楽しいのよ。でももし紗枝ちゃんがもっと早くはけるようになりたいならお家でお母さんと練習すれば少しづつ早くはけるようになるわよ。今は先生が手伝ってあげるからあわてないでくつをはきましょうね。」
「はい、先生ありがとう」紗枝ちゃんに笑顔がもどってきました。
「ハーイみなさん集まってください。これから皆さんにこの庭の中にあるものを観察してもらいます。この庭にもいろいろなものがあります。ブランコやシーソーなどの遊具がありますね。いろいろな木や草も生えています。花壇にはいろいろな花も咲いていますね。アリさんなどの虫たちも見つけられるかもしれません。あなたが気になったもの、面白いとか変だなとかかわいいとか感じたものをよく見て短いお話にしてみてください。短くていいからこの庭で感じたことをみんなに教えてあげてくださいね。では始めてください」
先生の話が終わると子供たちはわれ先に庭の中のそれぞれのせかいにはいっていきました。
遊具や砂場で遊び始める子、アリを指で追い回す子、お花に話しかけている子、なにをしようか悩んでいる様子の子など一人として同じ子はいません。
この学園では一人一人が違って当然と考えています。だからなるべく一つの形にはめ込もうとはしません。
おや、おそとのじかんがおわったようです。
「皆さん時間が来たので観察をやめてお部屋に戻ります。手をよく洗って戻りましょうね。」
教室に戻ると先生が笑顔で話し始めます。
「皆さんお庭のかんさつはたのしくできましたか」
「ハーイ」
元気な返事が教室に響きます。
「それではさっき話したように一人一人発表してもらいますよ。えーと、だれにしようかな。じゃあ直人君なにか発表してもらえるかな。」
元気いっぱいの直人君が一番に名前を呼ばれました。
「うんとね、アリが自分より大きいものを運んでいたの。チョウチョの羽みたいなやつ。それでちょっと邪魔をしてみたの。でもアリさんはやめないの。アリさんは本当に働き者の力持ちです」
立ち上がって発表していた直人君はほっとした表情ですわります。
「直人君ありがとう。アリさんは力持ちで働きものなんだね。よくかんさつできましたね。じゃあ次は美里ちゃんどうですか?」
美里ちゃんが緊張した様子で立ちました。しばらくもじもじしていましたが、やがて小さい声で話し始めました。
「美里はさくらのはなびらをたくさんあつめたの。去年ママがさくらのはなびらですてきなくびかざりを作ってくれたの。それで私もままに作ってあげたくてたくさん集めたの。かえったらままとつくります」
「そう、きっとお母さん喜ぶわね。桜の花びらだって首飾りになれたらきっとうれしいわね。じゃあ次は隼人君どうかな」
「はい」隼人君が元気に立ち上がりました。
「僕は準君と滑り台で宇宙船ごっこをした。僕が船長で準君は乗組員。下にいるみんなは火星人なの。それで火星人を一人地球に連れて行こうかって準君に言ったら,アイアイサーって準君が言って,滑り台を滑って行って愛子ちゃんを宇宙船に連れてきたの。それで宇宙船で地球に帰ったの。おわり」
発表を終えた隼人君は宇宙船の船長の顔になっています。
「隼人君はいつ本当の火星人が来ても友達になれるわね。今日は直人君、美里ちゃん直人君に発表してもらいました。三人はお庭でそれぞれの物語を見つけました。どれも素敵なお話でしたね。ほかのみんなもきっと素敵な世界を見つけたと思います。宇宙人はいつでもどこでも自分で考えたお話の世界を楽しむことができます。でももしあなたが欲しいものを独り占めしようとすれば争う物語になってしまいます。そんな時は一緒に仲良く遊ぶ方法を探してみましょうね。それからもしあなたのあそびたいものをほかのだれかが使っていたら自分の新しい遊び方を探してみるのも面白いと思いませんか。宇宙人は今あるもの使って遊ぶことが得意です。みんなもできるからやってみてください。
それから三人の話を聞いてわかるように一人一人の物語は違いましたよね。そう一人一人姿が違うように心も違います。きれいと思うものも一人一人違います。正しいと思うものも一人一人違います。だから自分と違うものも違うと嫌がらないで宇宙にはそれもあっていいんだと考えましょう。自分と違う意見を知ることも宇宙人は大好きなんですよ。
それからさっき紗枝ちゃんがくつをすぐにはけなくて泣いてしまいました。人は誰でも得意なこと得意でないことがあります。もし自分のペースと周りのペースが合わなくてもあわてなくて大丈夫ですよ。
この地球には人間以外にも動物や木や草などいろいろな生き物たちがいますよね。山や海などのしぜんとよばれるものもあります。宇宙人になるには自分のことだけでなく地球全体のことも忘れないことが大事です。自分のまわりのものにたいしてやさしい気持ちがあれば大丈夫ですよ。でもね、先生にも優しくできないときもあります。それはあって当たり前なんです。だからできない自分を責めたりしないでね。大事なことは自分がやさしくなれないときに気持ちがやさしく明るくなる方法を探してみることです。先生の好きな方法は優しくできなかった相手にごめんなさいって言ってみることです。そうすると不思議なことに先生のとんがっていた心が柔らかくなります。声に出して言えなくても心で思えれば大丈夫です。ほかにもあなたに向いた方法がきっとあります。探してみて下さいね。わかったひとはてをあげてください。」
「はーい」みんなの手が元気よく上がりました。
そして今日も宇宙学園ではよい子たちが学びを遊びに変えながらそれぞれの物語を心に刻んでいます。
もともと自分が宇宙人であることを思い出しながら。

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