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あなたはどう思う?義肢装具士の未来


<はじめに>

 私は、10年続けた義肢装具士を辞めました。いろいろあって2年のブランクを経て、この度復帰することになったのですが、このnoteは2年前に一度義肢装具士を辞めた時に書いたもので、公開ボタンを押す事ができずにいたものです。

少し古い部分もあるのですが、今後、義肢業界を背負う義肢装具士の方々の役に立てばと思います。

 本当は、酒でも酌み交わして、先輩や後輩や先生と、義肢装具士って将来こうなると思う!こんな風になって欲しいと熱い議論をしたかったのです(笑

 夫に、話すと「相変わらず熱い」と笑われる事も多いし、同じ義肢装具士をなかなか飲みに誘えなかったというチキンな面もあるのですが、noteであれば好きな時間に読めるし面白くなければ閉じればいいので少し気が楽です。

少し長くはなりますが、これを最後まで読んだ時、あなたは何を感じ、どう思うのか。馬鹿馬鹿しいと思うかも、賛同してくれる人もいるかもしれません。誰かの心に「へぇ、おもしろ」ってなったらいいなと思います。

<義肢装具会社も社会の一部である>

とりあえず、義肢装具士の未来の持論を展開する前に、共通認識として持っていて欲しい事を整理させてください。そんな一般常識知ってるって思う方は、すっ飛ばして読んでくださいね。

さて、義肢装具士って職業としてはマイナーな職業ですよね。しかし、どんなマイナーな職業であったとしても、会社である限りは社会や世界の流れみたいな物に大きく影響をうけると私は考えています。

では、今社会がどうゆう流れで、どこに向かっているのか、現在進行形で何が起きているのか知っておいた方が良いと思いませんか?

現代社会は、第4次産業革命が起きていると言われています。第1次は蒸気機関(例えば蒸気機関車の発明)、第2次は機械の発達による大量生産、第3次は、電子工学と言われていますが、簡単にいうとインターネットの普及です。では、第4次は、なんでしょう。

AIとIot及びビックデータの活用と言われています。その他にも、シェアリング・エコノミーであるとかフィンテック、C to Cなんかがビジネス書や自己啓発系の本を賑わしています。

そこのあなた、カタカナと横文字を見て閉じないでくださいね。

認識に誤差があってはいけないので、大まかに説明させてください。

AIは、人工知能です。Siriとかグーグルマップとかにも使用されています(AIについては後述で詳しく話すのでここでは、これぐらいで)。Iotは、Internet of things の略で、物とインターネットの融合を意味します。テレビが、わかりやすい例です。インターネット経由でテレビ欄を閲覧したり、dボタンで投票出来たりする機能が当たり前になりました。シャアリング・エコノミーは、エアビアンドビーや民泊が代表例です。みんなで持っている物をシェア(共有)しようという文化です。

フィンテックとC to C に関しては、今回は話には出しませんが、軽く説明しておくと、フィンテックは金融(ファイナンス)とテクノロジーを合わせた造語でAIが投資先を選んでくれるサービスなんかが有名です。C to Cは、Cはカスタマー(顧客)の略で、メルカリが代表的な例です。今までは、会社を挟まないと出来なかった取引(一度古着屋に服を売ってから欲しい人が買う)という流れを打ち破って、顧客同士が値段交渉を行いビジネスが成り立つというビジネスモデルを言います。

<さて、本題>

この社会の流れを受けて、義肢業界はどのように変化すると思いますか?

<議題1 AIに仕事奪われる問題>

第4次産業革命の大きな柱 ”AI” ですが、巷では、AIに仕事を取られると一時期話題になりました。10年後の仕事図鑑や、AIに関する書籍がバカうれしました。私は、読書が趣味なので何冊か読了しましたが、その中でも東大を合格したAI”東ロボくん”を作った方が書いた”AI VS 教科書が読めない子供達”が面白かったです。

さて、私達の仕事はAIによって奪われるのでしょうか?

結論、私は、奪われる人間とそうではない人間に二分されると考えています。

その隔たりは何なのか。

そもそもAIが出来る事と出来ない事があります。AIは人工知能と呼ばれてはいますが、思考が出来るわけではなく、出来る事は統計や四則演算です。つまり何が言いたいかというと、ルールが決められた上での処理は出来る。それも、人間より早く正確に行う事が出来る。

CADーCAMを思い浮かべてください。こちらが出した指示通りに、時には人間を超越する正確さで作成する事が出来ます。しかし、もうちょいアーチを高くなどの指示は出来ません。何故なら”もうちょい”というニュアンスを数値で表さない限りAIは理解が出来ないからです。

話を戻します。

仕事を奪われる人間が二分されるとは、どういう事か。察しが良い方は何となくわかったかもしれませんが、指示がなくては動けない、指示がないと判断が出来ない。不適合のフィードバックをもらった時、「指示書通りにやったから自分には責任がない」なんて言ってしまう人は、おそらくこの先AIに仕事を奪われるでしょう。だって指示通りにするのは、AIの方が正確で早いからです。

では、逆にどんな人がこれからの未来で必要とされるのか。

答えは簡単で、思考をしている人だと私は考えています。AIは数値化出来ない物は理解が出来ません。例えば痛み。足が痛いと患者が言ったと事で10段回のどのくらい?と数値化出来たとしても、その痛みが「痺れるような痛み」なのか「突っ張るような痛みなのか」数値化出来ませんよね。痺れる?神経かもしれない、突っ張る?角度設定を見直そうか、これは思考です。

客観的評価、主観的評価なんてよく使われますが、総合的な柔軟な判断こそが、これからも義肢装具士に必要とされる技能だと私は思います。

<議題2 敵は本当に隣の義肢屋なのか>

CAD ーCAMが普及すれば、指示まち人間はAIに仕事を奪われる。確かに大企業ではそうかもしれないけど、全社がCADを導入するのは無理だろ。という声が聞こえてきそうなので、そこについて持論を話します。

機械を導入するには、そこには先行投資の他にランディングコストが発生します。それを回収出来るほどの受注量がなければ、導入は難しい。そう思われることかもしれません。

しかし、時代は、所有の時代から共有の時代へと変化しています。シェアリング・エコノミーという新しい文化は、いつか産業にも大きく変化をもたらすのではないかと私は、考えています。エアビアンドビーで家を共有し、カーシェアリングで車を共有し、服はその時期の好みでレンタルして楽しむ時代です。

つまり、CADーCAMを数社で共有する事も可能なのではないかと考えます。

実際、外国では、そのような試みも始まっています。

そして、それが実現した時何が起きるか。

小さな会社がたくさん出来ると考えます。工場が共有出来れば、もう大掛かりな設備が必要なくなるので、本当は起業したいけどお金がないと踏みとどまっていた有能でガッツがある人達の起業が増えるかもしれません。

はたまた、隣の義肢屋と島を取り合っている間に時代は進み、再生医療やロボットリハが躍進するかもしれませんね。

私は、自分の仕事が今どんな立ち位置にいて、どんな状態なのか大局を見る事が大切だと思います。そんな事、あるとしてもずっと先の話だと思うかもしれませんが、スマートフォンが普及してピッチやポケベル、公衆電話は姿を消しました。ここ15年から20年の話です。20年後私は50歳ですが、きっと仕事をしているでしょう。

最近人気のウーバーイーツですら、10年後に完成する自動運転の中継ぎだと言われています。つまり、10年後にはウーバーイーツは、消え去っているという事です。その事を受けて、車メーカーのTOYOTAは、自動運転を基盤とした交通のインフラを設立するために行動に移しているそうです。好きな時間にアプリで車を呼び、行き先を設定すると寝てる間に目的地が日常になるという事です。そのプラットホームにTOYOTAが名乗りを上げている。もう、車を所有する時代が終わりがくる、車を作る、販売するという事業だけでは生き残れないと大局を読んだからです。

工場を共有する事に関しては、問題もたくさん出てくるでしょう。しかし、私は合理性と効率の良さから、共有する方が自然の流れに思えてきます。

<議題3 労働時間問題>

業界全体的に長時間労働なのは、周知の事実ですが、法律ではどのように定められているのか知っていますか?

2019年4月から働き方改革関連法案が施行されました。年間5日間の有給休暇の取得が義務化されたり、時間外労働が1ヶ月45時間を超える回数は6回以内と制限も厳しくなりました。具体的に、数値化すると2ヶ月に1回ぐらいのペースで年間休日とは別に有給を取得しなければいけないし、土日休みの会社であれば、毎日残業時間は、2時間から3時間が限度。土曜日出勤であれば、もっと少なくなります。

これってすごいハードルが高いように感じます。

50人規模の会社であれば、毎日誰かが有給を取っているという状態です。

しかし、法律なので、私の会社は無理です。が通用しません。罰金が発生します。そして、罰金より何より怖いのが、人材の流出です。

法律に違反していたとしても、現状は、労働者が通報するか、運悪くたまたま無作為の監査に引っかかるかしない限りは摘発されないでしょう。しかし、人材の流出は常に起こり続けます。

過剰な労働時間でも、もちろん喜んで働いてくれる方はいます。それは、その会社に属する事で、給料や時間よりも価値のある”経験”を手にいれる事が出来るからです。ベンチャー企業に就職する人達は、滅多に経験する事が出来ない会社の立ち上げに関わるという経験を欲して就職を希望するでしょう。

労働環境が良くなくとも、患者様の笑顔であったり、純粋にこの仕事が好き、たくさんの学びと経験が自分の人生を豊かにしてくれる。そこに、自分の時間をかける価値がある。そういう義肢装具士の方に、この業界は牽引されている事は事実です。が、少数派だと感じます。

仕事は、好きだが、一番は家族だという人。私のように女性で、母親で、妻である人。趣味の時間をたくさん取りたい人。そんな多種多様な人達が、同じ土俵で働くために労働環境の改善は必要です。

<議題4 オーダーメイドは必要か>

さて、労働環境を改善しなければいけない理由は、人材の流出を防ぐためと言いましたが、流出してもまた雇えば良いと思うかもしれません。

しかし、これからの未来、子供は減っているので労働人口は確実に減ります。10年先は、今のように容易に人材確保は出来ないかもしれません。そして、人材育成をするのにも時間と、コストがかかります。

人材を流出を防ぐ策を今から取らなければ、10年後には人材不足に困るかもしれません。そして、そのためには、労働環境の改善が一案としてあります。労働環境を労働基準法に合わせるためには、一人当たりが稼ぐ売上高をあげる必要があります。

平たく言えば、今よりも短い時間で同等かそれ以上の売り上げを叩き出せ。という事です。

難しい課題ように感じますが、直結している問題は日本全土同じです。介護業界などは、すでに人材不足が深刻化しています。

天才と騒がれている落合陽一の著 日本再興戦略という本があるのですが、そこにも同じように人口減少、少子高齢化を迎えた日本がどのように再興するかという話が書かれています。

答えは、一つ。テクノロジーとの融合でした。

今まで、機械の導入、またその機械も会社間で共有する事を持論として掲げてきましたが、もはやそうする以外に、労働環境を改善し、人材の流出を止め、少ない労働人口でも義肢装具士が健全に働く未来を私は想像出来ません。

これを実際に行うための壁はいくつもありますが、一番は ”オーダーメイドに対する自負” だと思います。

何を持ってしてオーダーメイドとするのか。という疑問もありますが。仮に、手作業で一つ一つその人のために作った商品とします。私達が、オーダーメイドに価値を感じる時はいつでしょうか。

自分にぴったり合うスーツを仕立てた時でしょうか?

しかし、その場合、自分にぴったり合う事がそのスーツの価値であって、ミシンで縫ったのか、手縫いなのかは問題ではありません。もしかしたら、ミシンの方が早いのでミシンでした方が価値が高いかもしれません。

装具も同じです。自分の体や生活にあった装具に価値があるのであって、CADで作るか、手作業なのかは患者様に取っては価値の判断基準になりません。

自分の可愛い孫がおばあちゃんのためにと書いた絵。であったり、有名陶芸家が作った一点物の皿、なんかは手作業でその人が作った事に価値があります。当たり前ですが、機械の大量生産した皿や、他のこが書いた絵では価値が低い訳です。

義肢、装具の価値は、オーダーメイドという作業工程に価値がある訳ではなく、最初の患者やドクターからの聞き取りで、どんな症状で、どんな生活をしているのか、からベストな提案を行う事が価値を生み出すのです。そこで、決定された処方が既製品であっても、オーダーであっても、それが手作業で作られていても、機械で作られていても、はたまた他社と全く同じでも価値を提供できるという事です。最後の適合で、フィードバックを受け入れ改善できるかなども価値に含まれるかもしれません。

先ほど、他社と全く同じという事を言いましたが、それは文字通り全く同じです。機械を共有し、全く同じ物が出来上がったとしても、商品ではなく提案と、適合に価値があるので問題ないという事です。

<最後に>

ここまで長いお話を聞いてくれてありがとうございます。最後に、なんで義肢装具士をやめたお前がこんなに熱く語ってんの?について話します。

GAFA(ガーファ)って知ってますか?

ばかにしてるの?と思われた方は、すいません。GAFAは、アメリカを代表する大企業4社の総称で、Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字を取っています。

この4社は、ITのプラットフォーマーと呼ばれています。プラットフォームとは、システムやサービスの土台や基盤を意味します。Googleであれば、検索エンジンが有名ですが、何かを調べる時は、ほぼGoogleで調べますよね?いやいや、私Yahooだしと思った方、Yahooの検索エンジンもGoogleなので、日本人の9割以上が何かを調べる時、Googleを使用しています。

つまり、何が言いたいか。プラットフォーマーは、大きく成長する可能性が高いという事です。わかりやすく言えば儲かるという事。

で、この話が何の関係があるの?と思うかもしれませんが、少し、聞いてください。

ここまで長い話をまとめると。

・第4次産業革命なる物が起きていて、その影響が義肢装具業界にもそのうちやってくる

・労働環境を現代に合わせて行かないと人材が流出して将来苦労する

・労働環境を改善する鍵はテクノロジー(AIや機械)と共有文化(工場を共有する事)

という話をしました。では、仮にAIを駆使して機械で義肢装具を作れるようになり、1社で持つ事が難しい(初期費用とランディングコストがかかる)機械は、地域の会社で共有したとする。

共有するという事は、管理が必要になります。各会社の間を取り持つ、管理会社的な役割、基盤を作る人、まさに義肢装具業界のプラットフォーマー。

プラットフォーマーになる会社が、今後義肢装具業界を牽引する。言葉を選ばずに言えば牛耳る事になるでしょう。

なぜか、

流通を例にすれば、Amazonで物を売る人がいて買う人がいます。一見、物を売る人が儲かっているように見えますが、一番儲かっているのはAmazonです。プラットフォーマーは、基盤を作る人、つまりルールを作る人です。Amazonで物を売る際、お店を出すのにいくらかかるか、それを決めるのはAmazonであり、取引ルールもAmazonが決定します。

さて、本題です。

プラットフォーマーが、その業界を牽引する事は理解出来たと思います。私は、そのプラットフォーマーが日本の会社であって欲しいと願いこの文章を書きました。

私は、オーダーメイド商品である事、手作業で作業する事に価値はないと言いました。誤解がないように言っておきたいのですが、こうした方が便利だろう、こうした方が喜んでくれるかも、そういった心遣いや、気遣いという物を実現する手法が、手作業だったと考えています。今までの機械では実現出来なかった。だから手作業、オーダーメイドで、一人一人に適合した物を作ってきた。

そこには、日本人特有の気遣いと優しさを感じます。チップ文化もない日本が、同じ値段でもより良い物を目指した結果、今でもオーダーメイドが根強く残っていると私は思います。

そういった心をもった人が、日本の義肢装具を牽引して欲しい。機械で作る装具にも、一人一人に合わせた気遣いや心使いを反映できるようなルール作りをして欲しい。

そして、障害者やそれに携わる人を幸せにする義肢装具士が、より幸せであって欲しいと願います。

〈本当の最後に 笑〉
私は、この度義肢装具士に復帰することになりました。義肢装具士が辞めたやつが、何言ってんの?って言われるのでは…と思い公開ボタンを押せずにいたのですが、最初と最後のみ編集して、自分の復帰記念に公開しようと踏み切りました。
ここまで、長く拙い文章を読んでいただき本当に、ありがとうございました。

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