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ママのこと 8

お久しぶりです。ゆかっぱです。

入社式に入学式、家族全員のお誕生日、
幸せな忙しさに追われていたら
桜の木はすっかり新緑でした。

桜といえば
ママのお店は岩手県庁前にある天然記念物の桜にあやかり
石割桜と名付けました。
銀座の路地にある古いビルの4階。
エレベーターを挟んでママのお店の他にスナックが2店舗、トイレは共同。
座席はカウンターが6席、座敷には4人席が1つ。

カウンターには大皿で定番のお惣菜が数種類。
メインは郷土料理「ひっつみ」。
うどんのような生地を手で薄く引き伸ばし
煮干しで出汁をとった野菜たっぷりのスープに入れて食べるお料理です。

小さなお店、という事もありますが
オープン初日からお客様がお店から溢れてしまうほどの大盛況で
入りきれないお客様はエレベーターホールの前に新聞紙を引いてでも良いから
食べさせてほしいとお願いされるほどでした。
予想を超えた事態に、同じフロアのスナックのママさんに
お詫びを申し上げに伺ったところ
「入れないお客さんはうちのお店で一杯飲んで待っていただいて良いわよ。
こちらとしても新しい客様にきていただいて大歓迎だわ」と
温かく受け入れていただいたそうです。

また、有名人がお忍び感覚でよく来て下さるようになり
狭いカウンターの隣の席に国民的大女優さんが座っていて
度肝を抜かれるという嬉しいサプライズが起きるお店となっていました。

そんなある日
ふらっと一人の男性がお見えになりました。
見覚えのないお顔なのでご新規様のようです。
ただ、何のお料理をお出ししても
お気に召さないようで 延々と文句ばかり。
最初は真摯に受け止め、参考にしようと思っていたママも
段々お店の空気が悪くなり
他のお客様にも絡み出すような発言を始めたその時

気がつけば手に持っていた台布巾を
そのお客様に投げつけて
「さっきから黙って聞いてればいちゃもんばかり抜かしやがって!
気に入らなきゃ食わなくて良いから
さっさと出ていきな!金なんかいらねぇよ!」と
追い出してしまったそうです。

残ったお客様からは拍手喝采だったそうですが
流石にその時は自分の短気をほんの少しだけ反省したそうです。

そんな出来事もすっかり忘れていたある日の事
夕刊紙を手にしたお客様が次から次へとお見えになり
一段とお店は繁盛することに。
なんとその夕刊紙にお店が取り上げられていたのです。

実はその失礼なお客様は新聞記者で
身分を明かすと普段通りの接客がしてもらえなくなるため
潜入取材をしていたとのことでした。

記事には
「味もコスパも文句なし!ただひとつ
一人で切り盛りする美人女将を怒らせたら台布巾が飛んで来るので注意!」
としっかり書かれてありました。












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