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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その14

日本人の宗教観を理解するために、ちょっと近代史を探ってみました。
(...実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。)

(14) 奈良ホテル

【廃仏毀釈】

日本では明治維新のために仏教が排斥された。天皇陛下を中心に欧米列強と張り合う上で、仏教は邪魔者扱いされたようだ。

明治初年、政府の神道国教化政策に基づいて行なわれた、仏教の抑圧・排斥運動。慶応四年(一八六八)神仏分離令が出されると、平田派国学者の神官を中心に仏堂・仏像・仏具・経文などの破壊・焼却が行なわれた。

出典 精選版 日本国語大辞典[廃仏毀釈(2)]

この仏教の破壊を、中国共産党による文化大革命と重ねてしまうのは行き過ぎかもしれないが、日本で従来受け継がれてきた仏教が否定された意味は大きい。

『日本史の一大汚点「廃仏毀釈」はいかにして行われたか?』(原田伊織)という文書の中で、「奈良興福寺と内山永久寺の惨状」というセクションがあった。現在の奈良ホテルや奈良公園は、当時の興福寺の敷地である、とのこと。マタス弁護士のアテンドで、奈良ホテルに一泊したことがある。なんか奥深いホテルで、さすが奈良だなあと感心したが、興福寺だったのかと思うと今になって唖然とする。

同じ文書の「多元主義と一元主義」というセクションでは、東洋と西洋の宗教観の違いが説明されている。大和民族は多元主義的な生態、つまり神仏を問題なく合わせてきたが、西洋文明にかぶれた薩長権力が、神道国教を掲げて一元主義に走ったという説明だ。

【Religionの訳語】

2018年12月にロンドンで開かれた「中国(臓器収奪)民衆法廷」第1回公聴会で言及された「宗教」の説明が興味深い。

「中国臓器収奪リサーチセンター」を代表する二人の証言者に、人権専門の判事団が中国での「宗教」の定義を尋ねた。二人が口ごもる様子を見て、もう一人の判事団で中国史の専門家アーサー・ウォルドロン教授が、中国語の側面から「実に回答が難しい質問」と指摘している。

中国語にはもともと 欧米で理解されている Religionに値する言葉はありません。集められた教え、多くの教えという意味の集合名詞(「宗教」)があるだけです。2つの文化でのくくり方の違いを比較することは非常に困難です。

中国・民衆法廷 第一回公聴会 デービッド・リと李会革の証言でのウォルドロン教授の解説

[ 証言の実録。上記引用の該当部分は29分から31分50秒まで]
(字幕が出ない場合は右下の車輪のアイコンから設定できます)
(注:字幕で「具体化」と訳されている部分は、原語では「教jiao」です)

なるほど。日本に限らず、東洋では仏教も儒教も思想として多元的に抱擁されてきた。キリスト教やイスラム教のような一元的な宗教、いわゆるReligionの概念とは異なるわけだ。

新興宗教が悪いわけではない(押し付けは悪いが…)。しかし、明治維新以前の日本人のDNAを考えると、一元的な要素の強い「宗教」に対して引いてしまう傾向があるのではないか?

それでは法輪功は、一元的な宗教なのだろうか? …その15に続く

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第5回 不可解な身体検査…国家による「臓器の選別」の恐怖


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