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オパールの少女 第六章

第六章 追跡者

(1)
楽しい時間というのはあっという間で、バースデーナイトは本当に一夜の夢のようだった。
・・・が、頭が痛い。
視界もぐるぐると、どうやらこれが二日酔いというものらしい。
ボクの大人の第一歩はなかなか思い出に残るような強烈なものだった。
「ダイヤ~、飲み過ぎた~」
昨夜の女王様っぷりから一転、ヒメは髪もボサボサでヨレヨレしながら居間に現れた。
「ヒメも?ボクも目が回ってるよ」
「まず、水をたくさん飲まなきゃ。それと果糖、果糖!」
お互いに500mlのペットボトルをグビグビと、オレンジジュースを一杯飲んで、ソファに倒れ込んだ。
「ねぇ、昨日シャンパンタワー何個いれたっけ?」
「うーん、3つ?!」
「覚えてないわ~」
「って、いうか。ボクたちどうやって帰ってきたんだっけ?」
「あー、覚えてない。お姫様抱っこされた気がするんだけど、ダイヤ?」
「自分で歩くので手一杯だったのに、そんな気力ないよ」
「だよね~。あ、アキラだったわ」
ボクたちがこんな不毛な会話をしていると、ヒメの携帯がトゥルトゥル鳴っている。
「あ、アキラっっっ」
「エ?ちょっと、とりあえずお礼言っておいてよ」
まったく覚えていないけれど、多分とてもアキラさんに迷惑をかけたに違いない。
「もしもし、ヒメです。昨日はお世話になりました・・・。ご迷惑をおかけしてすみません」
 
 
アキラは電話越しに昨晩のレディがしおらしく謝罪するのが愉快でならなかった。これで貸しひとつ、とは声には出さない。
「ヒメ、二日酔いは大丈夫?」
「今ダイヤと反省会してたところよ。でも楽しかったわ。ありがとう」
「こちらこそお店の売上に大きく貢献してくれてありがとうございます」
「私、シャンパンタワーいくついれたっけ?」
「3つだよ」
「支払いした覚えが無いんだけど・・・」
「そのことで電話したんだ。君のカードを預かってるよ。忘れて行っただろ?」
「あら、やっちゃった。でも支払いしてるなら安心したわ」
「センチュリオンカードなんてこの業界に長くいてもなかなかお目にかかれない代物だよ。ビックリしたな」
「そう?預かっていてもらえるかしら?」
「いいとも。今度デートする時に返してあげるよ」
「そうね。じゃあ、楽しみにしているわ。バイバイ」
プツリ、と電話が切れて、アキラはカードを弄びながら、口元に不思議な微笑を浮かべていた。
 
 
「やっちゃったな~」
電話を切ったヒメが左斜め上に目を泳がせた。
「どうしたの?」
「ん、お店にカード忘れてきた」
「ホント?ボク取りに行ってこようか?」
「大丈夫、アキラとデートすることになったから、その時に返してもらうわ」
「いつのまにそんな話になってるの?」
「今そうなった。アキラだけがダイヤの事情を知ってるのよね?」
「うん」
「私が信頼できるかどうかとか、聞きたいことたくさんあるんだと思うわ」
「そうか。試されてるのはヒメのほうだ、って言ってたもんね」
「まぁね。ともかくもうひと眠りしよう。不老不死でも二日酔いからは逃れられないからねぇ」
そうしてヒメは寝室へと戻って行った。
さて、ボクは幸いだいぶ回復してヒメほどヒドい状態ではない。
せっかくだから出掛けよう。
まずはひとっ風呂。
 
東京というのは不思議な街だ。あらゆる顔がある。
興味は絶えないけれど、地上に来てからのボクの癒しの場所はやはり本屋だった。
地底にいた頃に比べると余りあるほどに書籍がある。
いくら読んでも、読んでも足りないくらい。
そして家の近くで見つけたこの本屋はとても良心的であちこちに椅子が据えてある。いつでも時を忘れて没頭してしまうのだ。
最近のボクのお気に入りは野生動物の生態に関するものだった。
地上にはあらゆる動物がいる。
大きさもそれぞれで生態もユニーク。
なかでも地底にはいなかった鳥類が特に興味深い。
大きさもそれぞれ、色もさまざま。美しい声で鳴くのも魅力的だ。
身近によく見られる鳩や雀の美しい模様や愛らしい仕草にも魅かれる。
何より、空に羽ばたく気分はどのようなものなのだろう?
彼等にはどんなふうに世界が見えているのだろう?
地上に来てこんなに豊かで穏やかな時間を過ごすことができるとは思わなかった。
これもすべてヒメのおかげとしかいいようがない。
 
ボクは童話のコーナーに行き、アンデルセンの『人魚姫』を手に取った。
難破船から投げ出された人間の王子を助けた人魚姫は彼に恋をして海を捨てた。その恋は叶うことなく人魚姫は海の泡と消える。
悲しいお話だった。
ヒメは不思議な存在だ。
自分のことを人魚だったと言っていた。海の底からやってきたのだと。
人間の男に恋をして迷いもなく海を捨てたとは。
今の達観して落ち着いた彼女からは、そんな膨大な熱量を燃やした恋が過去にあったなんて信じられない。
長い時を生きて、きっとたくさん辛い思いもしてきたのだろう。
そしてしなやかな強い女性になったんだろうと思う。
ヒメと出会えたことはボクにとって幸運だったけれど、ボクは彼女に何をしてあげられるのだろう?
アキラさんにも恩返しがしたいけれど、ボクには何ができるのだろう?
そうしてボクは昨晩自分の中にほんのりと芽生えた感情に戸惑いを覚えていた。
ヒメが誰かと親しそうにしているとムカついて、あの兄やの麗でさえ憎たらしかった。
ボクは地底でも友人が少なく、恋をした経験もない。
この気持ちは恋なのか、家族愛なのかもわからないぼんやりとしたものだ。
周りを見回すと、この世界は実にカップルで溢れていた。
こんな静かな本屋でもカップルはいる。
動物には雌雄があり、互いに相手を求めるのが本能というものなのだろう。
今のボクにとってヒメはもっとも大切な存在だ。
そしてこれから先も、ボクが死ぬまでそれは変わらない。
ボクは携帯を取り出すと聞いてみた。
「二日酔いにいい食べ物は?」
<肝臓の働きを助けるにはシジミ汁がオススメです。味噌とシジミの両方に含まれる必須アミノ酸のメチオニンが味噌に含まれるイソフラボン、サポニン、レシチン、乳酸菌などと複合的に作用して、肝機能や疲れた胃腸をサポートするといわれています>
なるほど。偉大なり、グーグル先生。
ボクはヒメのためにシジミ汁をテイクアウトで買い、家に戻った。
 
ヒメはどうやら復活したようで、居間でアイスを食べていた。
「ダイヤ、おかえり。本屋行ってたの?」
「うん。アイス食べてるのか。じゃあ、これは後で温めて食べてね」
「シジミ汁?気が利くわね~。今いただくわ。ありがと」
ヒメはアイスに蓋をすると、シジミ汁を飲み始めた。
「沁みるわぁ。こういう時、一人じゃないって本当にありがたいわね」
「お役にたててよかったよ」
ヒメは無防備だ。
ボクの前で平気ですっぴんだし、しょっちゅう部屋着でチョロチョロしている。
だいぶ慣れたけれど、女性への免疫が無かったので、最初はちょっとドギマギしたものだ。
家族ってそんなものかな、なんて今は思う。
「ダイヤ、お礼に明日出掛けよう。どこがいい?」
やはり動物を直に見てみたい。
特にあの美しい羽色の・・・。
「ボク、フラミンゴが見たいな」
ヒメがグーグル先生に聞いてみると、上野動物園でフラミンゴが見られるらしい。
「9時半から開園だって。明日は早起きね」
「オープン早々に行く気?」
「うーん、早起きは苦手だから、11時頃を目処によろしく」
そういうことになった。
 
 (2)
午前11時。
動物園日和という言葉があるかはどうかは知らないけれど、今日は清々しくて、日差しも柔らかく、お出かけには最適の日和だった。
「来たね~、上野」
「人が多いわねぇ。でも、ここはパンダ目当てのお客さんが多いのよね」
「ボクはパンダはいいかな、今回は」
まずまず見どころはたくさんあるのだ。
そして全部を見ようとすれば時間は限られている。
「じゃあ、気合いを入れて、ゾウから行ってみよう♡」
「ヒメ、はりきり過ぎだよ」
「実は私も楽しみだったの」
「子供みたいだな」
「楽しまにゃ、ソンソン♪」
大人びたようにしているけれど、ダイヤこそやっぱりうれしそうだった。
それはそうだろう。
これまでは図鑑や画像でしか見られなかった動物が生きてそこにいるのだから。
「地底には動物っていたの?」
「犬や猫はペットとして人の身近にいたし、牛や羊、ヤギも家畜としていたね。鳥類はいなかったから、初めて雀を見たときには感激したよ」
私はすぐ側の枝に留まる雀に目をやった。
「たしかに雀って色合いは茶系で地味だけど、きれいな模様をしているわよね」
「あ~、でもカラスが大きかったのはびっくりしたな。しかも全然人間を恐がらないから、目をつつかれるかとビビったよ。あのぶっとい嘴ヤバいでしょ」
「彼らは威圧的だからね。人間を舐めてんのよ」
「やはり地上は不思議がいっぱいだな。来てよかったよ」
順路に従うと、次は虎の広場にさしかかった。
「トラってさ、大きい猫だよね」
「でも一撫でされたら、人間なんてイチコロよ」
「コワッ。獰猛なんだ」
「パンダもさ、結局は熊じゃない?あんなかわいいルックスでもやっぱり危険なわけよ」
「そんな動物たちをこんなふうに集めて展示するなんて人間は傲慢だね」
「そうね。この地上で人間は生態系ピラミッドの一番上らしいわよ。やっぱり傲慢だわね」
ダイヤはふっと顔を曇らせた。
「ボク、環境がらみの本も色々と読んだんだよね。すごく先々が不安になるような内容だったよ。どこにも問題があるのはわかっているけれど、憧れた地上が壊れてゆくのは悲しいな」
個人でどうにかできる話ではないゆえによけいに無力感に苛まれるのだ。
それは私も同じ気持ちでやりきれなくなる。
「動物って美しいよね」
ダイヤは目の前の色鮮やかな極楽鳥に目を奪われていた。
「花も木も美しいわ」
「そうだね。この世は美しいものに満ちているね」
そろそろダイヤ念願のフラミンゴ池が見えてくる頃だ。
以前、ネイチャー番組で無数のフラミンゴが飛び立つ映像を見たことがある。
私はその光景を思い浮べて地図にあるフラミンゴ池に目をやると、実物が思いのほかコンパクトなことに驚いた。
「なんかかわいらしいフラミンゴ池だわね」
「ウン・・・」
ダイヤもいささかガッカリしたようだった。
「でもやっぱりキレイだな。こんなに間近に見られるなんてうれしいよ」
「フラミンゴの赤って親から子供に与えられるんだって」
「あ、それ本で読んだよ」
この池はぐるりと金網に囲まれているけれど、不思議と天井は空いている。
「そうか。ここのフラミンゴたちがどうして逃げないのか不思議だったんだけど、フラミンゴは飛び立つのにある程度の距離が必要だから、このサイズで天井はオフになっているのね」
ここにいるフラミンゴたちはもう飛び立てない。
その過酷な運命にダイヤはなんとも複雑な表情を浮かべていた。
「ダイヤ、いつか近い将来、野生のフラミンゴが飛び立つところを見に行こう」
「うん」
「なんかお腹すいちゃったね。動物園名物のランチでも食べに行こうか」
「動物園名物のグルメって、どんなの?」
「それはやっぱりパンダ一強じゃない?」
「それはまた斬新な。別のアングルでのパンダの楽しみ方だね。それにまだ爬虫類館が残ってるんだったよ。金運つくかなww」
パンダグルメは実に想像を超えていた。
ミックスフライのプレートにはパンダの旗が挿してあり、デザートのパンナコッタはパンダの顔が描かれた『パンダコッタ』になっていた。
そしてダイヤの頼んだ『パンダカレー』には、半身浴をするようなパンダライスが鎮座していたので、さすがのダイヤもたじろいだ。
「これ、食べていいのかなぁ・・・」
ダジャレと半身浴。。。
「映え、よ。映え。写真を撮って供養するのよ」
「成仏しろよ」
パシャリ、と撮られた半身浴パンダの顔が心なしか情けなく見えた。
 
(3)
そうして動物園を満喫した私たちは夕暮れのなかを闇に引き寄せられるように暗がりへと向かっていた。
「尾行られてるよね?」
「うん」
尾行者は2人。
あえて上野の歓楽街、仲町通りを連れだって歩く。
揉め事を起こしたくないのでなるべく人気の無い路地に向かって行き、知り合いのスナック『凪』の扉を開けて身を滑らせた。
ここまできっちり付いてきているのでどちらかはプロなのだろう。
「ママ、お客さんが来てるんだけど、ちょっとお店借りていい?」
ママはスパンコールが散りばめられた紫のドレスがよく似合うスレンダー女装美女である。開店前の一服といったところか、お気に入りのメンソールをジェルネイルピカピカの長い指で弄んでいた。
「ヒメちゃん、厄介ごとは御免だわヨ」
「大丈夫よ。ちょっと話をするだけだから」
「アラ、かわいい子連れてるじゃない」
ダイヤは絶対ママの好みだと思った。
「今度飲みに来るから、おねがいね」
「仕方ないわねぇ。ちょうど買うものもあったし、20分後には戻るわよ」
そう言って店を出たママと入れ替わりに尾行者たちは店に入ってきた。
財前幸哉の秘書頭・鈴木といったか。
幸哉の腹心であり、幼少時代からの腰巾着だった。
「美沙さんですね?ご無沙汰しております、と言った方がいいんでしょうね。一度しか面識はありませんし」
「幸哉の第一秘書の鈴木さんだったわね。そちらは?」
「あなたの行方を掴んだ探偵ですよ。なかなか優秀ですが、腕もたつので手荒なことはさせないでくださいね」
鈴木はにこりともせずに物騒なことを言う。
こちらも幸哉同様相応の年齢になり、秘書頭らしい風格がついている。
美沙の記憶によると初めて会った時はまだ6歳ほどだった。
こういう瞬間はやはり年をとるのも悪いばかりではないな、と感じるものだ。
「美沙さん、驚きました。あなたは本当にあの頃のままなのですね」
「どういたしまして、人間ではないものでね。因みに人間ごときが私をどうこうできるとは思わないでいただきたいわ」
ジロリと睨むと大柄の探偵はたじろんだ。
「あなたの正体を私が詮索したところで意味もありませんから、単刀直入に申し上げます。どうかあのマンションへ戻って下さらないでしょうか?」
そんなことだろうとは思ったけれど、今はそういう気分ではない。
一瞬の沈黙をどう取ったのか、鈴木はちらりと隣で無言をつらぬくダイヤを値踏みした。
「よろしければそちらの若いツバメもご一緒に。拘束するつもりはなく、あなたの自由にしていただいて結構だそうです」
ダイヤはちょっと嫌そうな顔をした。
それは感じ悪いことこの上ないので仕方がないだろう。
「幸哉は私をどうしたいわけ?」
「ただ側にいてくれればいいのだそうで」
鈴木は極端に言葉数の少ないタイプだが、この方が交渉には向いているのかもしれない。そして詮索しようとしないのも気が利いている。
「私は父親の囲っていた女なのよ。恨みつらみでネチネチする気かしら?それは居心地悪そうね」
「さぁ、そこまでは何とも。ところで幸哉の近頃の目覚ましい活躍はお聞き及びではありませんか?」
もちろん知っている。
政財界の傑物といわれた父・幸彦の血を色濃く継いだ切れ者、と週刊誌をはじめネットニュースでも話題になっている。
「幸哉はあなたに会いに行ってから様子が変わったのです。それまではご存知の通り大人しい男でした。まるで昼行燈を装っていたのではないか、と周りの者達が恐々とするほどに」
「そうでしょうね」
「あなたを側に置いておくだけで幸哉はメリットがあると判断したのではないでしょうか。あなたはどうやら男性の運を引き上げる、いわゆる『あげまん』のようですので」
私は思わず吹き出した。
「そんなファンタジーな話じゃないわよ。実際は」
「はぁ。私にはよくわかりません」
鈴木も幸哉の真意をわからずに困惑しているのだろう。
「幸彦がね、死ぬ間際に私にひとつお願いをしたの」
「息子の幸哉に関わることですね。一秘書の私がそれを聞いてもよろしいのでしょうか?」
「腹心の部下なんでしょ。幸哉とは幼稚園からの付き合いなんだし、いいんじゃない?」
鈴木の顔には、面倒は御免だとしっかり書いてあった。
そして、記憶を辿るように思考し始めたようだ。
真実に辿り着くにはそう長くはかからないだろう。
かつて美沙と一度会ったあの日は幼稚園のお遊戯会だった。
幼い鈴木は美沙を幸哉の母親だと認識していたはずだ。
「幸哉はママの味が忘れられなくなったんじゃない?究極のマザコンね」
「それは・・・」
鈴木は絶句した。
幸哉と私の間に何があったのかを悟ったのだ。
背徳的で獣のようなあの密事を。
重苦しい空気が横たわる。
「この体は彼の母親のものよ。そして彼はそんなに強い男じゃないわ。私が側にいれば、いずれ必ず狂うわよ」
「あなたのおっしゃる通りかもしれませんね」
鈴木は茶革で小型の上質なアタッシュケースを差し出した。
一見ビジネス仕様だが、もちろん中身は金に決まっている。
「3千万入っています。足りなければ後からでも用意します。あなたは逃げた後だった、でいいですね?」
「賢明ね。お金はもらっていくけど、連絡はしないわ」
そうしてダイヤがアタッシュケースを受け取ると、彼等は闇に溶けるように姿を消した。
一拍してダイヤがすうっ、と大きく息を吸い込んだ。
緊張していたのだろう。
「なんだかお金のある所にはお金が集まってくるんだねぇ。爬虫類のご利益かな?」
どストレートで邪鬼の無い感想に力が抜ける。
「ママが帰ってくるまで店番してなきゃね」
「そうだね」
ほどなくして帰ってきたママはドレスにはみ出た大根一本のエコバッグという実にシュール佇まいだった。
「ママ、大根買ってきたの?」
「男心がわかってないのねぇ。大根のお味噌汁飲みたい、って泣くお客がいんのヨ。母親の味ってやつネ。アタシ、オッサンだけど」
そして茶革のアタッシュケースを一瞥すると深い溜息をついた。
「ヒメちゃん、こんな風に生きてるアタシが言うのも何だけど、危ない橋には近寄らない方がいいわヨ」
「ママって何だかんだで優しいのよね。でもくれる、っていうものはもらっとかないと。人生何があるかわからないし」
私はアタッシュケースから一帯取り出すとカウンターに置いた。
「ねっ」
「やだぁ、アタシも共犯にする気?」
「ただの飲み代じゃない」
「家賃4か月は出ちゃう」
ママは遠慮せずにお金をクラッチバッグに突っ込んだ。


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