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Jewelry Box Ep.8 紳士の嗜み

ジュエリーには記憶が刻まれます。
ジュエリー業界一筋の私が、これまで垣間見たエピソードを紹介させていただきます。
今回のエピソードはピンブローチを蒐集するダンディのお話しです。
登場する方々には了承を得ておりますが、携わったジュエリーは個人所有のものですので、デザイン画や画像を公開することは致しません。

 Ep.8 紳士の嗜み

ジュエリーは女性のためだけのものではありません。
それではメンズジュエリーといいますと、どんなアイテムを思い浮べられるでしょうか。
リング、ネクタイピン、カフスボタン、ネックレス、ブレスレットやピアスをなさる方もいらっしゃいます。
なかでもラベルピンやピンブローチをコレクションされているお客様がいらっしゃいました。
 
「ジジイになったらさ、やっぱり小奇麗にしておかなくちゃね。それがエチケットってもんでしょ。僕ね、指先にも気を遣ってネイルサロンで爪磨いてるのよ」
なんて、グレーの頭髪をオールバックにきめた六十代の粋でダンディな紳士です。
私がお会いした時には、四角いグリーンガーネットを市松模様のように配した洒落たラベルピンをなさっておられました。
「リングはなさらないんですか?カフスも素敵ですよ」
私はそうしてダンディがお着けになっているラベルピンに合いそうなリングとプラチナのカフスをケースから取り出しました。
「僕がリングを着けるとあからさまに悪い感じになっちゃうんだよね」
「ちょい悪も魅力的ですよ」
「唆すねぇ。褒められたら買っちゃいそうだよ」
なんてくだけた笑顔も素敵な紳士です。
「カフスもね、試したことあるんだけど、気障すぎちゃって。カッコつかないのよ。僕にはこのピンくらいがちょうどいいのよね」
スーツの襟元にさりげなくあしらうピンブローチは装いの格を上げてくれるものです。

「それではこの中にお好みのジュエリーがあればよいのですが・・・」
私はラベルピンばかりを収めたジュエリーケースを取り出しました。
 18金にダイヤモンドをあしらったト音記号。
 瞳にルビーを埋め込んだフクロウ。
 タイガーズアイを覆輪留めしたシンプルなピン。
 舞い降りてきたような天使の羽根を象ったモチーフ。
・・・等々。
「お?これ、洒落てるじゃない」
ダンディが手に取られたのは、プラチナにダイヤモンドをパヴェ留め(メレダイヤを敷き詰めたように留める技法)したテントウムシでした。
背中には黒い七つの星があるナナホシテントウ。
「この黒い石はオニキス?」
「ブラックダイヤモンドです。キリッとした印象でしょう」
「うん。これすごくいいよ」
「テントウムシは太陽を目指して飛ぶ縁起のよい虫ですよ。見かけると幸運を呼び込むとも言われておりますね」
「そのウンチクも気に入った!」
さっそくお試しになりましたら、大きさもほどよくピッタリ♡
「またコレクションが増えちゃうな。この色味だったらどんなスーツでも合わせやすいよね」
「おっしゃるとおりですね」
「次来るときはこのテントウムシ着けてくるね」
「はい。お待ちしております」
そうしてダンディはご機嫌でお帰りになられました。

お気に入りのジュエリーとの出会いは気分が上がるものです。
それは女性でも男性でも同じことですね。
やはりお洒落に気を遣われる男性は素敵だと感じたエピソードでした。


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