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私撰原石 - さらっと読める短編小説集

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300文字程度でさらっと読める短編小説集
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記事一覧

さらっと読める300字小説#8 (note甲子園終了記念。ロイヤルランブル参加作品)

「孤島にて」怖くてたまらない。
俺はただ一人、置き去りにされちまった。いったいどうしてこんなことになったんだ。
時間とともに恐怖は大きくなっていく。ここは無人島だ。おまけに水も食料もない。船を降りたわずかな間に、身一つで取り残されてしまったんだ。

次に怒りがわいてきた。俺を置き去りにした船の連中に対する怒りだ。なんてろくでなしだ、血も涙もない連中だ!
俺は全身を駆け巡る怒りのままに、罵詈雑言を叫

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さらっと読める300字小説#7

「それが努力というもの」僕はどうしても猫を飼いたかった。
でも、それには問題がある。
ひとつめはパパとママ。二人とも反対している。
ふたつめはお金。猫を飼うにはお金がいる。
みっつめは知識。どうしたらよいかわからない。

でも僕は決して、決して、あきらめない。やるだけのことはやってみよう。
本やネットで一生懸命勉強した。タダで猫を譲ってくれる人を探した。買いたいものをガマンして、猫貯金を始めた。パ

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さらっと読める300字小説#6

「真夏の夜の妄想ドリーム」二人の女性が言い争っている。
きつい感じの美人なおねーさんが言う。
「こやつは妾のモノぞ。ほれ、こうされるのが好きであろ」
突然僕の首筋を舐める。ざらりとした舌の感覚にゾクゾク……じゃなく、なにすんですか突然!
一方、小柄でかわいい女の子はこう言う。
「違いますぅ。ご主人様が大事なのは、私の方ですぅ」
黒い大きな瞳をウルウルさせ、僕の足にしがみついて頬ずりする。ついイジメ

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さらっと読める300字小説#5

「恥ずかしいのは……」本当なら言ってしまいたい。しかし、それはできない。
なぜならば、そんなことをしたら目立ってしまうからだ。それは恥ずかしい。全力で避けたい状況だ。
そんなことを考えている間にも、時間は刻々とすぎていく。私はどうすればいいんだろう。
黙っていたら、先生は気付かないまま外に出てしまうに違いない。それはさすがに可哀想な気がする。
周囲がざわざわと騒ぎ始めた。どうやらみんなも気付いたら

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さらっと読める300字小説#4

「ガスと電気と男と女」斉藤家の嫁、夏海さんの意見はこうだ。
「IHヒーターですわ。お義母さまの火の消し忘れ予防にもなりますし」
一方、姑の加奈子さんの意見はこうだ。
「いつ私がそんなことを?それに、料理はやっぱり直火のガスコンロがいいに決まってます」
壊れたガスコンロの買い替えを巡って、両者は一歩も譲らない。

「おいおい、喧嘩してないで決めてくれ」
これは夏美さんの夫、俊夫さんの言葉だ。他人事の

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さらっと読める300字小説#3

「太陽の下で」ちょっと変な人がいた。
炎天下に立ったまま、ずっと動かないのだ。
それを見て私は疑問に思った。
「この暑いのに何やってるんだろう」
このカフェからは、その人がよく見える。周りも気にしているようだ。
「あんな場所で待ち合わせかな」
「何かの罰ゲームかも」
「実は修行だったりして」
外気温は35度、快晴、2時間経過。さすがに心配になった私は、様子を見に行くことにした。
「あの、大丈夫です

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さらっと読める300字小説#2

「女喰い」娘は逃げるべきか、留まるべきか迷っていた。
実はこういうことだ。
目前に迫った水揚げの相手をひと目見てから、震えが止まらないのだ。先祖に巫女がいたせいか、娘は勘がいい。その勘が、絶対にアレは駄目だと言っている。
最終結論は、今夜出さなくてはならない。
逃げればこうなる。ただ逃げても捕まるから、本気でアレから逃げたければ死ぬしかない。
留まればこうなる。娘は水揚げを済ませて女郎になる。アレ

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さらっと読める300字小説#1

「因果」果たせたなら天国、果たせぬなら地獄。

あたしの願い?それは、こういうことなんです。
あたしは、吉佐って男が葵姐さんに贈ったかんざしなんですよ。姐さんは吉原に売られてきた、不幸な身の上のお方でしてね。惚れた男からの贈り物がそりゃあ嬉しかったんでしょう、あたしを大切にしてくれました。
でもあの男、嫌な身請け話で心底困った姐さんが心中してくれって頼んだ時、せせら笑ったんです。たかが女郎、って。

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