7.大切だからこそ、逃げられない。

伯母の息子、私からすると従兄弟を
私は、お兄ちゃんと呼んでいる。
小さい頃から一緒に過ごす事が多かったからだ。

お兄ちゃんとは
伯母の家に住んでいた数年間、一緒に暮らした。

とは言っても彼が専門学校に
通っている時期だったので帰りも遅く、
顔を合わせるのは夜、10分程。
休みの日は試験や遊びで
お兄ちゃんは、家にいる事が少なかった。

彼もまた、伯母との過去に囚われた1人だった。
過去形なのは、もう数年、会えていないからだ。
今のお兄ちゃんを、私は知らないし
私の今を、彼は知らない。

お兄ちゃんは、二度目の結婚の際、
相手方の婿養子となり私たちと同じ姓を捨てた。
その時、この姓を捨てたかった、と言っていた。

吐き捨てるように。
でも強い意志で。

冷たい人間、恩知らず、色々な言葉が
お兄ちゃんにはぶつけられた。
だけど私は、お兄ちゃんがやっと
逃げる方法を見つけたのだと少し
心がほっとしたのを覚えている。

お兄ちゃんはいわゆる世渡り上手。
外聞良く、周りの人に可愛がられるタイプで
心の奥底は最後まで見えなかったけれど
私はお兄ちゃんが好きだった。

事後報告となる形で
結婚したことと婿養子となった報告を聞き
伯母は激昂、祖母は落ち込んでしまった。

その時はもう祖父は亡くなっていて、
四十九日も無事終わり、お墓も建て終わって
納骨が済んだ直後のことだった。

いつか、祖母や伯母が亡くなったら
お兄ちゃんがお墓を継ぐのだと聞いていた。
しかし彼は、我が家の苗字も、お墓も、
何もかもを放り出す形となったのだ。

そこからの崩壊は早かった。
私は、お兄ちゃんの代わりとなった。

全て、お兄ちゃんが駄目だったから、と
私に回ってきた役目。
期待されてたわけじゃ無い。
私しかいないから仕方なく託されたのだ。

祖母が居なかったら全て投げて逃げ出すのに、
大好きだからこそ、
大切だからこそ、

逃げられなくなってしまった。

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