伝わるもの

私は大学でJazz & American Musicというコースの副代表として、ピアノのレッスンの他、ジャズの理論やアレンジ、ソルフェージュ、アンサンブル、大学院の研究授業など、色々な授業を担当しているのですが、その中に作曲の授業があります。作曲法というのはもちろん存在するのですが、この授業では敢えて、そのようは方法論にとらわれずに、ミュージシャンがイメージするものを作るにはどうすれば良いか、ということにフォーカスしています。

最近の授業では、コード進行(和音のつながり)についてのトピックを扱いました。一つの試みとして、一人の学生に先にタイトルを考えてもらいました。彼がつけたタイトルはMemory(思い出)です。そこで学生たちに、コードだけで思い出ってわかるコード進行を書いてみよう、っていう課題を出しました。

「思い出」と言っても、人によって思い出すものや表したいものは様々です。学生によっては、思い出して、そのあと「もういいや!」という感情を表したい学生もいれば、「忘れたくても戻ってくる」という感覚を表現しようとする学生もいます。

ですので、授業でそれぞれの学生に、君は「思い出」で何を言いたかったの?

このコードのどこがその感じなんだと思う?

こんな質問をしながら(まあ結局授業ですので)、学生が表たいことが実際に表現されているか、またはされていないか、もしされていないとすれば、それは音楽的に何が問題なのか、を話していくのが課題でした。

それがひとしきり終わった後、私が、

「今度は、私がある曲のコード進行書くからそれみて何でも気がついたことを言ってみよう」と言って、あるコード進行を書きました。

まあ、学生たちはいろいろ言うわけで、ああでもない、こうでもないという議論が少し続いた後に、「じゃあ、このコード進行にタイトルつけてみ?」って言ってみました。

学生の答えは、、

未来への希望、明暗(でも明るい方が強い)、白い鳩(平和のシンボル)などでした。

実は私が書いた曲は、Eric ClaptonのTears in Heavenです。

この曲はClaptonの息子さんが事故で亡くなって書かれた曲です。

学生がつけたタイトルは、もちろん、具体的にはこの息子さんが亡くなったことには繋がりませんが、よく考えてみると、未来への希望も、明るい明暗も、平和のシンボルも、実際の曲と同じ方向性のタイトルです。しかも学生のほとんどはEric Claptonの名前さえ知りませんでした。

これは、何を示しているかというと、

80歳近いEric Claptonが、息子さんの事故死という非常に辛い経験をして書いた曲が、彼とは全く違う日本という文化の中で育った、彼より40歳くらい年下の若者に、メロディーも歌詞も知らないのに、コードだけで彼の思いを伝えた、ということになると思います。

学生たちは何も知りませんから、言わなかったですが、私は授業をしながら、学生の答えや反応を見て、Eric Claptonって天才だと思って、泣きそうになるくらい感動しました。

音楽ってすげー!!!

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