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僕はこんなバカげた球団のファンになった (6)

おあ!(挨拶)


前回のあらすじ: パッカーズ (Green Bay Packers) は MVP 級の活躍を繰り返すロジャース (Aaron RODGERS; #12) を抜きにしては成立しないチームとなった。良いか悪いかはともかく。


パッカーズは優勝こそ 2010 年シーズンだけで終わりこそすれ、2008 年以降 15 年間に 11 度のプレイオフ出場NFC 北地区での首位は 8 回も達成した。勝って、勝って、勝ちまくった。まさに黄金時代だ。それとも「緑金時代グリーン・アンド・ゴールデン」のほうがふさわしいかな。

この期間、グリーンベイとそのファンベースにとって勝利はとりたてて珍しいものではなかった(とはいっても勝とうが負けようが大騒ぎするのだが)。レイダース (Oakland Raiders) に勝って優勝した 1967 年から、地区 3 連覇が始まる 1995 年までの間にたったの 2 回しか首位になっていない時代に想いを馳せれば、それはもう夢のような日々だったといって間違いないだろう。できれば毎度のように悪夢のような終わりを見せるプレイオフまでどうにかしてほしかったけれども、それは贅沢な悩みか。同地区のライオンズ (Detroit Lions) なんて、最後にプレイオフで勝った日付は 1992 年 1 月 5 日だこのときのビルボードのトップがマイケル・ジャクソン (Michael JACKSON) の "Black Or White" だと聞けば、それが今からどれくらい遠いのか少しはわかるだろうか?

もちろん、平坦な道のりであったわけではない。前回にも述べたように、パッカーズはロジャースを取り除くととたんに論外になるチームである。そしてフットボールはどういうわけか、非常にケガの多い遊びだ。一般に NFL 選手はほぼ全員が CTE を患っているとされているが、そのような深刻きわまるダメージ以外にも、腱が切れたり骨が折れたりは日常茶飯事だ。とりわけ QB はボールを持ちながら無防備になる瞬間がちょくちょくあるので、ときに大打撃を受けて退場を余儀なくされる。


CTE とは?

CTE は "Chronic Traumatic Encephalopathy" の頭字語。そのまま日本語に訳すと「慢性的外傷性脳障害」。おもに脳震盪に起因する脳機能障害のこと。
頭痛から始まり、ひどくなるとパーキンソン病や認知症のような症状が出て日常生活も不可能に。

ボストン大学 (Boston University) の調査によれば NFL でプレイした選手のほとんどに兆候がみられるとされているけど、NFL 組織は選手への補償や賠償を拒否するために CTE の存在を否定してきたよ。また、しぶしぶ認めたあとも脳機能を調べる際に「黒人のほうが白人よりもともと知能が低いだろ」とする超ド直球の人種差別に及んだクソゴミ非人道組織だよ。これらの賠償に 10 億 USD が訴訟に参加した人間に払われるらしいけど、NFL のスポンサー収入と比較してこれが妥当かどうかはぜひ君にも考えてみてほしいところ。
なお、普通の生活をしている人間が CTE になるのはかなり稀なようだ。


この遊びに関して知られている限り、フィールドの近くにいる人間はカメラマンだろうとチアリーダーだろうと誰もが危険に晒されている。いわんや選手をやだ。いかにポケットでの動きが良いロジャースとて捕まるときは捕まる。程度の大小はあるが、いつまでも無傷でいられるはずもない。

2014 年シーズンの……ええと、そうだな、もし君がパッカーズのファンならもう悪寒がしているかもしれないので、この話は飛ばしてもらってもよい。そうなんだ、僕が今回しようとしているのはアレの話だ。正しくいうと、話の途中でどうしてもアレが出てくる。僕は警告したぞ。警告したから、思い出して最悪の気分になっても僕の部屋に火をつけようと考えるのはやめてほしい。もちろん、ほかの部屋や頭髪なら燃やしてもよいといっているわけではない。

2014 年 12 月 28 日、デトロイトを迎えた第 17 週。場所はランボー (Lambeau Field)、気温はもちろん氷点下。客席はいうまでもなく満員。テレビ中継は FOX。ブースには感情を胎内に置き忘れた実況でおなじみジョー・バック (Joe BUCK) に、ご存知エイクマン (Troy AIKMAN)。それにエリン・アンドリュース (Erin ANDREWS)。いつもの場所にいつものメンツが集まった。
このレギュラーシーズン最後の試合は両者とも 11 勝 4 敗で並んでおり、勝てば翌週のファーストラウンドはバイ (bye; 休み)、負けるとワイルドカードで休みなくアウェイゲームに回ってしまうという試合だった。この勝ち負けひとつでまさに天国と地獄だ。

とくにパッカーズはロジャースが第 8 週の試合の途中でハムストリングスを傷めていたうえ、患った流感の影響があったか第 16 週の試合でもふくらはぎを負傷しており(これがなければ……)、以降きわめて怪しい挙動を見せるようになったことからバイは絶対に必要といえた。この試合も交替にそなえてフリン (Matthew FLYNN; #10) とトルジーン (Scott TOLZIEN; #16) まで入れた QB 3 人体制のロースターを組んでいる。この判断は妥当で、実際にロジャースはこの試合中、前半の残り 2 分ちょっとになったところでコブ (Randall COBB #18) にタッチダウンパスを投げた際にふくらはぎを再び負傷し、"MVP!" のチャントが響くなかカートで搬出される。
話の筋とはあまり関係ないがこのプレイをいま見返すと、コブは会心の走りを見せて一瞬で完全にオープンになっているのに、なかなか気がついてもらえず必死に手を振ってアピールするのがなんとも可笑しみがある。すぐ横にいるイヘーディボー (James IHEDIGBO; #32) もコブは外側に走っていったものと思ってぜんぜん気がつかない。スナップから着弾まで 7 秒。ちょっと面白い場面だ。

守備の士気にまで背番号 12 の影響が及ぶとは僕は思わないが、あるじを欠いて音量が下がったランボーのなかでライオンズが急に元気になったように感じたのは本当だ。
スタフォード (John Matthew STAFFORD; #9) は前半終了間際と後半最初のドライブをいずれもジョンソン (Calvin JOHNSON; #81) へのパスで締め、ついさっきまで 14 点差だった試合はたちまち同点になった。
しかし、代わって入ったフリンがサック (sack) を受けてパッカーズの後半最初の攻撃が当然のように停滞したあと、トンネルからロジャースが自力で歩いて姿を現したときの大歓声はライオンズ側にはどう聞こえていただろうか。

第 3 クォーターが残り半分になったところで、ちらつく雪とともにロジャースがしかるべき場所に戻って自陣 40 ヤードから指揮をとりはじめると進軍は止まらなかった。4 分でレッドゾーン (red zone; 敵陣残り 20 ヤード以内の範囲のこと) まで辿りつき、少し苦しい 3rd & 8 を得意のハードカウント (hard count) でディフェンダーを飛び出させて 3rd & 3 まで縮めると、最後はまたコブへのパスで仕上がった――今度はさっきと違って、クォーレス (Andrew QUARLESS; #81) が縦に走ってできた隙間に素早く決まる美しい一撃になった。ちょっとフォールススタート (false start) のように見えるが。

ライオンズも最終クォーターが始まった直後に 52 ヤードのフィールドゴールをアブドゥル=カドゥース (Isa ABDUL-QUDDUS; #42) がブロックして大いに盛り上がった……のもつかの間、まさにその次のスナップをファンブルして攻撃権を喪失してしまい一気に盛り下がった。
それを見てうんざりしたのかどうかはわからないが、ライオンズの DB たちは短いパスに対する回答を出せないままズルズルとエンドゾーンまで残り半ヤードまで押し込まれると、最後は……おお、ブッダ! なんたる闘志か!
ついさきほど自力で立ち上がれず車に積まれてフィールドを去った男が、傷めたのとは逆の足で思い切り地面を蹴り飛ばし、ボールを持ったままエンドゾーンに突入したではないか!
この身体を張るプレイは彼の好みではなく、普段ほとんど使わない。しかも脚を傷めている。だからこそその裏をかいてきたのはわかるが、それにしてもまさに伸るか反るか決死のプレイコールだ。リプレイを見ると本当に入っているかどうかはそこそこ疑わしいが、判定はタッチダウンが認められて試合はほぼ決した。この勝利によってパッカーズは翌々週、本拠地にカウボーイズ (Dallas Cowboys) を迎えることになった。

ところで僕も忘れていたのだが、パッカーズはこの試合、さっきのフィールドゴールが弾かれたのを始め、このあとライオンズのオンサイドパント (onside punt; 通常と異なる、相手にボールを渡さないことを狙う短いパント) の成功を許し、なおかつその直後にまたまたオンサイドキック (onside kick) をほぼ成功させてしまっている(結果はギリギリのところで不成功)。
このような醜態は常識的には看過できるものではなく、見直すといろいろな問題が目につくのだが、一言にするとスペシャルチームがガタガタなのである。後から見ればこれら一連の失策は、最終的にアレにつながるわざとらしいくらい明快な伏線だった。ただ、オフェンスやディフェンスの成功、ひいてチームの勝利はそれを覆い隠す。"Winning isn't everything" だ。

またちょっと長くなってきた。いったんここらで切って、次回はスペシャルチームの話から始めようかな。

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