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缶チューハイと夏の夜風とブランコ

「この前、付き合えるかもっていった人、ダメだった」
「え、めっちゃいい感じって言ってたじゃん」
「うーん、そうだったんだけどさぁ…。まぁいいや、とりあえず乾杯しよ」

通っていた高校の近くにある小さな公園。高校時代の親友Mちゃんと飲んだ帰りは、その公園に寄るのがお決まりだった。コンビニで買ってきた缶チューハイを片手に、ブランコに座ってたわいもない話をする。

「てか、うちら週3、4とかで会ってるよね(笑)」
「もはや彼氏じゃん」
「えーじゃあもう彼氏とかいらなくない?」

20歳になったばかりの私は、大学に入ってしばらく経つというのになかなか友達ができなかった。いや、もちろん全くいないわけじゃないのだが、心を許して話せる友達というのはそんなすぐできるもんじゃない。だから、当時の私はMちゃんと毎日のように会って、いろんなことを話した。

「大学のクラスの子がさ、めっちゃいい子なんだけど、なんか一緒にいると疲れるんだよね」
「わかる。私もなんか気使っちゃってさ。高校に戻りたいね」

夏の夜風に吹かれながら飲むのは気持ちがいい。私はお酒が得意じゃなかったけれど、こうしてブランコに揺られながら親友と飲む時間は最高に居心地が良かった。

「そのうち友達とか彼氏とかできるのかなぁ」
「できるっしょ!彼氏できたら紹介してよー」
「おっけ!でも、もし彼氏いなくて結婚しないままおばあさんになったら一緒に住も」
「えー(笑)」

大学生活に慣れてくるにつれ、サークルやバイトなどでの友人が増えて、彼氏もできた。それなりに楽しいキャンパスライフを送っていたと思う。同じように、Mちゃんもサークル活動やバイトに忙しく、大学生活を楽しんでいたようだ。そして、お互いの大学生活の充実に比例するかのように、私とMちゃんが会う時間は減っていった。

「そろそろ終電だし、帰ろっか」
「えーもうそんな時間?まだいたいけど、明日1限だしなぁ…」
「どうせまた来週すぐ会うっしょ!」
「だよね、もはやうちら付き合ってるもんね(笑)」

あれから10年。Mちゃんと寄り道していた公園は、今は遊具が撤去され、ただの広場になっている。あんなに気に入っていたブランコも、もうなくなってしまった。

Mちゃんとは大学3年生の時に会ったのを最後に、それから一度も会っていない。友人から聞いた話によると、数年前に結婚して子供が生まれたらしい。私は私で、最近結婚して今は地元から遠く離れた街で暮らしている。

今はもう、あのブランコに乗って、Mちゃんと恋愛話や大学の愚痴、高校時代の思い出話をすることはできない。今のMちゃんと私はまったく別の場所でまったく違う道を歩いているから。

寂しいわけじゃない。だって、それは当たり前のことだ。周りの環境が変われば、付き合う人も当たり前のように変わっていく。

だけど夏が来るたび、缶チューハイ片手にMちゃんと過ごしたあの時間をふと思い出す。できることなら、もう一度だけあの頃に戻りたいなぁと、そんなことをたまに思う。





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