見出し画像

脱出ゲーム(ESCAPEROOM)の教育利用


はじめに

SCRAPが「リアル脱出ゲーム甲子園 教員メーリングリスト」を立ち上げて、脱出ゲームに関心を持つ教育者に向けた情報配信を開始したというポストを見ました。私の「脱出ゲーム×教育」の研究は今書いている論文が採録されたら一区切りかなぁという感じですが、これからこれをきっかけに参入される方もいるのかなと思いました。

2022年春のJSET全国大会で「教育目的で行われる脱出ゲームの特性に関する考察」という発表をしているのですが、全国大会の予稿はJSTAGE等で見られない代わりに著作権が著者にあり、アップロードOKだったのを思い出しまして、これから始める方の参考になるように情報提供しておこうかなと思います。

用語や定義

エンターテインメントの世界では「リアル脱出ゲーム」はSCRAPの商標ですので「●●謎解きゲーム」「●●脱出ゲーム」などということが多いですが、海外の研究の世界では「ESCAPE ROOM(s)」で呼称は概ね統一されました。日本語でも(2017年頃は私も「謎解きゲーム」を使っていましたが)現在では単に「脱出ゲーム」とするのが最もポピュラーかなと思います。

ESCAPE ROOM(脱出ゲーム)の定義としては、ウィルフリッド・ローリエ大学のNicholsonという方が2015年に書いたWhitePaperが引用されることが多く、原文では以下のようになります。

Escape rooms are live-action team-based games where players discover clues, solve puzzles, and accomplish tasks in one or more rooms in order to accomplish a specific goal (usually escaping from the room) in a limited amount of time. 

Nicholson, S. (2015). Peeking behind the locked door: A survey of escape room facilities.
White Paper: https://scottnicholson.com/pubs/erfacwhite.pdf

こちらを機械翻訳すると、「脱出ゲームとはプレイヤーが手がかりを発見し、謎を解き、1つまたは複数の部屋で課題をクリアすることで、制限時間内に特定の目標(通常は部屋からの脱出)を達成することを目指す、チームベースのライブアクションゲームである」となります。

また略称として、脱出ゲームはER、脱出ゲームの教育利用については、EER(Educational Escape Room)とされることもあります。

レビュー研究

GoogleScholar等で「脱出ゲーム」などを検索していただけると、日本ではあまり盛り上がっていないことがわかるかと思うのですが、海外ではかなり研究されている領域で、複数の研究をまとめる「レビュー論文」というものもいくつか執筆されています。いくつか紹介すると

Fotaris & Mastoras(2019)は、2009年から2019年4月までに行われた68の研究をレビュー。脱出ゲームが「チームワークやコラボレーションの促進」「高いレベルの楽しさやエンゲージメントの創出」「批判的思考・問題解決」などの効果をもたらすことを示した。

Fotaris, P., & Mastoras, T. (2019) Escape rooms for learning: A systematic review. Proceedings of the 13th European Conference on Games-based Learning : pp.235–243.

Veldkamp et al.(2020)は、2017年から2019年6月までの39の研究をレビュー。医学教育やSTEM教育の分野で多くの脱出ゲームが取り入れられていることを指摘。ゲームの学習目標としては「特定の内容に関する知識とスキルの促進」が最も多く、次いで「知識やスキルの実証・評価」が挙げられている。

Veldkamp, A., van de Grint, L., Knippels, M. C., & van Joolingen, W. (2020) Escape education: A systematic review on escape rooms in education. Educational Research Review, Vol.31.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1747938X20300531

私のまとめ(JSET2022Sでの発表)

これらの研究を参考に私の発表では、脱出ゲームの教育利用に関するメリットとデメリットを以下のようにまとめています。

【メリット】
・学習者に楽しさを与え、エンゲージメントを生み出す  
・チームワーク、コラボレーション、コミュニケーションを促進する  
・問題解決を通じた学習を行うことができる  
・批判的・分析的思考や推論スキルを養うことができる

【デメリット】
・新しい知識習得にはあまり向かない

福山佑樹 (2022) 教育目的で行われる脱出ゲームの特性に関する考察.
日本教育工学会2022年度春季全国大会講演論文集, pp.351-352

おわりに

ざっとしたまとめになりますので、研究者の方はきちんと原典を読んでいただければと思いますが、0から始めるよりは参考文献などある方がやりやすいと思いますので、参考になさってください。

またゲーム学習というと、とりあえず「学習者に楽しさを与え、エンゲージメントを生み出す」とか「チームワーク、コラボレーション、コミュニケーションを促進する」というようなことを評価しがちですが、正直現在ではこの観点にあまり新規性はないため、脱出ゲームの教育効果を研究される場合には何か独自の観点を加えられることをお勧めします。

そう考えるとHPに書いてある「リアル脱出ゲームの制作による教育的効果の研究」という「制作による教育効果」というのは、最近ボードゲーム制作の教育効果を研究されている研究者もいらっしゃいますし、この流れに乗るのは筋がよさそうかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?