日本BGMフィルに見た夢(7) 「1252」

■1252

”1252”
オールドゲームに詳しい人なら、この数字でピンときた人がいるかも知れない。
1252タイトル。ファミリーコンピュータで発売されたゲームのタイトル数だ。
ファミリーコンピュータが発売された1983年から、最後のタイトルが販売された1994年のおよそ9年間に、これだけ多くのソフトが発売されたことに驚いた方も多いのではないだろうか。
仮に1本のソフトに、ゲーム音楽がおおよそ10~20曲ほど収められていると考えるとして、初期のゲームは楽曲が少ないことを加味すると、仮に1本あたり10曲で計算しても、実にファミコンだけで12520曲以上のゲーム音楽があることになる。
これにスーパーファミコン(1447タイトル)やPlayStation(3300タイトル)といった他のゲーム機やアーケードゲーム、携帯電話やスマートフォンなどのゲームも加えれば膨大な数になる。
今や世の中に一体どのくらいゲーム音楽があるのか、見当もつかないような状況だ。

コンサートでもっとも大事なことのひとつに曲選びがある。
観客を惹きつけて興味を抱かせるのはもちろんのこと、演奏会の目的や雰囲気にあった選曲を行わなくてはならず、自主公演の場合は特にそのオーケストラのアイデンティティを表明することにもなる。
ひとくちにゲーム音楽を演奏するといっても、膨大な作品数の中から曲を選ぶため、楽曲やゲームの知識はもちろんのこと、かなりのセンスやバランス感覚が必要となる。
日本BGMフィルは旗揚げ公演という重要な演奏会にどんな曲を選んだのだろうか。

ドラゴンクエストシリーズのオープニング曲であり、ゲーム音楽の不朽の名作である「序曲」から演奏会は幕を開ける。
BGMフィルがフルオーケストラで演奏した初めての曲は万雷の拍手をもって祝福された。

次に演奏された曲は「グランディアのテーマ」。
BGMフィルらしい選曲だなという印象だった。
指揮は序曲に続いて日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の創設者であり、音楽監督を務める市原雄亮氏がタクトを執る。

氏の指揮を見るのは初めてだったが、第一の印象として「のせていく」タイプの指揮者のように感じた。
奏者たちを上手に乗せてそれぞれの音を引き出していく。
観客を高揚させ、奏者の紡ぎだした演奏をわかりやすく伝えていく。
堂々とした見事な指揮だと感じたことを覚えている。

『グランディア』は1997年に発売され、美麗なグラフィックとドラマティックな物語で話題になった名作として知られている。当時本作をプレイし、今でも大切に思っているファンも多いことだろう。
この時代はセガサターンとPlayStationがしのぎを削る次世代機戦争の最中であり、前世代のゲーム機よりも格段に増した機体性能を得て、ゲームは確実に進化を遂げていた。
とりわけ、ロールプレイングゲームは大幅に向上したグラフィック性能やサウンドを武器に、演出面やキャラクターの表現などで大きな恩恵を受ける。
同年には『ファイナルファンタジーVII』が発売されており、RPGは新しい次元へと突入し、次世代機戦争の華として注目されることとなった。

『グランディア』もまた、これまでのRPGとは一線を画すような進化したグラフィックや、岩垂徳行氏の美しい音楽に彩られ、ファンを虜にしていた。

『グランディア』は、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』のように、ゲームを知らない人でも耳にしたことがあるような知名度の高い作品とはいえないかもしれない。
しかしながら、その時代を飾った重要な作品であり、今なお作品のファンや、当時プレイした人達が大切に思うような作品であることは間違いない。
BGMフィルはそういった作品にも光を当て、時代を超えて輝かせるのだという強い意志を、この選曲を通して感じることができた。
それは、ゲームやその音楽を広く愛するファンにとって、大きな福音になったことだと思う。

次に演奏されたのは『ソニックワールドアドベンチャー』の楽曲だ。
ソニックは一時期アメリカでマリオを追い越す勢いの人気を得た、世界的に有名なキャラクターであり、日本のゲームになじみのない海外の人でもソニックの名前を知る人は多いだろう。

演奏された「The World Adventure」は駆け抜けてゆくソニックの姿を連想させるような、疾走感のある爽快な曲だ。
コンサートミストレスを務める尾池亜美氏の、スケールが大きくダイナミックな持ち味にぴったりマッチしているように思えた。
続いて演奏される『ソニックロストワールド』のメインテーマ「Wonder World」もまた素敵な曲だ。
原曲の良さに加え、壮大なオーケストラアレンジはこんなにもゲームの世界を広げてくれるのかと驚いたことを覚えている。

アンサンブルコンサートの頃からBGMフィルに感じていたのは、企業と連携していく姿勢の強さだった。
マンガや小説などが個人に属することが多いのに対して、コンピューターゲームを送り出すのは企業であることがほとんどであるため、ゲーム自体や楽曲の権利を持っているのは企業であることが多い。
”プロのオーケストラである”ということは、やはりビジネスのプロである企業と協力していく上で、大きなプラスとなったことは想像に難くない。
アンサンブルコンサートのトークで話されていたことだが、市原氏がセガに楽曲の交渉に訪れた際に、担当者より新作の発表が予定されていたソニックシリーズの楽曲を提案されたことが演奏のきっかけとなったという。
このように、ファンや自分達の求める楽曲だけではなく、企業とのシナジーにより新しい価値を提案できるというのもBGMフィルの強みであるように思えた。

どのような曲を選び、演奏をするかはそのオーケストラの価値観を見せることであり、自らのアイデンティティを示すことになる。
ただ自分達の演奏したい曲や、人気作品、あるいは定番曲だけを演奏するのではなく、ゲーム音楽を広く見渡して様々な楽曲を求め、観客やゲーム音楽の世界に新しい価値を提供していくことがBGMフィルの目指すところであるように思えた
新しい価値を提供することがプロとしてのひとつの使命だとすれば、ここまでの演奏で日本BGMフィルハーモニー管弦楽団は十分にその任を果たしていると感じた。

演奏が終わり、会場は盛大な拍手で包まれる。
さあ、次はどんな曲が演奏されるのだろうか。

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