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初めての路上ライブ。

忘れもしない、2022年4月30日。前日の朝まで雨が降っていた。木製のギターには、特にビンテージのギターに湿気は大敵だと聞いていた。

夜、なんとか出来そうだということで、私は悠騎さんがいつも路上ライブをしている駅に向かった。22時半の出発だった。
私の家からその駅までは電車を3回乗り換えて1時間と少しかかる。初めて乗る電車、初めて降りる駅。途中、乗る電車を間違えながら、なんとか終電前に到着することができた。

終電が終わった後のその場所は街灯がない。いつもツイキャスでは小さなライトをつけて見えるようにしてくれているようだった。

0時半頃、長い階段を登ってくる音がした。その音がどんどん大きくなって来る。ドキドキしながらその方向を見ると、ギターを持った人が現れた。「わ!悠騎さんだ!本物だー!!」と私の緊張はMAXになっていた。ギターのハードケースにライダース、そして、思っていたより背が高い。表現し難いオーラと言うべきか、音楽人の空気をまとっているように見えた。

少し挨拶をして、悠騎さんはタバコに火を付けて、その場に座る。私は固唾を呑んでその一挙手一投足を見つめていた。ツイキャスで出逢ってから10ヶ月。やっと逢えた喜びと緊張で私はドキドキが止まらなかった。

「じゃあやろうか。」そう言って悠騎さんはギターを弾き始めた。最初の曲は「最後の雨」のカバーだった。

唄い始め、その声にとても驚いた。静かなその声が鼓膜を震わせるのを感じた。悠騎さんは私の後ろにあるシャッターに向かって7.8mほど離れて唄っている。天井はあるけれど、それ以外は風が吹き抜けていく屋外なのに、声がこの空間を包み込むように響いていた。すぐそばには高速道路が走っていて、トラックやバイクが大きな音を立ててひっきりなしに通る。それでも、声はかき消されない。

何曲かカバーを唄ったあと、楽しみにしていたオリジナル曲に。ツイキャスで聴いていた雄叫び。その音圧に寝不足も何もかも吹っ飛んだ。

なんじゃこりゃ!!!

ツイキャスでも凄い!って思っていたけど、生は比べ物にならないくらいの衝撃だった。私の乏しい言葉では表現しきれない、本当に全身に響く唄声だった。

途中、もうひとりお客さんが来られた。もう10年以上悠騎さんの路上ライブに来ている方だった。3時くらいまではツイキャスに繋げていたけど、それからは2人だけに唄ってくれた。なんて贅沢な時間だろう。

唐突だけど、私は職業カメラマンである。ツイキャスで観ていたときから、絶対にこの人は撮りたいと思っていた。仕事では依頼があれば何でも撮るけれど、プライベートでは好きなものしか撮らないと決めている。自分の心が動く瞬間にだけにシャッターを切る。
この日、初めて悠騎さんの写真を撮らせてもらった。これが後にあんな素敵なことに発展するとは。その話は長くなるのでまた後日書きたいと思う。



始発が来るまでの約5時間。ほとんど休憩なく唄ってくれた。あれだけの声量でも声は枯れなかった。私はたくさんの音と唄を浴びて、幸せな気持ちで満たされていた。こんなカッコ良くて素晴らしい音楽人と出逢えたことが本当に嬉しい。悠騎さんの背後に登る朝陽を感じながら、その喜びを噛み締めていた。



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